10/02/2024

運動をすると認知機能がアップするという研究

運動(筋トレや有酸素運動)の認知機能への影響を調べた研究を見ていきます。

「高齢化社会が進み、高齢者の認知機能の低下は社会的に大きな問題になっている。運動は、身体の健康面にプラスの効果があることは多くの研究で示されているが、認知機能の面でも効果があるなら、高齢化社会への効果的な処方箋となるだろう」といった感じの研究が多いです。

それと、学齢期(5歳~18歳)の子供・青少年の認知機能・学業・メンタルヘルスにも運動が効果的という研究が出てきているので紹介します(自分に学齢期の子供がいるので興味がある)。

20代~50代くらいの人の認知機能をアップさせる効果があるのかは、研究が乏しいため不明です。


(1)Lifting cognition: a meta-analysis of effects of resistance exercise on cognition
https://www.researchgate.net/publication/330273356_Lifting_cognition_a_meta-analysis_of_effects_of_resistance_exercise_on_cognition

筋トレの認知機能への長期的な効果を調べたメタアナリシス。(2020年)

メタアナリシスの対象研究は被験者が18歳以上のものですが、ほとんどが高齢者が被験者の研究です。

認知機能の各分野への筋トレの効果は、
・認知機能の低下テスト分野(MMSEなど)では、筋トレは高い効果を示した。
・実行機能分野(ストループテストTrail Making Testなど)では、筋トレはほどほどの効果を示した。
・ワーキングメモリ分野(digit span taskRey Auditory Verbal Learning Testなど)では、筋トレは効果なしだった。

この論文での、筋トレが認知機能に効果を及ぼす推測メカニズムは、
・筋トレ自体が注意力・集中力を要求するので、注意力・集中力が鍛えられるのではないか。
・筋トレによる神経形成・血流・ホルモンなどへの好影響があるのではないか。



(2)Exercise interventions for cognitive function in adults older than 50: a systematic review with meta-analysis
https://bjsm.bmj.com/content/52/3/154.long

運動が認知機能に及ぼす長期的な影響を調べたシステマティックレビュー・メタアナリシス。50歳以上が対象。(2018年)

解析対象の運動は、有酸素運動、筋トレ、太極拳、ヨガ。

結果は、ヨガ以外は認知機能改善にプラスの効果があった。有酸素運動と筋トレは同程度の効果量だった。有酸素運動と筋トレを両方やっても、効果量は増えたりはしていない。

運動時間が45分以下だと、それより長い運動時間よりも効果が低い(短時間の運動は効果が低い)。

頻度は、週5回以上だと効果量が大きいが、週3-4回でも週2回以下でもそれなりの効果量がある。

運動強度は、低強度よりも、中強度・高強度のほうが良さそう。

認知機能の種類は、包括的認知機能、注意、実行機能、記憶、ワーキングメモリーで、包括的認知機能については有意差が出なかったが、それ以外の認知機能には運動は効果有り。筋トレは、実行機能、記憶、ワーキングメモリーへの効果が高そう。(ワーキングメモリについては(1)の研究と齟齬がある。理由は不明)

この論文での、筋トレが認知機能に効果を及ぼす推測メカニズムは、脳の神経や血管の形成、抗炎症・抗酸化作用など。



(3)Acute Effects of Resistance Exercise on Cognitive Function in Healthy Adults: A Systematic Review with Multilevel Meta-Analysis
https://www.fisiologiadelejercicio.com/wp-content/uploads/2019/03/Acute-Efects-of-Resistance-Exercise-on-Cognitive-Function.pdf

筋トレ直後の認知機能への効果を調べたシステマティックレビュー・メタアナリシス。(2019年)

運動直後の認知機能アップ効果は、筋トレと有酸素運動で同等。

論文では、スポーツのウォームアップに筋トレを入れると、認知機能を高めることで、不注意による怪我を防いだり、競技での判断能力を上げたりできるのではないかと提案している。

筋トレ直後の認知機能アップの持続時間は不明。数十分程度か。運動の強度や時間によって変わると思われるが、研究デザインがまちまち。

推測メカニズムは、脳への血流の増加、コルチゾールレベルが上昇することによる覚醒・集中によるものではないか(プリミティブな観点で言えば、ストレスレベルが上昇した状態は、fight or flightで個体の生存がかかった状態なので、脳が覚醒して集中するのでしょう)。

関連記事:ストレスについて-身体反応と管理方法-



(4)Strength training does not influence serum brain-derived neurotrophic factor
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20467874/
筋トレの認知機能への影響について調べた研究で、若い成人が被験者になっているものだと、この論文くらいしか見つかりませんでした。筋トレは記憶力に効果なしという結果。



(5)Effects of Resistance Training on Academic Outcomes in School-Aged Youth: A Systematic Review and Meta-Analysis
https://link.springer.com/article/10.1007/s40279-023-01881-6

子供・青少年(5-18歳)が対象で、筋トレの学業への影響を調べたシステマティックレビュー・メタアナリシス。(2023年)

継続的な筋トレは認知機能、学業、授業態度に小さいがプラスの効果。

筋力・筋持久力と、認知機能、学業の関連性は非常に小さいプラスの影響。


筋力・筋持久力とワーキングメモリーの関連性が強い。一方で、新たな状況への適応力や、問題を解決したりパターンや関連性を見つけたりといった能力には、非常に小さな効果しかなかった。

有酸素運動も子供・青少年の認知機能、学業に効果があることが示されている(もともと有酸素運動の効果のほうが先に研究されていて、じゃあ筋トレはどうなのって流れです)

筋力・筋持久力は、国語(その国の言語を学ぶ教科)よりも、数学の成績への関連性が強かった。数学はワーキングメモリーが要求されるからかもしれない。

筋トレが学業成績などに影響を及ぼすメカニズムはよくわかっていないが、自己管理して筋トレに取り組むことが行動面を改善したり、怪我をしないよう集中してトレーニングに取り込むことが認知機能アップにつながるのではないか。



(6)Physical Activity for Cognitive and Mental Health in Youth: A Systematic Review of Mechanisms
https://www.researchgate.net/publication/306352326_Physical_Activity_for_Cognitive_and_Mental_Health_in_Youth_A_Systematic_Review_of_Mechanisms

身体活動が、若者のメンタルヘルスと認知機能に影響を及ぼすメカニズムについて調べたシステマティックレビュー。(2016年)

・神経生物学
脳の発達、脳の働きにプラス効果。

・メンタル
自分の身体に自信を持つ。
人との繋がりを得られる。
運動すると気分が改善。

・行動面
運動するとよく眠れる(睡眠不足だと認知機能低下)。
物事に主体的に取り組むスキルが運動で磨かれる。



コメント

メカニズム的には、運動は、認知機能の正常な状態からの下振れを防ぐ感じがするので、座りっぱなし(7)や肥満(8)(9)で認知機能に悪影響が出ている場合は、運動するとプラスの効果があると思われます。脳も、血液やホルモンの影響を受ける器官なので、身体が不健康な状態になれば、脳も不健康な状態になって機能が低下するのでしょう。

健康体で若い成人は、運動しても認知機能がアップしない気がします。そのまま健康ライフを続けると、老後も高いQOLを維持できると思います。子供・青少年は、なるべく運動をしたほうが良いでしょうね。部活などの継続的な運動は、非認知能力も鍛えられます。

私は筋トレを続けられる性格・生活環境なので続けていますが、筋トレを続けられるかどうかは人によります。筋トレでなくても効果はあるので、何らかの運動を続けていくと、認知機能を正常に保ちやすくなるでしょう。

(7)Accelerometer-Measured Sedentary Behavior Patterns, Brain Structure, and Cognitive Function in Dementia-Free Older Adults: A Population-Based Study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10657675/

(8)Diet, inflammation and the gut microbiome: Mechanisms for obesity-associated cognitive impairment
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925443920301125?via%3Dihub

(9)Obesity-related cognitive impairment: The role of endothelial dysfunction
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6834913/




0 件のコメント:

コメントを投稿