ちなみに筋力については、トレーニング方法が測定方法に近ければ伸びやすいです。アイソメトリックでトレーニングすればアイソメトリックの筋力が伸びやすいですし、アイソトニックでトレーニングすればアイソトニックの筋力が伸びやすいです。
前提知識として、各トレーニングモダリティの定義を書いておきます。
・アイソメトリック(等尺性筋収縮)
筋肉の長さを変えずに筋力を発揮する。
・アイソトニック(等張性筋収縮)
筋肉が一定の抵抗に対して伸縮運動を行う。いわゆる普通の筋トレ。
・アイソキネティック(等速性筋収縮)
筋肉が動く速さを一定に保ったまま筋力を発揮する。特殊なマシンが必要。
アイソメトリックとアイソトニックを比較した研究
(1)The Effects of Long Muscle Length Isometric versus Full Range of Motion Isotonic Training on Regional Quadriceps Femoris Hypertrophy in Resistance-Trained Individuals
https://www.researchgate.net/publication/395304403_The_Effects_of_Long_Muscle_Length_Isometric_versus_Full_Range_of_Motion_Isotonic_Training_on_Regional_Quadriceps_Femoris_Hypertrophy_in_Resistance-Trained_Individuals
<被験者>
若い男女23名、トレーニング歴あり、
<グループ分け>
被験者内 片脚がアイソメトリック、もう片脚がアイソトニック
<トレーニング方法>
ニーエクステンション(ダイナモメーター使用)
アイソメトリック:膝屈曲125度、30秒間全力で筋肉収縮。RPE10。
アイソトニック:膝屈曲125度から10度の範囲。コンセントリック1秒、エキセントリック2秒で30秒間。負荷は、主観的きつさのRPEが7以上になるように設定。平均RPEは8.8だった。
セット数 3セット(1,2週目)、4セット(3,4週目)、5セット(5,6週目)
セット間インターバル 90秒
脚間(グループ間)インターバル 3-5分
6週間 週2回
<測定方法>
大腿四頭筋の厚みを超音波で測定。前側3箇所、横側3個所。
<筋肥大結果>
ほぼ同等の筋肥大結果だが、アイソメトリックのほうがやや優位。
(2)Effect of static and dynamic exercises on muscular strength and hypertrophy
https://paulogentil.com/pdf/Effect%20of%20static%20and%20dynamic%20exercise%20on%20muscular%20strength%20and%20hypertrophy.pdf
<被験者>
若い男性49名
<グループ分け>
アイソメトリック 25名
アイソトニック 24名
<トレーニング方法>
立位で片腕のみ
- ダンベルアームカール
- ダンベルプレス
アイソメトリック:1RMの3分の2の負荷を15秒間かけ続ける(アイソトニックトレーニングと同等の時間と負荷)。アームカールは肘角度100度、プレスはボトムポジションで。
アイソトニック:いずれの種目も5RM、3セット、セット間インターバル3分。
両種目3セット セット間インターバル3分
6週間 週3回
<測定方法>
力こぶを作った時の上腕の太さ
<筋肥大結果>
アイソメトリック +0.59cm
アイソトニック +1.22cm
<その他>
被験者はアイソメトリック動作に否定的な感想だった。強い力を出しても何も起こらない(ウェイトが動いたりしない)のは苛つくし退屈とのこと。プレス動作のアイソメトリックでは、何人かの被験者は、肩に不快感があると訴えた(プレスのボトムポジションで、ストリクトにアイソメトリックで強い力を出すので、肩に負担がかかると思われる)。
(3)Human muscle strength training: the effects of three different regimens and the nature of the resultant changes.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1192197/
<被験者>
若い男女 12名 トレーニング歴なし
<グループ分け>
アイソメトリック:6名、片脚のみトレーニング、もう片脚は何もしない
アイソトニック:6名、片脚がコンセントリック、もう片脚がエキセントリック
<トレーニング方法>
レッグエクステンション
・アイソメトリック
80%1RMの強さで4秒収縮→2秒レスト、これを6回で1セット、合計4セット。膝角度はたぶん90度。この論文の手法で筋力測定をしたと書かれているので、おそらくアイソメトリックトレーニングもこれと同じ膝角度。
・コンセントリックのみ
6RM×4セット、動作範囲膝屈曲0度-135度、エキセントリックフェーズはスタッフが補助。
・エキセントリックのみ
6RM×4セット、動作範囲膝屈曲0度-135度、コンセントリックフェーズはスタッフが補助。負荷はコンセントリックの約145%(エキセントリックで6RMの重量)。
セット間インターバル1分
12週間 週3回
<測定方法>
CT 大腿四頭筋の断面積
<筋肥大結果>
グループ間で有意差なし
アイソメトリック +4.8%
コンセントリックのみ +5.7
エキセントリックのみ +3.4%
<その他>
アイソメトリックグループは、2人の被験者が一週目に痛みと硬さを訴えたが、翌週以降は解消。
(4)Effects of static and dynamic training on the stiffness and blood volume of tendon in vivo
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.91381.2008
<被験者>
若い男性10名
<グループ分け>
被験者内 片脚ずつ
アイソメトリック
アイソトニック
<トレーニング方法>
レッグエクステンションマシン
・アイソメトリック:膝90度、70%1RM、15秒収縮を10回、インターバル30秒。
・アイソトニック:膝角度0-90度、80%1RM、コンセントリック1秒、エキセントリック3秒、10レップ×5セット、セット間インターバル1分。
12週間 週4回
<測定方法>
MRIで大腿四頭筋の断面積、1cm間隔で測定して大腿四頭筋の体積を算出。
<筋肥大結果>
グループ間で有意差なし
アイソメトリック +4.5%
アイソトニック +5.6%
<その他>
アイソメトリックグループは、膝蓋腱が硬くなった。膝蓋腱の硬さは、SSCを伴うジャンプ系の動作におそらく悪影響がある。腱が硬いゴムみたいになってSSCが有利になるかと思ったら、硬いと逆に弾性エネルギーの利用が不利になるらしい。
アイソメトリックは膝蓋腱への血流がアップしないけど、アイソトニックは血流アップした。腱の組織修復には血流アップしたほうが良いと思われる。
(5)Do isometric, isotonic and/or isokinetic strength trainings produce different strength outcomes?
https://www.researchgate.net/publication/319198312_Do_isometric_isotonic_andor_isokinetic_strength_trainings_produce_different_strength_outcomes
<被験者>
若い男性31名 トレーニング歴なしだが運動は日常的に行っている
<グループ分け>
アイソメトリック 11名
アイソトニック 10名
アイソキネティック 10名
<トレーニング方法>
レッグエクステンション
いずれのグループも、当該トレーニングモダリティにおける1RMの75%の負荷でトレーニング。10レップ×4セット、セット間インターバル1分。
・アイソメトリック:膝角度90度、70度、50度、30度で1セットずつ。ターゲットの負荷になるまで収縮→1秒休みを10回。
・アイソトニック:上げ1秒 おろし1秒
・アイソキネティック:角速度90度/s、膝屈曲レンジ0-90度、収縮1秒、おろしは受動的に。
8週間 週3回
<測定方法>
DEXAで下肢の筋肉量
<筋肥大結果>
アイソメトリック +3.1%
アイソトニック +3.9%
アイソキネティック 筋肥大無し
コメント
私は、アイソメトリックトレーニングでは通常の筋トレに比べて筋肥大効果が低いと思い込んでいたので、今回調べてみて目からウロコでした。
1レップ10秒以上かけるスーパースロートレーニングでは筋肥大効果が低下するため、その極地であるアイソメトリックトレーニングでも筋肥大効果が低くなると思い込んでいたようです。
スーパースロートレーニングで筋肥大効果が低下する理由としては、1レップ10秒以上の動作が可能な軽い負荷ではメカニカルテンションが弱くなること、また主働筋よりも先にスタビライザーやメンタル面が疲弊しやすいことが理由だと考えられます。
アイソメトリックトレーニングでも、強い負荷をかけて十分なメカニカルテンションを筋肉に与えれば、高い筋肥大効果を得られそうです。
また、アイソトニックトレーニングは、狭い動作範囲であっても、筋肉が伸ばされたレンジならば高い筋肥大効果があることが示されています。
関連記事:パーシャルとフルレンジの筋肥大効果の比較
同様に、アイソメトリックトレーニングも、筋肉が伸ばされた状態で行ったほうが、筋肉が短縮されたポジションでのトレーニングよりも、筋肥大効果が高くなります。
アイソトニックトレーニングの動作速度と動作範囲をゼロにしたものがアイソメトリックトレーニングだと考えると、アイソメトリックトレーニングの効果も普通の筋トレと地続きで捉えられるようになります。
以上より、アイソメトリックトレーニングで高い筋肥大効果を得るには、以下の条件を満たすことが重要だと考えられます。
・筋肉が伸ばされたポジションで負荷をかける
・1セット20~50秒程度を複数セットおこなう
・70%1RM以上の強い負荷をかける
・セット中は継続的に収縮させるのでも間欠的に収縮させるのでもどちらでも良い
・スタビライザーやメンタルが先に疲労しないようにする
これらは筋肥大効果にのみ着目した場合の話です。実践面を考えると次のような理由から、通常の筋トレができる環境ではアイソメトリックトレーニングは実用性に欠ける印象です。
・関節に負荷がかかりやすいポジション(例:膝を深く曲げた姿勢やプレス動作のボトムポジション)で全力に近い力を出し続けると、関節を痛めるリスクがある。
・アイソメトリックトレーニングでは腱が硬くなり、弾性エネルギーの利用が非効率になるリスクがあるため、運動パフォーマンスの向上を目的とする場合は通常の筋トレの方が適している。
旅行先などで十分な負荷を用意できないときに、自重トレーニングの補助として取り入れるのが、現実的な使い方として考えられそうです。
スーパースロートレーニングで筋肥大効果が低下する理由としては、1レップ10秒以上の動作が可能な軽い負荷ではメカニカルテンションが弱くなること、また主働筋よりも先にスタビライザーやメンタル面が疲弊しやすいことが理由だと考えられます。
アイソメトリックトレーニングでも、強い負荷をかけて十分なメカニカルテンションを筋肉に与えれば、高い筋肥大効果を得られそうです。
また、アイソトニックトレーニングは、狭い動作範囲であっても、筋肉が伸ばされたレンジならば高い筋肥大効果があることが示されています。
関連記事:パーシャルとフルレンジの筋肥大効果の比較
同様に、アイソメトリックトレーニングも、筋肉が伸ばされた状態で行ったほうが、筋肉が短縮されたポジションでのトレーニングよりも、筋肥大効果が高くなります。
アイソトニックトレーニングの動作速度と動作範囲をゼロにしたものがアイソメトリックトレーニングだと考えると、アイソメトリックトレーニングの効果も普通の筋トレと地続きで捉えられるようになります。
以上より、アイソメトリックトレーニングで高い筋肥大効果を得るには、以下の条件を満たすことが重要だと考えられます。
・筋肉が伸ばされたポジションで負荷をかける
・1セット20~50秒程度を複数セットおこなう
・70%1RM以上の強い負荷をかける
・セット中は継続的に収縮させるのでも間欠的に収縮させるのでもどちらでも良い
・スタビライザーやメンタルが先に疲労しないようにする
これらは筋肥大効果にのみ着目した場合の話です。実践面を考えると次のような理由から、通常の筋トレができる環境ではアイソメトリックトレーニングは実用性に欠ける印象です。
・関節に負荷がかかりやすいポジション(例:膝を深く曲げた姿勢やプレス動作のボトムポジション)で全力に近い力を出し続けると、関節を痛めるリスクがある。
・アイソメトリックトレーニングでは腱が硬くなり、弾性エネルギーの利用が非効率になるリスクがあるため、運動パフォーマンスの向上を目的とする場合は通常の筋トレの方が適している。
旅行先などで十分な負荷を用意できないときに、自重トレーニングの補助として取り入れるのが、現実的な使い方として考えられそうです。
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