8/28/2021

ベンチプレスでの肩甲骨の動き

最近、苦手なベンチプレスをちゃんとやろうと試行錯誤しているのですが、身体の使い方が結構しっくりくるようになってきました。

ベンチプレスは日本のレベルが非常に高くて、トップレベルのベンチプレッサーの方々が解説しているYouTubeが勉強になります。中でも鈴木佑輔選手の動画がわかりやすくて、自分には合っていました。


動画:ベンチプレス動作 詳細解説【SBDアスリート】鈴木 佑輔
https://www.youtube.com/watch?v=3l7IIc9Cx1Y


肩甲骨と腕の動きを理解する上で前提となる考え方が、

バーがトップポジション付近にある時(a)と、バーがミドルレンジを上下動する時(b)とでは、安全性と出力面で最適となる肩甲骨と腕の位置が異なる。

(a)「バーがトップポジション付近にある時」というのは、ラックアップ直後と、一度下ろしてから挙げていき、最後に肘を伸ばし切る位置です。

(b)「バーがミドルレンジを上下動する時」は、ラックアップ後に肘を絞ってスタートポジションに持っていき、そこからボトム付近まで下げて挙げてをするレンジです。


(a)と(b)とで、肩甲骨と腕の位置が違ってくるので、(a)から(b)、(b)から(a)にバーが移動するときは、それに合わせて肩甲骨と腕の位置を変えると、怪我リスクを小さくしつつ、高い出力を出せるフォームになります。





ベンチプレス時の肩甲骨と腕の動き

一肌脱いで動画を撮ったので、それを使って説明します。81cnmラインに小指か薬指が当たるナロー寄り手幅(小柄な人はそれよりも狭い手幅)、グリップはニュートラルで握って、斜め軌道で乳首より下側に下ろして、ボトムで脇角度が45度くらいになるフォームを想定しています。ブリッジが高くなくても安全にベンチプレスが出来るので、趣味の筋トレにはこのフォームがおすすめです。

動画:ベンチプレス背中動画
https://www.youtube.com/watch?v=Cq6TCZk6-CA


<背中のアーチを作る>

肩甲骨を起こす(肩甲骨の後傾)イメージで、胸椎の上の方を伸展させます。そして鼻から大きく息を吸いながら胸を膨らませて、胸を張りつつ肩甲骨を後ろに引きます。胸を張って肩甲骨を後ろに引くと、肩甲骨は少し寄ります。あまり寄せすぎると肩甲骨と上腕骨の接点(肩関節)が不安定になりやすいので、結果として軽く寄る程度が良いと思います。



肩甲骨を後ろに引くことで、肩甲骨が立つ動きと肩甲骨の寄せ(内転)が同時に起きます。脇を締める意識を持ちながら肩甲骨を引くのがポイントです。脇を締めようとすると前鋸筋に力が入り肩甲骨が安定します。

なぜ肩甲骨を後ろに引くと良いのかというと、肩甲骨を後ろに引くことで、上腕骨と肩甲骨の軸が近くなり、バーベルの負荷を受けやすくなるからです(実際にはこんなに立ってないかもしれませんが。軸の違いを説明するためのイメージ図です)


肩甲骨の下制については、肩をすくめなければ、ほどほどの下制で良いかなと。ゴリゴリ下に押し付けると、肩甲骨の動きが妨げられることがあります。基本的には、バーベルを下ろして挙げる時に上腕骨に連動して肩甲骨がスムーズに動けばOKです。

肩関節が身体の前側にある状態でベンチプレスをすると肩を痛めやすいので、胸を張って肩甲骨を後ろに引くことで、肩関節を身体の後ろ側に持ってきます。ベンチプレスは、肩と肩甲骨が身体の後ろ側にある状態で、バーベルの上下とともに上腕骨と肩甲骨が動きます。ロウ動作や腕立て伏せは、肩甲骨が身体の前側と後ろ側を行ったり来たりしますが、ベンチプレスは身体の後ろ側だけで肩甲骨が動きます。





<ラックアップ>

ラックアップ時点では握り方は逆ハの字、手首は少し立て気味にして、肘を伸ばしてラックアップします。次の段階で肘を絞ってスタートポジションに持っていくのですが、ラックアップの時に逆ハの字にすると、肘を絞った時に手首がちょうどニュートラルになってピタッとはまります。(このやり方の場合、尻はベンチにつけっぱなしです)


先に肩甲骨と腕をスタートポジションにセットして、それからラックアップするやり方もあります。例えば、下の動画のように尻を浮かせてバーを受けて、尻をベンチにつけるやり方です。個人的には、尻をベンチにつけっぱなしで、ラックアップしてからスタートポジションにセットしたほうが簡単だと感じますが、体幹と肩周りを安定させられるなら、どちらでも良いでしょう。

動画:Advanced Bench Press Self-Unrack
https://www.youtube.com/watch?v=8l2hMp21poo


<肘を絞ってスタートポジションへ>

肘を内側に絞ります。具体的に書くと、肩甲骨の下方回旋、上腕骨の外旋、手首の背屈(手首を返す)を同時に行い、胸を押し出します。グリップはニュートラル付近になります。


挙上距離を短くする2段階目フォームの場合、追加で肩甲骨内転と肘を少し曲げる動きが入ると思います。下は具体例の動画です(下の動画のフォームは、ワイド手幅、逆ハの字グリップです。手幅と握り方については次の記事で書きます)。

動画:ベンチプレスが強くなる技!ロックしながらバーを下げる。肩甲骨の寄せ!
https://www.youtube.com/watch?v=uvJy4LWtvbs&t=2s



<バーを下ろす>

大胸筋でバーベルの重さを支えるのでなく、前腕骨、上腕骨、肩甲骨で支えてながら下ろしていきます。前腕骨→上腕骨→肩甲骨→ベンチと負荷を流して、ベンチから反力を得るイメージです。骨と筋肉の使い方が腕立て伏せの下ろし動作と近いので、腕立て伏せに慣れておくと感覚が掴みやすいです。

関連記事:肩周りの安定性強化のための腕立て伏せ

下ろすときの肩甲骨は内転、それに下方回旋が少し合わさった動きです。上腕骨が水平外転するのでそれに合わせて肩甲骨は内転、上腕骨は少し内転(脇を閉じる動き)もするのでそれに合わせて少し下方回旋です。それと、挙げるフェーズで説明するのですが、挙げるときにおそらく肩甲骨が立っているので、その逆で肩甲骨の内側が肋骨に近づく動きがあります。


<ボトム>

ボトムはバーを胸につけるか、自然に止まるところまでいったら切り返します。肘の位置を微調整して胸付近で止まるようにするのが良いと思います。

ボトムで前腕が大きく傾き、肘が横方向や足元方向に曲がりすぎていると、上腕三頭筋がよほど強くない限りは、力が横方向や下方向に逃げやすいです。前腕を傾けすぎず、前腕をなるべく立てながら下ろしていき、肘がロックされた状態で負荷を受けます。この練習にも腕立て伏せがおすすめです。腕立て伏せのボトムの状態で静止して、大胸筋の力に頼らず、いかにこのポジションを楽に維持できるか試してみるとコツを掴みやすいと思います。


胸の厚みがあまり無かったり、胸椎の柔軟性が足りなかったり、肩甲骨の動きが足りなかったりすると、バーが胸に届きにくいです。そのような場合は、胸から離れたところで止まるなら、そこで止めてOKです。負荷が逃げずに、自然に骨格でガッシリとまるところがボトムです。筋肉が増えれば胸の厚みは増しますし、モビリティワークを続けていれば胸椎と肩甲骨周りの柔軟性も徐々に改善されていくので、快適に安全に動かせるレンジを覚えるのを優先したほうが良いと思います。



<挙げる>

肩甲骨を安定させて、肩が前に出ないように意識しながら、胸と腕のちからで押します。挙上の最終局面でトップポジションまで押し切る時に、上腕骨を少し内旋して肘が外側を向くようにすると肩が前に出にくくなります(肘を絞ったまま押し切ると、肩が前に出やすいです)。

肩甲骨は下ろす時と逆の動きで、外転と少しの上方回旋になります(脇角度が大きくてバーの軌道が垂直に近いフォームだと、上方回旋・下方回旋の動きはほぼなくなると思います)。

それと、腕を前に出した時に、肩甲骨の内側が少し後ろに行きます。肩甲骨がこの動きをすることで、ベンチプレスで肩の怪我リスクを低くするのに重要な以下のポイントが満たせるようになります。

・肩関節の位置を動かさない。

・上腕骨と肩甲骨がなるべく同一平面上にあるようにする。


肩甲骨の動きを具体的に書くと、

・挙げるフェーズで上腕が前に行くときは、肩甲骨は外転+肩甲骨の内側が立つ。

・下げるフェーズで上腕が後ろに行くときは、肩甲骨は内転+肩甲骨の内側が寝る。

ちなみにボトムで「骨格で止まる」というのは、肩甲骨の内側が胸郭に押し付けられて、肩甲骨と腕が止まることです。

下は上腕骨と肩甲骨の動きをGIFアニメにしたものです。肩関節(上腕骨と肩甲骨の接点)の位置がズレず、上腕骨と肩甲骨の軸が近い状態を維持できているのがわかると思います。
バーの上げ下げの時に肩甲骨は外転・内転する、と解説されているのは見たことがあるのですが、「そうすると肩関節の位置がズレるなあ・・・」とモヤモヤしていたのですが、自分の身体の動きを観察したりして、肩甲骨が立ったり寝たりしている!と気付いたのはアハ体験でした。

<反復>

慣れないうちや、軽めの重量で高レップやるときは、息を止めて胸郭と胸椎を固定したまま、トップポジションまで押し切らず(肘を伸ばしきらず)、再び下ろし始めるとやりやすいと思います。(b)「バーがミドルレンジを上下動する時」のレンジのみでの動作です。先程の鈴木佑輔選手の動画の冒頭で、トップまで押し切らずレップを重ねていますが、あの動きです。

トップポジションまで押し切った場合は、肩甲骨と上腕骨の位置をセットしなおす必要が出てきます。その場合は、再び肘を絞って肩甲骨を下方回旋してスタートポジションにセットしなおしてから下ろすと、肩を痛めにくくなります。息継ぎは、トップポジションまで押し切ってからするとフォームが安定すると思います。


肩甲骨と上腕骨のコントロール練習

ベンチプレスでは、重たいバーベルを持ち上げた状態で肩甲骨と上腕骨を正確にコントロールする必要があります。肩甲骨と上腕骨の動きがイマイチな場合は、コントロールの練習をしておくと、ベンチプレスで肩を痛めにくくなります。練習は2段階に分けて考えるとスムーズにいきます。

ステップ1. 肩周りや胸椎の柔軟性が足りない場合は、まず肩甲骨が動くようにする。胸椎も伸ばせるようにする。

ステップ2. 自分の意思で肩甲骨や上腕骨を自在に動かせるようにする。

肩甲骨を動かすのが苦手な場合は、下の関連記事で紹介しているエクササイズをやっていくと、細かい筋肉が使えるようになって肩甲骨のコントロールが出来るようになると思います。

関連記事:肩甲帯のトレーニング(プッシュ・プル動作に重要)


ベンチプレス向けには以下のエクササイズもおすすめです。

シャツを着て壁に背中を当てながら、肘を絞って肩甲骨を下方回旋する動きを繰り返します。壁に寄りかかりながら行うことで、肩甲骨の動きがわかりやすくなります。腕と肩甲骨が連動して動くのを意識しながら、大げさに動かします。



手を壁について、上腕骨の内旋&肩甲骨の上方回旋、上腕骨の外旋&肩甲骨の下方回旋を繰り返します。腕と肩甲骨が連動して動くのを意識しながら、大げさに動かします。



肩甲骨を後ろに引くのが苦手な場合は、立甲意識の肩甲骨プッシュアップをすると良いと思います。手幅を広くして斜め方向に床を押しながら、斜め後ろ方向に肩甲骨を出します。肩甲骨剥がしのように背中に翼が生える必要はないので、肩甲骨が少し立つだけでOKです。最初は膝を床につきながら。


普通の肩甲骨プッシュアップはこういうのです。これだと上腕骨と肩甲骨の軸がズレますね。
動画:Scapular Push Up
https://www.youtube.com/watch?v=huGj4aBk9C4



あと、立甲についてよく知らなかったのでざっと調べてみましたが、胸郭と肩甲骨の間を安定させ、かつ上腕骨と肩甲骨の軸を近づけ、下半身-体幹-肩甲骨-腕と力を伝えやすくする意図みたいです。肩甲骨の位置をコントロールすることで、上腕骨頭を有利なポジションで受けるという点では、望ましい身体機能に即した考え方です。

なんでもかんでも立甲すればいい、みたいな動画も見受けられますが、立甲は手段であって目的ではないです。肩甲骨と胸郭の間(肩甲胸郭関節)を緩めすぎて、肩周りが不安定になるなら、身体機能面ではマイナスでしょう。


長くなったので・・・グリップとブリッジについては次の記事に!

関連記事:ベンチプレスのバーの握り方とブリッジ


参考サイト:

ベンチプレス時の骨格動作の解説

立甲にも質がある。

続・立甲を再考する

4 件のコメント:

  1. ベンチプレスが苦手なので勉強になります。
    お恥ずかしい話ですがバーベルをラックアップしたときから
    バーベルの右だけ下がるのです。

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  2. 以前、鈴木さんにジム友数人でグループパーソナルを受けに行ったことがありますが、それはそれは有意義でした。

    自分もベンチは苦手ですし、怖かったのもあったんですが、少なくとも怪我の恐怖は無くベンチができるようになりました。ご時世柄、直接のパーソナルは難しいかもですが、世の中落ち着いたら是非とも受けてみてください。

    ホントにおすすめですよ。

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  3. 匿名さん、コメントありがとうございます!

    右側が下がるということは、おそらくですが

    ・肩甲骨の位置・動きに左右差がある。右の肩甲骨が寄りすぎている、もしくは左の肩甲骨が後ろに引けていない。
    ・体幹がねじれていて、胴体が右側に傾いている。


    重りを持たなくて良いので、固い床の上でベンチプレス(フロアプレス)の動きをしてみると原因がわかりやすいと思います。

    ラックアップのポジションで静止して、首を起こして自分の胸が傾いているかどうかチェックしてみてください→傾いているなら体幹がねじれています。

    次に腕を上げ下げしてみて、肩甲骨が引けていれば(肩甲骨が立っていれば)、床に肩甲骨がゴリゴリ当たります。左右均等に当たるかどうかチェックしてみてください。


    肩甲骨が左右均等に動かないなら、肩甲骨を動かせるようにしましょう。肩甲骨と体幹のねじれがリンクしていることも多いので、まずは肩甲骨コントロールの練習をするのが良いと思います。

    ある程度肩甲骨が動かせるようになったら、足上げダンベルベンチプレスで、左右均等に上げ下げできるように練習するのがおすすめです。その際、息を胸いっぱいに吸い込むと体幹のねじれが抑制されやすくなります。

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  4. Daiさん、コメントありがとうございます!

    YouTubeで鈴木選手のパーソナルの様子を撮影した動画を見たことがありますが、丁寧にその人にあった教え方をしていて、素晴らしいなと思いました。競技実績がすごくても競技基準のフォームでしか教えられないトップ選手もいるので、鈴木選手は稀有な存在だと思います。人体への理解が深いのでしょうね。

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