6/16/2023

週150分以上の筋トレで死亡リスクが高まるという研究


週に2時間半以上の筋トレは危険?
https://www.yomiuri.co.jp/column/naruhodo/20220617-OYT8T50014/

(1)Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies
https://bjsm.bmj.com/content/56/13/755

このメタアナリシス研究では、週の筋トレ時間が30-60分程度だと、何もしないのと比較して死亡リスクや疾患リスクが下がるけど、筋トレ時間が週150分を超えるくらいから、何もしないよりも死亡リスクが高くなるという結果になっています。(グラフは横軸が週の筋トレ時間、縦軸が筋トレ時間ゼロに対しての相対リスク)




これを最初に見た感想は、「え?たった週150分の筋トレでアウトなの? ある程度まじめにトレーニングすると余裕で超えてしまう」でした。


しかし、よく考えてみると、全く何も運動しないのに比べて、50分×3日の筋トレのほうが健康に害があるとは、直感的に信じにくい。トップビルダーみたいに歯を食いしばりながら2時間×週6日とかなら健康に悪くても仕方がないかなと思いますが、週150分程度の筋トレなら感覚的には健康に良さそうに思えます。そもそも筋トレといっても、HIITやタバタプロトコル、自重、バーベル、ダンベル、マシントレーニングなど様々ですし、普通のジムに通う多くの人はそれほど激しい筋トレはしていません。

このメタアナリシスだけでは、年齢や筋トレ以外の運動など他の条件がまったく不明なので、解析対象になっている研究を個別に見ていくことにしました。

長くなるので結論を先に書きますと、

・週150分以上の筋トレで死亡リスクが上がるのは、おそらく高齢者が長時間の有酸素運動と合わせて行った場合。トータルの運動量が多さが要因と考えられる。

・若い人や中年の人は、筋トレ時間は気にしなくていい(常識の範囲内で)。

・一部のデータは、喫煙者が高ボリュームの運動をすると死亡リスクが高まることを示している。




個別の研究

メタアナリシスにおけるウェイトが大きくて、内容が詳しいものを見ていきます。これらは、大勢の人に運動状況などをアンケートを取って、その人たちを10年以上追跡調査をして、死亡リスクや疾患リスクを比較した研究です。


(2)Strength Training and All‐Cause, Cardiovascular Disease, and Cancer Mortality in Older Women: A Cohort Study
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.117.007677

調査対象は、調査開示時点で平均62歳の女性。



死亡リスクのグラフは、先程のメタアナリシスと同様のカーブになっています(元になっている研究なので当たり前といえば当たり前ですが)。

各種データを見ていって気付いたのは、有酸素運動の時間の長さです。週150分以上筋トレをするグループは、中央値で、有酸素運動が週364分、筋トレと軽い運動を含めて週合計607分の運動をしています。調査開始時点で平均62歳で、その後、年を取っていっている女性にとって、この運動量はだいぶ多いですし、ここまで運動する人は滅多にいないでしょう(実際に全体の3.4%しかいません)。

筋トレ時間で分けられたグループごとの、有酸素運動を含めたトータルの運動時間をグラフにしてみました。



ちなみに週150分以上筋トレするグループのトータルの運動時間のIQR(四分位範囲)は437-943なので、このグループの25%の人は週943分より長時間の運動をしていることになります。毎日運動するとしても、一日平均で2時間15分以上の運動です。




(3)A Prospective Study of Weight Training and Risk of Type 2 Diabetes in Men
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3822244/

開始時点で40~75歳(平均値は見つからず)

この研究は糖尿病への筋トレ効果を調べるのがメインですが、死亡リスクについても数値を出しています。死亡の相対リスクは筋トレ時間ゼロに比べて、筋トレ時間が週1–59分のグループが0.88、週60–149分が1.04、週150分以上が1.11です。

こちらの研究は有酸素運動の時間は書かれていますが、トータルの運動時間が書かれていませんので、筋トレ時間+有酸素運動の時間をトータルの運動時間としてグラフにします。筋トレ150分以上グループは、有酸素運動の平均値が週に6.9時間、筋トレ時間は中央値が193分です。平均値と中央値を足すのは気持ちが悪いですが、他にデータがないのでやむを得ません。


 
糖尿病リスクの面では、全体として見れば、筋トレ時間が長くなると糖尿病リスクも下がっていきます。これは(1)のメタアナリシスと同様です。条件別に見ると、65歳以上は筋トレしても糖尿病リスクを下げにくい、BMI30以上は筋トレ時間が長くなると劇的に糖尿病リスクが下がる、といった面白いデータもあります。


留意点としては、(2)と(3)の研究での、筋トレ長時間グループの死亡リスク(相対リスク)は、調整前だと1未満です。だから何もやらない人よりは死亡リスクは低いです。このグループは健康への意識が高いためか、飲酒や喫煙の習慣、食事内容などの面で健康的な生活をする傾向があるので、これらの影響を除く調整をすると、相対リスクが1を上回るようになります(例えばタバコを吸っていないぶん死亡率が下がっているはずだから、筋トレの影響のみを見るためタバコのリスク分を上乗せしておく、という調整をしています)。ただ、調整前の相対リスクも、ほどほどに運動するグループよりは高いので、やはり運動のやりすぎは健康にマイナスと考えられます。



どうやら、アメリカの中高年で筋トレに熱心な層は有酸素運動にも同時に熱心で、筋トレのやり過ぎというよりも、運動のやり過ぎで死亡リスクが上がっているように見えます。この仮説を支持する他の研究もあります。


(4)Leisure-Time Running Reduces All-Cause and Cardiovascular Mortality Risk
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4131752/

この研究は、週あたりのランニングの時間と死亡リスクを調べています。

平均年齢は44歳。

ランニングも、ランニング時間が長くなると死亡リスクが上がっていく傾向です。心血管疾患の死亡リスクが、短い時間のランニングに比べて死亡リスクの上がり幅が大きいです。




(5)Leisure Time Physical Activity and Mortality: A Detailed Pooled Analysis of the Dose-Response Relationship
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4451435/

この研究は、運動量(METs)ごとの死亡リスクを調べています。

年齢の中央値は62歳。

死亡リスク(相対リスク)は低い水準ですが、週あたりのMET hが75を超えるグループは死亡リスクが上がっています。



https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/mets.pdf


死因別に見ると、心血管疾患の死亡リスクが運動量の増加に伴い上がりやすくなっています。



年代別に見ると、MET hが75以上だと、60代と70歳以上のグループは死亡リスクが上がっていく傾向があります。一方で、50歳未満と50代は、MET hが75以上でも死亡リスクが上がっていく傾向が見られません。



面白いのが、喫煙歴別に見た運動量ごとの死亡リスクです。喫煙歴無しだと運動量が多くても死亡リスクが変わらないのに対して、現在喫煙していると運動量が多くなると死亡リスクが上がっていきます。




(6)Long-Term Leisure-Time Physical Activity Intensity and All-Cause and Cause-Specific Mortality: A Prospective Cohort of US Adults
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.121.058162

平均年齢60代

運動量が非常に多くても死亡リスクは高まらないとする研究もあります。この研究では、合計週に18時間くらい運動するグループでも死亡リスクは高くなっていません(心血管疾患での死亡リスクは、ほどほど運動グループよりは少し高くなっています)


この研究では、METs6未満を「ほどほどの運動(Moderate Physical Activity)」、METs6以上を「激しい運動(Vigorous Physical Activity)」と定義しています。

ただ、ほどほどの運動を週に600分以上+激しい運動を週に300分以上だと、死亡リスクが上がっていく傾向が見られます。(下図の各グラフの右端の点が、ほどほどを600分以上+激しいを300分以上です)



有酸素運動のやり過ぎによる心血管へのダメージについては、メカニズムを推測する研究もあります。

(7)Running: the risk of coronary events †: Prevalence and prognostic relevance of coronary atherosclerosis in marathon runners
https://academic.oup.com/eurheartj/article/29/15/1903/509365

(8)Potential Adverse Cardiovascular Effects From Excessive Endurance Exercise
https://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196(12)00473-9/fulltext


筋トレで死亡リスク(主に心血管疾患死亡リスク)が高まるとするなら、そのメカニズムは何なのでしょうか。高齢者が重たいバーベルを担いでスクワットなどをすると、血圧が上がることで脳の血管にダメージが入りそうな感じはしますが・・・。



長時間の筋トレで死亡リスクが高まるかはおそらく条件次第

筋トレも有酸素運動も、様々な種類があります。

60代や70代になって、マラソンやトライアスロンの大会を目指しての有酸素トレーニングを長時間しつつ、タバタプロトコルみたいな激しい筋トレをするのだったら、死亡リスクが上がっていくのではないかと思います。

普通の高齢者が、ジムでインターバルを十分に取りながらマシンやダンベルで50分×週3回の筋トレ、それに加えて一日30分のウォーキングなど軽い有酸素をする程度だったら、健康にとても良いでしょう。

50代以下は、週150分以上の筋トレについては、それほど気にしなくていいと思いますが、自分の身体のキャパシティを超えるような高ボリュームの運動を続けるのは、どの年齢でも健康にはマイナスでしょう。

ただ、ハイペースでのランニングや筋トレをたくさんしたからといって、死亡リスクが何倍にもなるわけではないです。激しい運動が好きでどうしてもやりたいなら、やったらいいと思います。喫煙をせず健康的な生活を心がけ、適度に休息を取りながら行えば、何もしないよりは死亡リスクは低いでしょう。どのみち、全員いつかは死ぬのだから、好きなことをやって死んだほうがいいです。




おまけ。

ChatGPTにも聞いてみました。投げかけた文章は、「週に150分以上の筋トレをすると死亡リスクが高くなるという内容のブログ記事を書いてください」です。返ってきた回答がこちら。

タイトル:週に150分以上の筋トレと死亡リスク:バランスと個別の要素に注意が必要

イントロダクション: 筋トレは一般的に健康増進のための重要な活動とされていますが、最近の研究は、週に150分以上の筋トレが死亡リスクを増加させる可能性があることを示唆しています。この記事では、週に150分以上の筋トレが死亡リスクを高める要因と、バランスと個別の要素への注意が必要な理由について考察してみましょう。

  1. 過度の身体への負荷: 週に150分以上の筋トレは、適切な休息や回復の時間が限られることを意味します。適切な休息を取らない状態では、筋肉や関節に負担がかかり、怪我のリスクが高まる可能性があります。また、筋肉が十分に回復できない状態では、免疫システムの低下や炎症のリスクが高まるかもしれません。

  2. 心血管系への影響: 週に150分以上の激しい筋トレは、心血管系にも影響を及ぼす可能性があります。心拍数の急激な上昇や過度の負荷は、心臓に負担をかけ、心臓発作や不整脈のリスクを高めるかもしれません。特に、基礎的な心臓疾患や既存の健康問題を抱えている人々にとっては、注意が必要です。

  3. 個別の要素と遺伝的要因: 人々の身体的な適応能力は個人差があります。一部の人々は、週に150分以上の筋トレを行っても問題なく対応できるかもしれませんが、他の人々はそのような負荷に耐えることができない場合があります。遺伝的な要因や既存の健康状態によっても、筋トレに対する個人の応答は異なることを考慮する必要があります。

  4. バランスの重要性: バランスの取れたアプローチが重要です。週に150分以上の筋トレを行う場合でも、以下のポイントに留意することが重要です。

  • 適切なウォーミングアップとクールダウンを行う。
  • 適切なフォームとテクニックを守る。
  • 負荷と回数を段階的に増やして徐々に適応する。
  • 十分な休息とリカバリーを確保する。

結論: 週に150分以上の筋トレは、死亡リスクを高める可能性があることが示唆されています。しかし、バランスの取れたアプローチと個別の要素への配慮によって、リスクを最小限に抑えることができます。自身の身体能力、健康状態、および目標に合わせてトレーニングプログラムを設計し、個々の能力と限界に合わせて適切な負荷を選択することが重要です。また、定期的な健康チェックや医師との相談もおすすめです。健康と安全を最優先に考えながら、バランスの取れた生活を送ることが大切です。

 

・・・一般論としては申し分ないですね。AIヤバイ。懸念点は、申し分なさすぎて、AIの回答で満足してしまって、その先を考えようとしなくなるリスクですね。クリティカルシンキングがより重要になってきます。

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