https://journal.iusca.org/index.php/Journal/article/view/135/226
この論文はドロップセットのメタアナリシスで、普通の筋トレとドロップセットの効果を比較しています。普通の筋トレとドロップセットは、例えば以下のような方法を指します。
・普通の筋トレ:10レップ→3分休憩→10レップ→3分休憩→10レップ
・ドロップセット:10レップ→重量を下げてすぐさま5レップ→再び重量を下げてすぐさま5レップ→再び重量を下げてすぐさま5レップ
メタアナリシスでは、筋力と筋肥大について、普通の筋トレとドロップセットは同等の効果で、ドロップセットはセットの組み方によってはトレーニング時間を大幅に短縮することができる、という結論になっています。
メタアナリシスの中身を見ると、解析対象の研究が5つしかありません。ドロップセットの追加セット数や重量設定も研究によってまちまちです。より深くドロップセットの効果を調べるため、個別の研究を見て、実際の運用方法を考察していきたいと思います。
まずは、筋力向上効果について各研究の結果をまとめた図をメタアナリシスから引用します。筋力がどれだけ伸びるかは、実験期間中の強度設定次第ですし、ドロップセットを行う場合は筋肥大目的でしょうから、筋力については正直あまり見るべきものがありません。
次に筋肥大について、各研究の結果をまとめた図です。
以下、個別の研究内容を見ていきます。文章中での「合計ボリューム」は、重量×レップ数×セット数で表されるトレーニングボリュームのことです。
◆ANGLERI et al.(2017)
(2)Crescent pyramid and drop-set systems do not promote greater strength gains, muscle hypertrophy, and changes on muscle architecture compared with traditional resistance training in well-trained men
https://highfit.com.br/wp-content/uploads/2017/04/ANGLERI_2017_pyramid.pdf
被験者 若い男性(平均27歳) トレーニング歴有り(スクワット1RMは体重の1.3倍以上)
期間 12週間
種目 レッグプレス、レッグエクステンション
被験者内でグループ分け(被験者の片方ずつの脚をいずれかにグループ分け)
(a)6-12レップ 3-5セット 75%1RM インターバル2分
(b)75%1RMで限界セット+ドロップセット(重量を20%減らして限界まで→さらに重量を20%減らして限界まで) グループ間でボリュームを揃えるため規定のボリュームになったらドロップセットは途中で打ち切り インターバル2分
(c)ピラミッド方式 最初のセットは低強度・高レップで、強度を上げながらレップ数を下げていく。グループ間で合計ボリュームが揃うように変数設定 インターバル2分
<結果>
筋肥大については、大腿の筋肉の断面積を測定。グループ間で筋肥大に有意差無し。
合計ボリュームはグループ間で揃えている。
◆FINK et al.(2017)
(3)Effects of drop set resistance training on acute stress indicators and long-term muscle hypertrophy and strength
https://www.researchgate.net/publication/316737343_Effects_of_drop_set_resistance_training_on_acute_stress_indicators_and_long-term_muscle_hypertrophy_and_strength
被験者 若い男性(22歳) トレーニング歴はあるが直近一年以内はトレーニングしていない
期間 6週間
頻度 週2回
種目 トライセプスプッシュダウン(ケーブルマシン)
被験者間でグループ分け(被験者をどちらかにグループ分け)
(a)12RM 3セット インターバル90秒
(b)12RM+ドロップセット(20%ずつ重量ダウンしながら3セット) 1セット
両グループとも全セット限界まで実施。
<結果>
筋肥大については、腕の筋肉の断面積一箇所を測定。ドロップセットのほうが優位だった。
合計ボリュームは両グループで同じくらい(有意差なし)。
トレーニング時間は、ドロップセットが145秒で、普通の筋トレ3セットが316秒。
主観的なキツさは、ドロップセットのほうが上。
12RMの重量は普通の3セットが+25.2%、ドロップセットが+16.1%。グループ間での有意差は無しだが、被験者数が少なくて有意差が出なかったと思わる。
◆ENES et al.(2021)
(4)Rest-pause and drop-set training elicit similar strength and hypertrophy adaptations compared with traditional sets in resistance-trained males
https://www.researchgate.net/profile/Alysson-Enes/publication/353249036_Rest-pause_and_drop-set_training_elicit_similar_strength_and_hypertrophy_adaptations_compared_with_traditional_sets_in_resistance-trained_males/links/61846d160be8ec17a972692e/Rest-pause-and-drop-set-training-elicit-similar-strength-and-hypertrophy-adaptations-compared-with-traditional-sets-in-resistance-trained-males.pdf
被験者 若い男性(18-30歳) トレーニング歴有り(体重80kgでスクワット1RM140kgくらい)
期間 8週間
頻度 週2回
種目 バーベルバックスクワット、レッグプレス、二ーエクステンション
被験者間でグループ分け(被験者をいずれかにグループ分け)
(a)12レップ×4セット@70%1RM インターバル120秒
(b)10レップ@75%1RM+ドロップセット(6レップ@55%1RM) 3セット インターバル120秒
(c)10レップ@75%1RM→レストポーズ20秒休憩→6レップ@75%1RM 3セット インターバル120秒
これに加えて全グループが、スティフレッグデッドリフト、レッグカールを10レップ×3セット@70%1RM(インターバル120秒)で実施。
<結果>
筋肥大については、大腿(外側広筋と中間広筋)の横側3箇所の筋肉の厚みを測定。グループ間で有意差なし。
合計ボリュームはグループ間で揃えている。
◆VAROVIC et al.(2021)
(5)Drop-Set Training Elicits Differential Increases in Non-Uniform Hypertrophy of the Quadriceps in Leg Extension Exercise
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8473065/
被験者 若い男性(平均19歳) トレーニング歴1年以内
期間 8週間
頻度 週3回(第一週は週1回、第二週は週2回)
種目 レッグエクステンション
被験者内でグループ分け(被験者の片方ずつの脚をいずれかにグループ分け)
(a)15RM 13-17レップの範囲になるように重量調整
(b)5RM+ドロップセット(20%重量減らして限界まで→さらに10-15%重量減らして限界まで) 3-7レップの範囲になるように重量調整
実施方法は、どちらかの脚1セット→反対側の脚1セット→インターバル120秒→次のセット
セット数は両グループで同じ(2-5セット)。
<結果>
筋肥大については、脚の筋肉の厚みを複数箇所測定。大腿直筋は、箇所によってはドロップセットのほうが筋肥大した。
合計ボリュームは、ドロップセットのほうが有意に大きかった。
※ボリュームについて具体的な数値が見つからなかったので単純計算してみると、
普通の筋トレグループの15RMは約65%1RM。
ドロップセットグループは、5RMを87.5%1RMとして、そこから20%減→さらに15%減で、それぞれちょうど5レップ実施できたとすると、合計15レップで平均強度は約72%1RM。
従って、ドロップセットのほうが強い刺激が入ったと思われる。
★OZAKI et al.(2017)
(6)Effects of drop sets with resistance training on increases in muscle CSA, strength, and endurance: a pilot study
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02640414.2017.1331042
被験者 若い男性(平均26歳) トレーニング歴なし
期間 12週間
頻度 週2-3回
種目 ダンベルアームカール
被験者内でグループ分け(被験者の片方ずつの腕をいずれかにグループ分け)
(a)80%1RM 3セット インターバル3分
(b)30%1RM 3セット インターバル90秒
(c)80%1RM+ドロップセット(65%→50%→40%→30%1RM) 1セット
全グループ全セット限界まで実施
<結果>
筋肥大については、腕の筋肉の断面積一箇所を測定。グループ間に有意差はなし。
合計ボリューム(重量×レップ数×セット数)
(a)80%1RM 3セット 4724kg
(b)30%1RM 3セット 15365kg
(c)80%1RM+ドロップセット 1セット 5308kg
30%1RMでの最大レップ数も測定していて、当たり前だけど「(b)30%1RM 3セット」グループが最も伸びた。その次にドロップセットグループ。80%1RMグループは少し低下(有意差は無し)。筋トレ基準で低強度、だいたい2-3分で力を使い果たすくらいの運動だと、ドロップセットはそこそこ効果がある。もちろん、その強度で普通の筋トレをしたほうが伸びる。
考察
ドロップセットは、メカニカルテンションと代謝ストレスの両方の刺激を入れられるため、理論的には筋肥大効果が高いことが期待され、そういった背景で研究が行われていますが、実際の効果は、合計ボリュームを揃えれば普通の筋トレと同等だと考えられます。
ドロップセットの最大のメリットは、トレーニング時間を短縮しつつ、普通の筋トレと同等の筋肥大効果を得られる点でしょう。少ないトレーニング時間でボリュームを確保したい人にとって有用な方法です。
ドロップセットのデメリットは、体力的・精神的に辛いことです。実験では、スタッフが隣で励まして限界まで追い込む研究が多いですし、実施期間が決まっていて終わりが見えるので被験者はやり遂げられるのですが、現実だと多くの人は一人で筋トレしますし、期間も決まっていないため、ドロップセットを続けていくのは相当な精神力が要求されます。
<ドロップセットの実施方法>
ドロップセットをおこなう場合は、
・メインセット6-10レップ限界まで→15-20%ずつ重量を落としながらドロップセット(全部限界まで)を3-4セット。この1サイクルで終わり。と言った方法だと、トレーニング時間を圧縮しやすいと思います。
もしくは、普通の筋トレを3セットくらいやって、最終セットのみドロップセットを追加する方法も、トレーニング時間をあまり増やさずにボリュームを増やせるのでおすすめです。
種目は、基本的にはマシンが向いています。体幹に強い負荷がかかるフリーウェイト種目では、ドロップセットはやらないほうが安全です。ダンベルカールなどのダンベル種目もドロップセット向きですが、多くのダンベルを確保するダンベルコレクターはジムマナー違反ですね。ドロップセットをダンベルでやるなら、別の重量にチェンジする度にダンベルをラックに戻したほうが良いでしょう。
個人的には、時短テクニックは、主働筋-拮抗筋(もしくは1つ目の種目と干渉しない筋肉)を交互にトレーニングする方法がおすすめです。これだと精神的にあまり辛くないです。この方法は、少し前は、科学界だとペアードセットと呼ばれていて、最近はスーパーセットと呼ばれたりします。ただ、「同じ筋群の種目を連続してやる方法」をスーパーセットと呼ぶ人もいてややこしいです。
<ドロップセットの留意点>
(3)(6)のパフォーマンス(12RMの重量、30%1RMの最大レップ数)の変化比較を見ると、ある強度でのパフォーマンスを上げたかったら、その強度で普通の筋トレをやったほうが良さそうです。ドロップセットは筋肥大のための方法で、パフォーマンス向上にはあまり適さないと考えられます。
また、12RMの重量の伸びが悪かったり、30%1RMの最大レップ数が伸びたりすることを考えると、ドロップセットで50%1RMや30%1RMでボリュームを稼ぐと、筋形質の肥大の割合が高くなる可能性がありそうです。そのため、パワー・ストレングス競技をやっていて最大筋力のポテンシャル(筋原線維の断面積)を伸ばしたい人には、50%1RMや30%1RMでボリュームを稼ぐドロップセットは適さないかもしれません。関連記事:筋形質の肥大についての研究
感覚的なものですが、85%1RM(メイン)+ドロップセット(75%1RM限界まで→65%1RM限界まで)といった強度設定なら、最大筋力のポテンシャル向上につながる筋肥大になる感じがします。ただ、この強度設定だとボリュームが稼ぎにくいと思います。
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