3/27/2019

バックスクワットでのバーベルの担ぎ方


バックスクワットにはハイバースクワットとロウバースクワットの2種類がある。一般的に認識されているハイバースクワットとロウバースクワットの大まかな特徴を書くと、

・ハイバースクワット
- 僧帽筋上部にバーを乗せる。高い位置にバーを担ぐので high bar。
- しゃがんた時に上体はあまり傾かず、膝が前に出る。
- 大腿四頭筋に負荷をかけやすい。

・ロウバースクワット
- 三角筋後部にバーを乗せる。低い位置にバーを担ぐので low bar。
- しゃがんだときに上体は傾き、膝はあまり前に出ない。
- 臀筋や脊柱起立筋群に負荷をかけやすい。


ただ、担ぐ位置とフォームに厳密な定義があるわけではなくて、その人の肩周りの柔軟性や骨格によって、担ぎやすい位置とフォームは少しずつ変わってくる。ハイバースクワットでもある程度上体を傾けることも出来るし、ロウバースクワットでもバーが後ろに転がり落ちない範囲で、膝を前に出してある程度上体を立てることも出来る。


★バーの担ぎかた
一般的に担ぎやすいやり方はあるけど、つまるところ安全にバーベルを担げれば何でも良い。スクワットでの膝関節と股関節と体幹の使い方と鍛えられる筋肉は、日常生活にもスポーツにも大いに役立つが、バーを担ぐテクニックはスクワットにしか役に立たないので、安全であればやりやすいやり方で良い。

一般的に安全に担ぎやすくなるポイントとしては、
- 肩甲骨を寄せ上背部を固める。
- 肘は下方向へ、内側へ。肘を脇腹に近づけるイメージでやると上背部を固めつつバーを固定しやすい。
- バーベルを握る手幅を狭くしたほうが上背部は固めやすいが、肘や手首が痛くならない範囲で行う。
- バーの負荷が首にいかないようにする。バーの負荷は胴体で受け止めること。
- バーは筋肉に乗せる。骨にゴリゴリ当たらないようにする。
- 腕力でバーベルの重さを支えない。

以下、ハイバースクワットとロウバースクワットの担ぎ方を、具体的に見ていく。



★ハイバースクワットの担ぎ方
足首の柔軟性と、胴体に対しての大腿骨の長さによって、しゃがんだ時にどれくらい上体が傾くかが違ってくる。足首の柔軟性があり大腿骨が短いと、上体の傾きは小さくなる。足首の柔軟性があまり無くて膝が前に出ず、胴体に比べて大腿骨が長いと、上体はある程度傾かざるを得ない。

◇上体がほとんど傾かない人は、僧帽筋上部の上に乗せると良い。

動画:Lu Xiaojun 🇨🇳 255kg / 562lbs x3 Squat Session 2018 World Championships Training Hall [4k]
1:25~のスクワットが僧帽筋上部の上に乗せているのがわかりやすい。
骨格と柔軟性が上体を立てたスクワットに向いているのに加えて、重量挙げ用の踵が高い靴を履いているので膝が前に出やすい。


◇上体がある程度傾く人は、僧帽筋上部の中程に乗せると良い。僧帽筋上部の上に乗せて上体を傾けると、バーベルの負荷が首に行く。あと頚椎の一番下の骨(C7)の出っ張りにバーが当たって痛いと思う。

動画:280kg/617lbs ATG Squat for a Triple! - Training with Zack Telander
2:25~のスクワットが実例。僧帽筋上部の中程に乗せているのがわかる。



いったん肩甲骨を寄せて上げると、僧帽筋上部を厚くしてクッションにしやすい(スクワット動作に入るときは肩甲骨を下げる)。僧帽筋上部を筋収縮によってどれくらい固くするかは、個人の好みでやりやすいやり方で行う。僧帽筋上部がバーの圧力で痛い場合や、筋肉量が少なくて骨に当たってしまう場合は、無理せずスクワットパッドを使うのが良いだろう。スクワットパッドを使う場合も、バーベルの負荷が首にいかないように注意する。上体が傾く場合は担ぐ位置を少し下にする。スクワットパッドの厚みのぶん、バーの重心は上に移動し、上体が傾くと首に負担が行きやすくなるので注意する。スクワットパッドを使いたくないなら、僧帽筋上部の筋肉量を増やし、筋肉が圧迫される痛みに慣れるしかない。

ハイバースクワットはロウバースクワットに比べて、肩周りの柔軟性があまり必要とされず、肘・肩・手首への負担が小さい。


★ロウバースクワットの担ぎ方
三角筋後部に乗せる。肩甲骨にバーがゴリゴリ当たらないようにする。筋肉をクッションにすれば痛みは出にくい。三角筋後部の筋肉量が少し足りない場合は、肘を後ろにグイと上げると三角筋後部の肉が盛り上がってバーを乗せやすくなる。だがそうすると胸椎が丸まりやすくなるので、肩周りの柔軟性との兼ね合いで、背骨の姿勢をニュートラルに保てる範囲で肘を後ろにグイと上げる。ロウバーでスクワットパッドを使うとバーが転がりやすくなるので使わないほうが良いと思う。

ロウバースクワットは肩周りの柔軟性が必要で、柔軟性が足りないと肘や手首や肩が痛くなることがある。手首を伸ばし、サムレスでバーを押さえる感じにすると肘や手首や肩への負担が小さくなる。

動画:Low Bar Squat : Rack Position / Shoulder Warm-Up
4:00~がサムレスでのバーの握り方の実例


肩や肘や手首が痛くなったり、三角筋後部の筋肉量が少なくてバーがうまく乗せられない場合は、ハイバースクワットをするかゴブレットスクワットをすると良いと思う。股関節の伸展動作をメインに鍛えたいなら、デッドリフト系の種目という選択肢もある。



★僧帽筋上部の上に乗せながら尻を後ろに引く
ハイバースクワットの位置でバーを担ぎながら、膝を前に出さず尻を後ろに引くと、上体が大きく傾いて首に負荷がかかりやすい。危ないのでこのやり方は避けたほうが良い。


★肩周りの柔軟性が足りない場合

以下のストレッチやエクササイズをやっておくと良いでしょう。





★バーベルの重量による違い
上体がどれだけ傾くかは、バーベルの重量も影響する。上の絵では便宜的に、足の真上にバーベルが来るように描いたが、実際にこれで重心のバランスが取れるのは、バーベルが非常に重い場合だけ。バーベルが軽いと、後ろに突き出た胴体や尻や大腿部の重さと釣り合わせるため、上体を傾けて頭部とバーベルを前に出す必要がある。

普通の人は非常に重いバーベルを担げないので、上に書いた図よりも上体は傾くことになる。ハイバーで担ぐときは首に負荷がいかないよう注意しないといけない。




★フォームに合った担ぎ方の必要性
運動歴の浅い人にパーソナルトレーナーが無理してバックスクワットをやらせているのをよく見かける(今回の記事を書くきっかけはそれが気になったから)。だいたいがへっぴり腰か、極端に広いスタンス。背中の柔軟性がある若い女性だと背中が大きく反っているケースもある。なぜそうなるのか説明していく。


◇へっぴり腰
へっぴり腰になるのはバックスクワットに慣れてないせいもあるだろうけど、ハイバーの高い位置で担ぎながら尻を後ろに引くことで上体が傾き、首に負荷がいくようになり、身体が怖がって上手くしゃがめなくなっているからだと思われる。膝を前に出さないことを意識しすぎると上体が傾く、上体が傾くとバーの負荷が首にかかる、そうすると怖くてしゃがめなくなる。


◇極端に広いスタンス
スタンスを広くすると、横から見た際の大腿骨の長さが短くなって、上体を立てることが出来る。こうすることで上体を立てながら膝を前に出さないスクワットができる。股関節の柔軟性が必要とされ、ちゃんと開脚できないと膝が内側に入って怪我しやすくなるので注意が必要。

普通のスタンスでスクワットをするのに比べると内転筋の負荷が上がる。大腿四頭筋や臀筋群が最大に発揮する筋力は、普通のスクワットと同程度と考えられるが、極端に広いスタンスだと深くしゃがむことが困難なため、動作範囲が狭くなり筋肥大効果は劣るかもしれない。ストレングスの観点からは、広いスタンスで力を発揮する必要のある競技(相撲など)を行っているなら広いスタンスでスクワットをするのも良いと思う。日常動作やスポーツへの汎用的な効果を考えるなら普通のスタンスのほうが良いだろう。

◇背中を大きく反らせる。
背中を大きく反らせればハイバーで担いでも首に負荷がいかず、なおかつ膝を前に出さない股関節メインのスクワットも出来る。butt winkの話で書いたように、背中を過度に伸展させたフォームは身体機能の面からも怪我リスクの面からもメリットが無いと思う。




★バックスクワットは難しい
スクワットの膝関節と股関節の動作は、日常で使う動作なので上手く行うのは難しくはない。バーを上背部に担ぎながらスクワットをするのが難しい。butt winkの話で書いたように、胸が開きやすいという問題点もある。負荷が足りるなら、無理してバックスクワットをするよりもゴブレットスクワットをしたほうが良い。ゴブレットスクワットだと負荷が足りず、バックスクワットしか選択肢が無い場合は、バーを担ぐ位置と上体の傾きが安全な組み合わせになるように意識してバックスクワットを行う。

(競技としてスクワットを行っている人以外が)スクワットの負荷を上げたい場合は、セーフティスクワットバーがベストだと思う。首に負荷が行きにくく、肘や肩や手首に無駄な負担がかからず、胸が開かないので体幹に力を入れやすい。ただ普通のジムにはなかなか置いてない。セーフティスクワットバーがもっと普及すると良いなと思う。


動画:How to Use a Safety Squat Bar with Steve Slater

セーフティスクワットバーは yoke bar とも呼ばれる。yoke(くびき)に似ているから。




関連記事:
butt winkの話

スクワットの深さ


2/18/2019

エビデンスの考え方

最近は、「科学的に証明された健康に良い食事方法」や「最新の研究によるダイエット」や「科学的に正しいトレーニング方法」などといった記事や書籍が多く見られる。

ただ科学研究の結果がそのまま実践に適用できるかどうかには多くの注意点があって、例えばマウス実験の結果をそのまま人間に当てはめて、○○は健康に悪い、○○の時間帯に食べると太る、というようなことを断言することは出来ない。こう書くとバカバカしいように思えるが、実際にそういうケースは見かける(例えばBMAL1)。個人的には、エビデンスをまともに扱えていない主張は疑似科学と紙一重だと思っている。

健康やダイエットやトレーニングについてのエビデンスを、人体の取扱説明書みたいに考えているならそれは間違いで、エビデンスはまだまだ人間には理解できない人体の複雑な仕組みを少しずつ解明するための手段であり、何らかの処置により健康の増進や体型の改善や運動パフォーマンスの向上といった、より良い結果を得るための不完全なツールにすぎない。

今回の記事では、どのようなエビデンスに信頼を置くべきなのか、エビデンスをどう使えば実践に活かすことが出来るのかを書いてみたい。なお医療におけるEBMの考え方をベースにしている。

参考サイト:根拠に基づく医療


★エビデンスのレベル
全てのエビデンスが同じ重要度で扱われるわけではなく、エビデンスにはレベルの高低がある。健康やトレーニングといった分野においては、ざっくり分けると以下のようになる。メタ解析が最もレベルの高いエビデンスで、下にいくにつれてエビデンスレベルは低くなっていく。

1. メタ解析
複数のランダム化比較試験(RCT)のデータを集めて解析した研究。メタ解析はRCTの弱点である被験者数の少なさを補うことが出来、最もエビデンスレベルの高い研究になる。解析対象とする研究の選択基準や、個別の研究の実験方法のばらつきをどうデータに反映させるかなどで、研究者のバイアスをかけることも出来るので、メタ解析研究であっても内容の吟味は必要となる。


2. ランダム化比較試験(RCT)
被験者をランダムにグループ分けし、効果を調べたい食事方法やトレーニング方法を施したグループと、そうではないグループとで効果に違いがあるかを調べる研究。要因と結果の因果関係を示しやすい。一般的に被験者数は数十人程度で、実験期間は数時間~数ヶ月程度。発生までに時間がかかる病気の研究などには向いていない。

RCT内でも強弱があり、被験者のグループ分けは適切にランダム化されているか、介入がもたらしうる効果やグループ分けは被験者や実験者に隠されて(盲検化されて)いるか、被験者の数は十分に多いか、被験者のドロップアウト・カットオフの基準は明確か、適切な統計処理がなされているかといった点がRCTの強弱を決めるポイントになる。コントロール度合いも重要で、例えばダイエットの研究なのに食事は自己管理になっているとエビデンスとしては弱くなる。


3. 観察研究
大勢の人のデータを集めて、どのような生活習慣の人がどのような病気になりやすいかを調べたり、稀な病気の個別ケースについて経過を報告したりするもの。要因と結果の相関関係を示しやすいが、因果関係を強く示せるかは研究手法による。横断研究や前向きコホート研究など色々な種類があり、調査に時間経過があるか、バイアスや交絡因子の影響の排除は十分か、といった点がエビデンスレベルを高くするポイントになる。


4. 専門家の知見
バイアスなどに左右されるが、弱いエビデンスになる。分野によってはレベルの高いエビデンスがあまりない場合があり、専門家の知見も有効に活用する必要がある。例えば審美的なボディメイクに関わるような研究は社会的に見て優先度が低いので、健康な若いトレーニング歴のある人が筋肉を増やしたり低い体脂肪率を目指すような研究は数が少ない。このような場合は、専門家の知見や経験則を上手く取り入れることで、良い結果を出せる蓋然性が高まる。


以上はすべて人間を対象とした研究で、動物実験は人体に関するエビデンスとしてはかなり弱い。

エビデンスレベルの高い研究で何度も繰り返し再現されると、それは科学的に見て確実性の高い方法であると言える。レベルの低いエビデンスが少数しかない場合や再現性が乏しい場合は、その方法は科学的に見て確実性の低いものになり、ベネフィットが大きくコストが小さいのなら試してみても良いかな・・・といった程度のものになる。研究で良い結果が一回出ただけで、それが科学的に正しいと証明されるわけではない。



★動物実験
エビデンスとして用いる場合、動物実験は無価値なのかというとそうではなくて、メカニズムを推定し、エビデンスを補強する役割を持つことは出来る。

例えば、喫煙が肺がんリスクを高めるか?という研究を行う場合、人間の被験者を対象としたRCTは、倫理面やガン発生にかかる時間の長さおよびガンの発生率を考えると実施不可能なので、観察研究でリスク度合いを算出し、人間とはシステムが多少違うが動物実験で腫瘍発生のメカニズムを推定したりするというやり方が出来る。

逆に、人間を被験者として容易にRCTを行えるような研究なのに、マウス実験ばかり繰り返してもエビデンスは弱いまま。特定の時間帯に食べると太るとか、特定の栄養素(例えば糖質)を摂取すると太るとか、そういったことを主張したいのなら、人間の被験者を実験室に数週間閉じ込めて、食事と運動を管理したRCTを行えば良い。



★一般メディアでエビデンスが利用されている場合のチェックポイント
「最新の科学研究に基づいた○○」といった記事や主張を見たら、以下のように考えると良いだろう。

・人間を対象とした研究か
動物実験(大抵はマウス・ラット)しかやっていないなら無視して良い。


・RCTか、観察研究か
質の高いRCTは考慮に値する。観察研究はレベルが一段落ちるが、観察研究でしか行えないタイプの研究もある。観察研究の中でも、既存のデータを用いて低コストで行える横断研究は、相関関係は示せるが因果関係を示す力がとても弱いので参考程度に考えておく。


・研究の期間と対象範囲
ごく短時間の変化や、身体のごく一部のメカニズムを調べた研究か、それとも長期間の身体全体の変化を調べた研究か。例えば、栄養素を摂取してから数時間の筋合成や脂肪合成を調べたような研究や、特定のホルモンが特定の栄養素の蓄積を促すといった研究は、それらの研究結果がそのまま長期間の人体の体組成変化につながるとは限らないので注意する。

短時間の研究や部分的なシステムについての研究は人体のメカニズムの推定には使えるが、身体に何らかの処置を施してより良い結果を得ようとするなら、数週間や数ヶ月といった長期間にわたって身体全体の変化を調べたRCTの結果が最も重視される。


・原則に沿っているか
トレーニングによりストレスを与えると、人体はそれに適応する。その時点の身体が慣れているレベルより少し強いストレスを与えていくと、適応がスムーズに行く(漸進的過負荷)。また与えたストレスの種類に特化した適応が起こる(特異性の原則)。

食べたカロリーはどこかに消えたりしない。○○を食べないダイエットや、○○の時間帯は食べないダイエットといった主張を見たら、カロリー収支がどうなっているのか考える。

これらの原則から外れているように見える研究結果が出たら、注意深く内容をチェックする。


・異なった研究者(研究室)の間で繰り返し再現されるか
同じ結果を示す複数の研究が見つかっても、全て同じ研究室のものということもある。出来れば違う研究室でも再現されることが望ましい。


・出資者
サプリメントについては特に、出資者がどうなっているのかチェックすると良い。サプリメーカーが出資している研究しか行われておらず、1,2回良い結果が出ただけだとエビデンスとしてはかなり弱い。またお金が絡む場合、否定的な結果の研究は表に出てきにいので、そのサプリの効果に対して否定的な結果が出ていても葬り去られ、偶然に良い結果が出た研究だけ表に出てきている可能性がある。甘味料(異性化糖 vs 砂糖 vs 人工甘味料)のようにライバルにネガティブな研究結果を出すインセンティブがある業界もあるので、背後に大きなお金が絡むかを考えると良い。


・科学界のバイアス
全ての研究者が無私無欲の科学の徒というわけではなく、研究者には自分のキャリアのために成果を出すインセンティブとバイアスがある。良い研究結果を出すためのデータの良いとこ取りを行う手法は、単なる不手際からかなり悪どいものまで様々ある。

また、科学界全体で見ると良い結果を出せた研究が表に出てきやすく、統計的に有意でないというつまらない結果で研究者のキャリアアップにつながりにくい研究は表に出てきにくいというバイアスがある。良い結果を出せた研究には偶然そういう結果が出ただけの偽陽性のものも含まれるため、実際に行われた研究全体よりも、表に出てきた研究のほうが偽陽性の割合が高くなる。極端な例を出すと、100回同じ実験をして、95回が有意差なし、5回偶然に有意差あり、という結果で、有意差なしのものは全て表に出てこず、有意差ありのものだけ表に出てきた場合、有意差ありを示す5個の研究(しかし全て偶然の結果)のみが人々の目に触れることになる。

参考サイト:When To Trust Research Findings
https://www.strongerbyscience.com/trust-research-findings/



★実践への適用
エビデンスを実践へ適用する場合は、以下のようなポイントに注意すると良いだろう。

・蓋然性
レベルの高いエビデンスが数多く揃うと、その方法は効果的である確実性が高いといえる。レベルの低いエビデンスが少数ある場合は、その方法が効果的である確実性は低いと言える。黒か白かの二択で考えるのではなく、蓋然性で考える。


・費用対効果
科学的に見て効果的である確実性が高い場合でも、その効果がどれほどのものか考える必要がある。例えば毎日飲み続けると1年間で体重が0.5kg減るお茶(1本200円)があったとする。個人的には、ダイエットのためにこのお茶を飲み続けるのは費用対効果がかなり低いと感じる。


・適用可能性
その人に適用可能か。例えば、肥満の人を対象としたダイエット研究はボディビルダーの減量の参考になるか。例えば、高価なサプリメントがもたらすわずかな運動パフォーマンス向上や減量効果は、趣味でトレーニングしている人に必要か。


・個人差
年齢、性別、肥満度、運動歴、遺伝子などにより、反応が異なる栄養素やトレーニング方法もある。属性が近い被験者を対象とした研究を参考にするのが良い。ただ同じ属性の被験者を集めた研究でも個別の被験者の結果のばらつきが大きいものもある。

例えば既存の研究だと、同じトレーニングを行っても大きく筋肥大する人もいれば逆に筋肉が少し減ってしまう人もいるし(平均では筋肥大する)、同じ量を食べすぎてもほとんど太らない人もいればしっかり脂肪がつく人もいる(平均では太る)。

研究結果が示すのはあくまで平均であり、実践に適用した場合にその人がどういう反応をするかを予測するのは困難で、反応を見ながらトレーニング内容や食事内容を調整していく必要があるだろう。遺伝子ベースのトレーニングの研究も出てきているけど、お金の匂い(遺伝子検査の販促とか)がするので、現時点では話半分で受け止めるのが良いと思う。

関連記事:トレーニング効果の個人差


・好みや目的
トレーニングでも健康でも、その人が興味を持って自主的に続けていかないと成果が出ない。好みや目的にフィットしていることが重要。ただトレーニングをするにしろダイエットをするにしろ、ひたすら楽なことをしていては効果が出ない。ある程度のストレスを与える必要があるので、その人にとって快適なやり方のほうが長続きするだろう。

ウェイトトレーニング、サーキットトレーニング、HIIT、クロスフィットなど、好みや目的にあったトレーニング方法を選ぶのが良い。ここではエビデンスは、トレーニングの効果の種類(筋力、筋肥大、筋持久力、全身持久力など)や効果の程度、それに怪我リスクを推測するのに利用できる。もちろんトレーニング歴、体力レベル、スキルレベルによって効果の程度や怪我リスクは異なる。

また同程度の効果が期待できるのなら、より楽なやり方を選んだほうが長続きするだろう。例えば、軽い重量で高レップを行う筋力トレーニングでも、重い重量でのトレーニングと同等に筋肥大することが複数の研究で示されているが、高レップトレーニングは主観的にかなり苦しいので、そういうのが好きな人や関節に不安がある人以外は普通の筋トレをするのが良いだろう。また各セットを限界レップまで追い込んでも、限界一歩手前で止めても、(特に初心者は)効果は大きく変わらないと考えられるので、ハードなのが好きな人以外は限界一歩手前で止めるのが良いだろう。

関連記事:各セット限界まで追い込むべきか


・人体の反応と人間の性向
生理学的に人間の身体がどう反応するかと、実際の生活において人間がどういう行動を取りやすく、どういう結果になりやすいかは異なる。例えば、運動によって消費カロリーを増やしても、食事を減らすことで摂取カロリーを減らしても、カロリー収支への寄与の点では同じであり、アスリート並の体力があるのでなければ運動で大きなカロリーを消費するのは困難なので、理屈の上ではカロリー収支を改善したいのなら食事を減らすのが効率が良いことになる。しかし運動量が少ないと食欲のコントロールが難しくなり、ついつい食べすぎてしまうことが研究で示されているので、カロリー収支を改善したいのなら適度な運動を行ったほうが良い結果を得やすいと考えられる。

関連記事:運動と食欲



参考サイト:

The Levels of Evidence and their role in Evidence-Based Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3124652/

Levels of Evidence
https://www.essentialevidenceplus.com/product/ebm_loe.cfm?show=oxford

Evidence-based practice in Exercise and Nutrition: Common Misconceptions and Criticisms
https://www.lookgreatnaked.com/blog/evidence-based-practice-in-exercise-and-nutrition-common-misconceptions-and-criticisms/

1/16/2019

butt winkの話

★butt winkとは

スクワットで深くしゃがむときに、骨盤が後掲して腰椎が丸まること。butt(尻)がウィンクしているように見えるから。


動画:"Butt Wink" Squat Myth (EVERYONE HAS IT)
https://www.youtube.com/watch?v=R-Qcl_IRth4
この動画の主張には同意できない部分があるけど画像がわかりやすいので引用。

高重量のバーベルスクワットでは背骨に強い負荷がかかっている。その状態でbutt winkが起きて腰椎がクネクネ動くと、腰椎の怪我リスクが高まる。

またスクワットで深くしゃがめないケースも、それ以上深くしゃがんだらbutt winkが起きて腰が丸まってしまうと身体が怖がっていて、深くしゃがめない可能性がある。

butt winkの原因に対処することで、スクワットで安全に深くしゃがむことが出来るようになることを目指す。



★butt wink(もしくはスクワットで深くしゃがめない)の原因
a) 骨の構造上の問題
股関節の骨(大腿骨と骨盤)の形と噛み合わせには個人差があって、ある一定の深さ以上しゃがもうとすると骨と骨がぶつかって、それ以上はしゃがめなくなる。さらにそれより深くしゃがもうとすると、股関節ではなく骨盤を後傾し腰椎を曲げることで、深くしゃがむ動作を達成する。これは骨の問題なのでどうしようもない。

ただフルボトムのスクワットならこの骨の問題が発生するケースが多いだろうけど、パラレル付近までしゃがむ前に骨の問題でbutt winkが起こるのはそれほど多くないと思われる。


b) 関節の柔軟性(筋肉や腱や靭帯や関節包の柔軟性)の問題
スクワット動作では、股関節(屈曲と内旋)と足首(背屈)の柔軟性が要求される。骨の構造上の問題と同じく、柔軟性が許す可動域以上に深くしゃがもうとするとbutt winkが起きる。

股関節の柔軟性については、股関節の屈曲と内旋の拮抗動作である伸展と外旋の筋肉(臀筋や内転筋など)の柔軟性が足りないと、深くしゃがめなくなると考えられる。ストレッチやフォームローラーなどで個別にこれらの筋肉の柔軟性を高めるか、もしくはある程度負荷をかけながらスクワット動作を繰り返すことで徐々に股関節の筋肉の柔軟性が高まる。ハムストリングのストレッチも対策として言われることがあるが、ハムストリング(の二関節筋の部分)はスクワットの間は長さがあまり変わらず、むしろ深くしゃがむにつれて少し短くなるので、ハムストリングの柔軟性はおそらく無関係。

参考サイト:股関節の機能解剖 - 大腿直筋・ハムストリングス・殿筋群・内転筋群・梨状筋他
https://www.kinyo.fit/kaibo/crotch-joint.html

足首が固いと、しゃがむ際に膝が前に出ず、尻を極端に後ろに引くことで上半身が大きく傾き、股関節の角度が鋭角になり、股関節の可動域が足りなくなって、腰が丸まってしまう。この場合は、ふくらはぎの筋肉やアキレス腱のストレッチなど足首の柔軟性を高めるエクササイズをすると、膝を前に出すことが出来るようになりスクワット動作が改善される可能性がある。


c) 身体コントロール能力の問題
butt winkは、深くしゃがむときに骨盤が後傾し腰椎が丸まること。身体(特に体幹)をコントロールし、骨盤と背骨を良いポジションに保つ能力が足りないと、関節の可動域が十分であってもbuttwinkが起きる。

またふくらはぎや尻の筋肉がエキセントリック動作に慣れていないと、負荷をかけた状態では足首や股関節が深く曲がらなくなることがある



問題の切り分け方法については後述するが、一般的には、普段から運動をよくする若い人がbutt winkが起きたり、深くしゃがむのが難しかったりする場合は、a)骨の構造上の問題 か c)身体コントロール能力の問題 の可能性が高いと考えられる。運動をあまりしない中高年の人がbutt winkが起きたり、深くしゃがむのが難しかったりする場合は、b)関節の柔軟性の問題 と c)身体コントロール能力の問題 の可能性が高いと考えられる。



★受動的可動域と能動的可動域
外部から力を加えたときに動く関節の可動域(受動的可動域)と、自分で筋肉に力を入れながら身体を動かすことのできる関節の可動域(能動的可動域)は異なる。

関節の柔軟性が足りないのではなくて、身体のコントロールがうまく出来ていなくて関節の可動域が狭いケースも多い。闇雲にストレッチを行う前に、まずは負荷がかかってない状態で関節がどこまで動くか試してみる。

・股関節の受動的可動域チェック例。四つん這いになって脚や尻の筋肉の力を抜き、腰が丸まらないように意識しながら尻を後ろに引いていく。
動画:Quadruped hip rockers
https://www.youtube.com/watch?v=Gzj9AOn4KDY

・足首の受動的可動域チェック例。足の裏全体を地面につけたまま足首を曲げていきどれだけ膝が前に出るか。
動画:EricCressey.com: Do You Really Have Poor Ankle Mobility?
https://youtu.be/kFZpFgDcysA?t=164

受動的可動域が狭い場合は、骨の構造か関節の柔軟性のどちらかに問題があると考えられる。受動的可動域チェックの後に、ストレッチやフォームローラーやマッサージを行い、再び受動的可動域を調べてみる。可動域が広がっているなら関節の柔軟性に問題があると考えられ、ストレッチなどを行うことでスクワット動作が改善することが見込まれる。



★身体コントロール能力の鍛え方
股関節と足首の柔軟性チェックで、関節の受動的可動域に問題がなかった場合は、身体(特に体幹)のコントロール能力に問題がある可能性が高い。

かかとの高い靴を履いたりプレートを踵で踏んだりして踵を上げる、足幅やつま先を極端に大きく開いたスタンスでスクワットを行う、といった小手先のbutt wink対策はあるけど、関節の可動域に問題がなければ、まずは身体のコントロール能力を鍛えるのが良いだろう。良い動きが出来ないのに小手先の対処法で誤魔化しながら負荷を上げていくと、どこかで歪みが出て怪我をしやすくなる。

スクワットの際に身体を適切にコントロールする能力を鍛えるエクササイズ例をいくつか紹介する。

1) デッドバグ
デッドバグは、体幹に力が入る良い姿勢を保ちやすい。床からのフィードバックにより、骨盤のポジションを意識しやすいのもメリット。

デッドバグのやり方
- 仰向けに寝て腹式呼吸で息を深く吐く。ドローインの要領。
- 下腹部の筋肉に力が入り、肋骨が締まる。
- 骨盤はやや後傾し腰の部分も含めて背中全体が床にべったり付く。
- 後頭部も床につける。首の筋肉に変な力を入れず顎を引く。
- 胸が開かないよう(肋骨が広がって上がらないよう)に意識する。胸の開きについては後ほど詳しく説明する。
- 上半身はこの状態を維持しながら、片脚ずつゆっくりと上げ下ろしする。
- 脚を上げ下げするときに骨盤と腰椎が動かないよう意識する。骨盤と腰椎を動かさず、股関節を動かす。骨盤が動き腰椎が反ると、床から腰の部分が浮くので、そうならないよう注意する。
- きつい場合は、脚を伸ばしきらない、靴を脱ぐといった方法で負荷を軽くする。
- 最初は腕を前に出したままにすると胸が開きにくくなりエクササイズを行いやすい。
- 慣れてきたら腕の位置を変えながら行う。腕の位置を変えても胸が開かないように注意する。
動画:HighPerformanceHandbook.com: Dead Bug
https://www.youtube.com/watch?v=rbemelnkHag

体幹を鍛えるには、プランクも良いと思う。

関連記事:プランクのやり方


2) ヒップスラスト
ヒップスラストを行うと臀筋を意識しやすくなる。臀筋がうまく使えないと、股関節と骨盤が同時に動いてしまいがちで、股関節の曲げ伸ばしと同時に腰が丸まったり反ったりしてしまう。腰が丸まらないように意識しすぎて腰が反っている人は特に臀筋に力が入りにくくなっている。

臀筋に力が入ると、大腿骨の前方シフトが抑制され、股関節の屈曲の際に大腿骨と骨盤の衝突が起こりにくくなり、深くしゃがみやすくなる。

ヒップスラストもデッドバグと同じように、骨盤と背骨を動かさず、股関節を動かす。

関連記事:ヒップスラストのやり方

デッドバグもヒップスラストも骨盤の前傾対策になるので、BIG3中心に熱心にウェイトトレーニングを行う人は、これらの種目も併せてやっておくと良いと思う。

関連記事:骨盤の前傾の矯正


3) ゴブレットスクワット
ゴブレットスクワットでスクワット動作をトレーニングする。ゴブレットスクワットは体幹を良い姿勢に保ちやすいし、重りが身体の前にあることで、尻を後ろに下ろしながらしゃがみやすい(前側に持ったダンベルの重さと後ろに出した尻の重さでバランスが取れる)。

腰が丸まらないことを意識しながらゆっくり行う。ボトムでしばらく止まってみたり、ボトム付近で少し上下に動いてみたりすると、ボトム付近での身体コントロールを学びやすい。

動画:Dumbell front squat
https://www.youtube.com/watch?v=vG6xU7Hq4JE

ゴブレットスクワットが上手く出来ない場合は、前段階としてなにかに掴まりながら、後ろに尻を下ろす動作を練習する。

動画:Pole Squat - Primal Blueprint Fitness
https://www.youtube.com/watch?v=slR0Nweib34



★胸が開くとは
肋骨を広げずに締めると体幹が安定しやすい。お腹から深く息を吐いていくと肋骨を締める感覚を得やすい。背中が丸まって猫背にならないよう、胸の中心を上げるイメージを持つと良い姿勢を作りやすいと思う。デッドバグではこの胸が開かず強い負荷に耐えられる体幹の作り方を学ぶ。



胸で息を大きく吸い込んだ状態が、胸が開いた(肋骨が広がって上がった)状態。胸を張るイメージで姿勢を作るとこうなりやすい。同時に腰も反りやすい。体幹が不安定になるので、体幹に強い負荷がかかる種目ではこの姿勢は避ける。


体幹に負荷がかかる種目では、胸を開かないよう注意する。肩周りを使う種目でも胸が開くと肩関節が使いにくくなるので、胸を開かないほうが良い。スクワットでもデッドリフトでもローイングでも懸垂でもショルダープレスでも胸は開かない。胸を開いたほうが良い種目はたぶんベンチプレスだけ。



★バックスクワットは難しい
そもそもストレートバーでのバックスクワットは体幹を良い姿勢に保ちにくく、骨盤周りの筋肉の力が抜けやすい。ショルダープレスと同様に、腕を上げる際に肩関節の可動域が足りないと、胸を開き腰を反ることで腕を目的の位置まで上げることになる。すると、前側の体幹の筋肉や臀筋に力が入りにくくなる。

関連記事:ショルダープレス

また腰が丸まらないことと膝を前に出さないことを意識しすぎて、腰が反り尻が後ろに突き出しているスクワットをやっているケースもある。胸が開いて腰が反っている状態からしゃがんでいくと、体幹の姿勢維持が難しくなることで、深くしゃがむ際に腰が丸まりやすくなる。

あと腰が反っている(骨盤が前傾している)と、内股気味になりやすく、膝を痛めやすい。スクワットでは股関節の内旋の可動性も要求される。内股だとスタート地点から内旋しているため、そこからさらなる内旋の可動域が要求され、深くしゃがむのが困難になる。

ネットで拾った画像にコメントをつけた。たぶんこのフォームだと首も反ってしまっている。首は反らず、顎を引いたほうが良い。


それと膝を前に出さないことに固執して、首のあたりにバーベルを乗せながら腰を後ろに引いて上体を大きく傾けているケースも見る(下図Bのようなやり方)。これは首に負担がかかって危ない。バーベルの重量が上がってくると身体が危険を察知して、上体を大きく傾けて首が危険に晒されるのを防ぐため、深くしゃがめなくなるかもしれない。腰を引いて上体を傾ける場合は、ロウバーのポジションでバーベルを担いだほうが良い。またある程度のバーベルの重さがないと、上体を大きく傾けて頭部を前に出すことで尻の重さと重心のバランスを取ることになる。下図Bのように膝を前に出さないフォームでも、バーベルが重くなれば上体を大きく傾けて頭部を前に出す必要がなくなり、上半身がもう少し起きるようになる。バーベルを担ぐと上手くしゃがめなくなる場合は、バーを担ぐ位置とフォームとバーベルの重さが適合しているか確認すると良いだろう。軽いバーベルで膝を前に出さないバックスクワットをやるのは、重心のバランスの面から難しい。



個人的な考えだけど、ストレートバーでのバックスクワットは、高重量のバーベルを担ぎやすいというのが唯一のメリットで、身体機能の面からいえば何もメリットがない姿勢に思える。もちろんスクワットの動作は下半身のトレーニングとしては素晴らしいが、ストレートバーでのバックスクワットの腕と肩のポジションは体幹の姿勢維持が難しく、肩や肘に無駄な負担がかかる。競技としてスクワットをやる人以外は、buffalo barやyoke barなどが使えるならそういうバーを使ったほうが良いし、ゴブレットスクワットで重量が足りるならゴブレットスクワットをやったほうが良いだろう。とはいっても普通のジムにはストレートバーしか置いていないだろうから、本格的にトレーニングを行いたい人にとってはストレートバーでのバックスクワットは主要種目になる。

ストレートバーでのバックスクワットを行うなら、体幹の姿勢が崩れないよう肩周りの柔軟性も高める必要がある。

関連記事:肩周りのストレッチ

またデッドバグで、バックスクワットの腕の形に近いポジションでエクササイズを行うと、バックスクワット時の体幹コントロールに役立つ。やってみればわかるが、腕を前に出すデッドバグよりも体幹の姿勢の維持が難しい。


◆ベルト
スクワットのフォームがしっかり固まらないうちは、ベルトをしないほうが体幹の姿勢を意識しやすいと思う。

ベルトは接している箇所にある筋肉に力を入れやすくする効果がある。ベルトが接する場所(腹直筋の中部から上部と脊柱起立筋群の腰椎付近)は、体幹に負荷がかかると受動的に自動的に力が入るけど、体幹を固める際に意識して力を入れる筋肉ではない。これらは背骨を曲げ伸ばしする筋肉なので、意識して力を入れると背骨を曲げ伸ばしする力が加わって体幹が不安定になりやすいし、必要以上に力を入れると背骨に無駄に圧縮方向の力が加わる。体幹の安定のために意識して力を入れるなら、下腹部と臀筋が良い。


スクワットやデッドリフトでとにかく高重量を挙げるなら、ベルトで腹回りを固めながら腹圧を高めるのが良いのだろうけど、骨盤と脊椎をコントロールし臀筋をしっかり動員しながらの動作を行いたいならベルトはしないほうがやりやすいと思う。ベルトに頼って高重量を持ち上げると、脚と背中で持ち上げる感じになりやすいので、腰と股関節の付け根(鼠径部付近)を痛めやすいと思う。

まあこの話は多分エビデンスはないし、自分の感覚が根拠でしかない。私はスクワットはベルトは着けず、最近はデッドリフトも90%1RM以下で低ボリュームのトレーニングの時はベルトは着けない。デッドリフトとルーマニアンデッドリフトでトレーニングボリュームを多くする時は、体幹周りの筋肉が先にへたるのでベルトをする。

自分自身の話をすると、運動をしなかった20代は腰を痛めやすくて、ぎっくり腰も2回ほどやった。30代でジムに行くようになったけど、デッドリフトでよく腰を痛めていた。骨盤の前傾対策で、ヒップスラストやデッドバグ、広背筋や股関節屈筋のストレッチなどをやっていたら、腰を痛めることはなくなった。腰が張ることもほとんどないし、身体を機能的に使えている実感がある。熱心に筋トレをしているけど腰に不安があってベルトが手放せないという人は、是非これらのエクササイズをやってみてほしい。



◆運動パフォーマンスの話
座った状態から立ち上がる際に、腰が反って骨盤が前傾しているよりも、骨盤がニュートラルのほうが大腿四頭筋(内側広筋斜頭と外側広筋)の活動が活発になったという研究がある。従ってスクワットの際には、骨盤がニュートラルのほうが大腿四頭筋に力を入れやすいと思われる。

Activation of the vastus medialis oblique and vastus lateralis muscles in asymptomatic subjects during the sit-to-stand procedure
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4395737/



★スクワットの深さ
下の関連記事に書いたが、スクワットではハーフからパラレル付近までしゃがめば筋肥大効果は十分に得られると考えられる。ストレングスの観点では、オリンピックの重量挙げなど、競技の特性上ふかくしゃがまないといけない競技を行っている人は、深くしゃがむスクワットを行う必要があるけど、多くの競技ではそれほど深くしゃがむ必要はないと思われる。深くしゃがむ位置から強い力を出す訓練をしたとしても、たぶんほとんどの競技では深くしゃがんだ状態になった時点で負けなので、その姿勢にならない練習をしたほうが良いだろう。走ったり跳んだりという動作をする時は深くしゃがむ姿勢になったら最高のパフォーマンスは出せないし、ラグビーのようなコンタクトスポーツだったら深くしゃがむ姿勢になったらそのまま潰される。

柔軟性と身体コントロール能力を高め、butt winkが起きない範囲で、可能ならパラレル付近までしゃがむスクワットを行うのは、趣味で筋トレをしている人にとってもアスリートにとってもメリットがあることだと思うけど、特定の競技の選手以外は無理にフルボトムのスクワットを目指さす必要はないと思う。

関連記事:スクワットの深さ



butt winkについて調べていて、いくつか気になる主張があったのでコメントしておく。

★腰椎が伸展ポジションからニュートラルになるbutt winkは良いbutt winkという主張
スタート(直立時)では腰椎が伸展ポジション(骨盤が前傾)になっていて、ボトムでそれがニュートラルになるだけなら問題ないという主張がある。腰椎が屈曲するのは危険だけど、伸展なら安全という理屈。スタートで腰椎を伸展ポジションにするのは、背中へのせん断力に耐えるために脊柱起立筋群を強く収縮させておくのと、バーベルの重さで多少腰椎が動いてもいいようにニュートラルポジションまでのバッファーを作っておく、という理由。

前述したように腰椎が伸展ポジション(骨盤が前傾)なのは身体の安全で効率的な動作にマイナスであり、ニュートラルまでのバッファーであっても高負荷の状況下で腰椎が動くのは怪我リスクを高めるだけであり、また腰椎が伸展している状態(反り腰)で強い負荷をかけるだけでも腰痛の原因になる。腰椎が屈曲している状態で強い負荷をかけると一発で動けなくなる事故的な怪我をしやすいのに対し、腰椎が伸展している状態で繰り返し強い負荷をかけると事故的な怪我はしにくいが長期的で慢性的な痛みにつながりやすい。

あらかじめ腰椎を伸展させておくのは、単に体幹コントロールが出来ていないことを誤魔化すためだろう。体幹をコントロール出来るようし、ニュートラルポジションを維持したほうが良い。


★ニュートラルポジションの許容レンジ
腰椎のニュートラルポジションは単一の点ではなくてレンジであり、このレンジ内なら腰椎が動いても怪我リスクは低いという主張。

ニュートラルポジションはレンジであるという主張は間違っていない。ただ、怪我リスクが低くなるニュートラルポジションのレンジは負荷によって変わる。自重のスクワットなら腰椎がクネクネ動いても怪我リスクは低いだろうが、高重量のバーベルを担いでのスクワットなら安全なニュートラルポジションのレンジは相当狭くなる。


★高重量を挙げているアスリートがやっているからOK
オリンピックリフターやパワーリフターがやっているからOKという主張。彼らの最優先事項は競技パフォーマンスであり、長期的な身体のコンディションではない。また生存バイアスもあり、怪我をして競技から離れた選手は我々の目に入らない。butt wink問題に限らずこの手の主張はよく見かけるけど、アスリートと趣味のトレーニングとでは優先事項が異なるのでナンセンス。




参考サイト:
Should You Wear Olympic Lifting Shoes?
https://ericcressey.com/should-you-wear-olympic-lifting-shoes

Butt Wink Is Not About the Hamstrings
https://deansomerset.com/butt-wink-aout-hamstrings/

What really causes butt wink?
https://www.strengthandconditioningresearch.com/perspectives/buttwink/

Checklist for Determining Movement Dysfunctions and How to Get Over Them
https://deansomerset.com/checklist-determining-movement-dysfunctions-get/

Checklist for Determining Movement Dysfunctions: Part 2
https://deansomerset.com/checklist-determining-movement-dysfunctions-part-2/

How Deep Should I Squat?
https://www.t-nation.com/training/how-deep-should-i-squat

Effect of Knee Position on Hip and Knee Torques During the Barbell Squat
https://pdfs.semanticscholar.org/c375/ff851b69346484952590c2d1185252d7792e.pdf

12/05/2018

プッシュとプルのバランス

プッシュ・プレスと、ロウ・プルのトレーニグバランスをどうすれば良いか。

動画:EricCressey.com: Should You "Balance" Pushes and Pulls?
https://www.youtube.com/watch?v=t9XKZRIIazc

この動画で Eric Cressey が言っているように、必要なトレーニグはその人のコンディションによって様々で、画一的な処方箋があるわけではない。

だが、ウェイトトレーニングを熱心にやっている人がバランスを取るにはどうしたら良いか、基本的な考え方は提示できると思う。


★懸垂ではベンチプレスとのバランスは取れない
単純に考えても、腕を前に動かす動作とバランスを取るには、腕を後ろに動かす動作(水平方向に引く動作)をするのが良い。腕を下に動かす動作である懸垂を行っても、ベンチプレスとバランスは取れない。

バランスのとり方についてもっと詳しく見ていく。ベンチプレスの動作を、肩関節と肩甲骨の動きに分けて考えると、

・肩甲骨:寄せる
・肩関節:腕を前に出す(水平方向に押す)

従って、ベンチプレスの拮抗動作は、

・肩甲骨:開く
・肩関節:腕を後ろに引く(水平方向に引く)



肩甲骨を開くのと同時に腕を引くのは非常にやりにくいし、日常生活やスポーツに役立つ動作とも思えない。従って、ベンチプレスを熱心に行う人が、ベンチプレスの動作とバランスを取るトレーニングをするのなら、

a) 肩甲骨を開く動作を伴うトレーニグ
b) 腕を後ろに引くトレーニグ

の2種類に分けて、トレーニグを行うのが良いだろう。

肩甲骨を開く動作を伴うトレーニグは、以下の関連記事に具体的なエクササイズ例が載っている。

関連記事:前鋸筋の動員

片腕ランドマインプレスがベンチプレスとバランスが取れる動作というのは変な感じがするかもしれないが、肩甲骨の動きを考えてみると、開くと寄せるで対になっている。一般的なウェイトトレーニングのプログラムは、「肩甲骨を開く動作」が欠如しているので、肩甲骨を開く動作を伴うエクササイズを積極的に取り入れることで肩関節の健康を保ちやすくなるだろう。

腕を後ろに引くトレーニグは、一般的なロウ種目で良いだろう。シーテッドローやpendlay rowなど。詳しくは以下の記事を参考に。

関連記事:ロウ・プルのやり方


★本格的なウェイトトレーニングで起こりやすい肩周りの偏り
BIG3+懸垂といった本格的なウェイトトレーニングで起こりやすい肩周りの偏り(骨の位置のズレと筋力のアンバランス)についても書いておく。

BIG3と懸垂での肩甲骨の動きに着目すると、

・ベンチプレス → 肩甲骨は寄せる(内転)。下方向(下制)に固定するケースも多い。
・バックスクワット → 肩甲骨は寄せる(内転)。下方向(下制)に固定。
・デッドリフト → 肩甲骨は下方向(下制)に固定。
・懸垂 → 肩甲骨は下方回旋。


BIG3と懸垂を熱心に行うと、肩甲骨が下方向に強く押し付けられることが続き、その結果肩甲骨がスムーズに動かなくなりやすい。ウェイトトレーニングに熱心で、なで肩になっている人は、この症状になっている可能性が高い。

高重量でのバーベルトレーニングを行う必要がない場合は、バックスクワットの代わりにゴブレットスクワット、ベンチプレスの代わりに腕立て伏せを行うと、肩周りの偏りが緩和される。トレーニング初心者の中高年にBIG3をやらせているパーソナルトレーナーをよく見かけるけど、あれはやめたほうが良いと思う。


★肩甲骨の下方向への偏りへの対処法
まずは肩周りのストレッチをしっかり行う。特に広背筋のストレッチ。

関連記事:肩周りのストレッチ

バランスを取るためのエクササイズは、肩甲骨の上方回旋で使われる筋肉を鍛える。上方回旋でどのような筋肉が使われるかは、以下の記事を参考に。

関連記事:ショルダープレス

ショルダープレスで上方回旋の動作を鍛えようとすると、三角筋など強い筋肉ばかり使って、肩甲骨周りの細かい筋肉を鍛えにくい。また既に肩関節の機能に問題が生じている場合はショルダープレスをきちんと行えず、肩関節の怪我のリスクが高まる。以下に紹介するようなエクササイズを行い、上方回旋の動作を鍛えると良い。

動画:ShoulderPerformance.com: Prone 1-arm Trap Raise
https://www.youtube.com/watch?v=3fK93Ul0da8

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Prone 1-arm Trap Raise
https://www.youtube.com/watch?v=jzRpo0mv328
僧帽筋下部を鍛えるエクササイズ。注意点は、腰を反らない、顎を引く、肩甲骨は前傾しない、腕だけを上げるのではなくて肩甲骨を動かすことを意識、広背筋や三角筋後部や僧帽筋上部から力を抜くことを意識する。

動画:EricCressey.com: Wall Slides with Overhead Shrug
https://www.youtube.com/watch?v=e5-rB6bYBr8

動画:EricCressey.com: Forearm WallSlides at 135 Degrees
https://www.youtube.com/watch?v=W4h4DuUxaQs


★上腕骨の内旋
懸垂では広背筋が鍛えられるが、広背筋は上腕骨を内旋させる働きがある。大胸筋も上腕骨を内旋させる働きがある。大胸筋と広背筋が強いと、上腕骨が内旋(つまり巻き肩)の状態になりやすい。ローテーターカフのトレーニグで外旋動作を鍛えろ、とよく言われるのはこのため。内旋動作を行うローテーターカフが弱っている場合もあるので、その場合は内旋のローテーターカフも鍛える。広背筋や大胸筋では内旋を行うといっても肩関節を安定させるのは難しいので、内旋を行うローテーターカフを鍛えて肩関節を安定させる。

関連記事:ローテーターカフの強化



11/05/2018

前鋸筋の動員

★前鋸筋の基礎知識
前鋸筋の主な働きは、
・肩甲骨の外転:肩甲骨を開いて前に突き出す動き。
・肩甲骨の上方回旋:ショルダープレスなどで腕を上に挙げる時に必要となる肩甲骨の動き。以下の動画での肩甲骨の動き。

動画:Scapulohumeral Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=rpzBGlOEW4E

広背筋の使いすぎなどで肩甲骨が下制の位置に張り付いてあまり動かなくなっている場合、腕を上に挙げたり(ショルダープレスの動き)、腕を前に出したり(腕立て伏せの動き)するときに、上腕骨の動きに肩甲骨がついていかず、ボールとソケットがずれて、肩関節に痛みや違和感が出やすくなる。

本格的なウェイトトレーニングプログラムは、一般的にはBIG3や懸垂を中心として構成される。

しかし懸垂では広背筋が強く使われ、BIG3はどの種目も肩甲骨を下制の位置に固定しやすく、またベンチプレスは肩甲骨を固定したまま上腕のみを前に動かすため、BIG3や懸垂といった本格的なウェイトトレーニングを熱心にやればやるほど、プッシュ・プレス動作での上腕と肩甲骨の連動が失われやすくなる。

また菱形筋が過度に緊張して固く縮こまっていると、肩甲骨が寄って少し上がった状態になり、この場合も腕を上げたり前に出したりといった動作で、肩甲骨と上腕骨が連動しにくくなる。

そのため健康な肩関節の機能を保つには、肩甲骨周りのストレッチを行いつつ、前鋸筋に刺激を入れ、肩甲骨の突き出し・上方回旋を行う種目を積極的に取り入れるのが良い。


段階としては、

1) 肩甲骨がパッシブに動くようにする。
広背筋、菱形筋を中心として肩周りのストレッチを行う。

関連記事:肩周りのストレッチ

2) 肩甲骨をアクティブに動かせるようにする。
前鋸筋に刺激をいれて肩甲骨がプッシュ・プレス動作でよく動くようにする。

3) 上腕と肩甲骨の連動を脳に覚え込ませる。
前鋸筋を動員するプッシュ・プレス動作を繰り返し行い、上腕と肩甲骨が正常に連動して動くようにする。


★前鋸筋のエクササイズの基本
前鋸筋は腕を前に出して90度以上に挙げたポジションで負荷をかけると動員されやすい。

前鋸筋は意識して力をいれるのが難しい。肘を押し出すイメージで行うと前鋸筋が動員されやすい。手を押し出すイメージだと三角筋前部が動員されやすくなると思う。

いずれのエクササイズも臀筋に力を入れ、体幹を安定させ、腕を上げる時に腰が反って頭が前に出ないように気をつける。


★前鋸筋のエクササイズ例
上の方のエクササイズが前鋸筋にアイソレートで刺激を入れるエクササイズ、下の方のエクササイズが前鋸筋を動員する肩周りの複合動作。全てやる必要はないけど、順序としては上から下へ順にステップアップしていくと良いと思う。

動画:EricCressey.com: Short Plank with Reach Across and Under
https://www.youtube.com/watch?v=CuB2KC289r0
前鋸筋のアクティベーションと胸椎のローテーション。

動画:EricCressey.com: Bear Crawl Variations
https://www.youtube.com/watch?v=SJHw2nLEdL0
腕を前方向に90度以上に挙げたポジションで行う。三角筋前部のみで負荷を受け止めないよう注意する。

動画:Serratus Anterior Activation: Reach, Round, & Rotate
https://www.youtube.com/watch?v=hyfb9x7VJWE
肘を伸ばすのではなく、肘を前に押し出すイメージで、肩甲骨がしっかり動くことを意識する。胸椎はフラットにならず少し丸める。

動画:EricCressey.com: Serratus Wall Slides with J-Band
https://www.youtube.com/watch?v=gKxerg7TESQ
上のエクササイズの動きをゴムバンドで行う。

動画:Arm Care Lesson 24: Core positioning impacts scapular movement.
https://www.youtube.com/watch?v=o1eAv96wfdg
腕を前方向に90度以上に挙げたポジションでヨガプッシュアップ。

動画:EricCressey.com: Coaching the Landmine Press
https://www.youtube.com/watch?v=jCfcGei-NqM
片腕ランドマインプレス。やり方のコツは、腰を反らず体幹を安定、脇は締めず少し開ける、腕を引く際に身体より後ろに腕がいかない、腕を伸ばしたときに身体を前に倒す、三角筋前部のみで持ち上げず肩周り全体でプレス、首を前に突き出さず顎を引く。
このエクササイズは、ゴムバンドでやるのも良いと思う。ゴムバンドは自宅でもできるメリットがある。


関連記事:
肩関節の基礎知識

肩周りのストレッチ

ローテーターカフの強化

ロウ・プルのやり方

プッシュとプルのバランス

10/31/2018

ローテーターカフの強化

★ローテーターカフの基礎知識
肩関節のボール(上腕骨頭)とソケット(肩甲骨関節窩)、ローテーターカフと広背筋や大胸筋など大きな筋肉の腱の付着点を単純化して描いたモデル図。


ローテーターカフの腱はボールの近くに付着しているので、ボールをソケットに安定化する働きがある。一方で、支点と力点の距離が近いため、テコの原理により作用点(手)で発揮できる力は小さい。

広背筋や大胸筋や三角筋は筋肉自体が太いことに加えて、腱がボールから離れた箇所に付着しているので、作用点(手)で大きな力を発揮することができる、しかし、これらの大きな筋肉のみが強く働くとボールとソケットがずれやすくなる。

とりあえず腕を力強く動かすだけなら大きな筋肉を動かせば良いのだけど、それを続けるとボールとソケットの安定性が低下して肩関節に不具合が起きやすくなる。

肩関節を安定させつつ強い力を発揮するには、広背筋や大胸筋など大きな筋肉の筋力に見合うだけのローテーターカフの強さが必要になる。


★ローテーターカフのエクササイズの基本

ローテーターカフのエクササイズは、ボールがソケットからずれないようにしながら、上腕骨の外旋・内旋を意識して行う。


腕は胴体の真横ではなくて、胴体よりも少し前に出す。角度は10度~30度くらい。肩甲骨の同一平面上に上腕骨が来るようにする。

ローテーターカフ強化のエクササイズは、良い姿勢で行うのが重要。猫背にならないよう背筋を伸ばし、顎を引く。詳しくは、以下の関連記事を参考に。

関連記事:肩周りのストレッチ

立ってエクササイズを行う場合は、腰の反りで反動をつけないよう気をつける。前部コア(腹直筋下部と外腹斜筋あたり)と臀筋群に力を入れると体幹が安定し腰の反りが抑制される。

外旋・内旋をアイソレートして動かすのが難しい場合は、まずは他の人に手を抑えてもらったり、壁などに手を押し付けたりしながらアイソメトリックで力の入れ方を学ぶと良い。それから負荷なしで上腕の外旋・内旋を行い、慣れてきたらゴムバンドやケーブルで負荷をかけていく。

前述のように、ローテーターカフが作用点(手)で発揮できる力は小さい。負荷が強すぎると、三角筋や広背筋などの大きな筋肉で動かしてしまうので、無理に強い負荷で行うことは避ける。

個人的には、ローテーターカフのエクササイズはゴムバンドが効かせやすい。次点でケーブル。ダンベルは負荷をかける方向の調整が難しい。ローテーターカフのトレーニグは、ハードなのを週2,3回やるよりも、軽いのを毎日やったほうが良い。ゴムバンドを買って家でストレッチのついでに軽くトレーニグすると良いと思う。ジムに行く日は、他の種目の合間にやると時間を効率良く使える。


★エクササイズ例
動画:EricCressey.com: Fine-Tuning the Band Pullapart
https://www.youtube.com/watch?v=73Dm-j5wYIc
腕を開いた時の肩甲骨のポジションは、フォームローラーの上に寝て腕を開くと学びやすい。フォームローラーに肩甲骨が沿う程度に肩甲骨を寄せる。腕の動きに沿って結果的に肩甲骨が少し寄る程度で良く、意識して無理に肩甲骨を寄せなくて良い。

動画:EricCressey.com: Coaching the Cable External Rotation
https://www.youtube.com/watch?time_continue=63&v=QqkErY_Z2Dg
外旋動作のやり方。この動画では、上腕二頭筋がrotisserie chickenの鶏肉のように回転するイメージでやる良いと言っている(上腕骨が金串)。

動画:Face Pull Y Press
https://www.youtube.com/watch?v=FN_VCg1j6Sw
家でやる場合はドアの取手などにゴムバンドを引っ掛ける。私はジムでは、スクワットの合間にバーに引っ掛けてやっています。

動画:EricCressey.com: Troubleshooting the Side-Lying External Rotation
https://www.youtube.com/watch?v=ry7ZU-JVGZA
ダンベルで外旋トレーニグを行う場合の注意点。頚椎、胸椎、肩甲骨の位置をニュートラルに保つ。腕と胴体がぴったりくっつかない(脇の角度は30°くらい)。肩をすくめたり、なで肩になったりしない。広背筋や僧帽筋上部の力を抜く。
 
動画:EricCressey.com: 1-arm Bottoms-Up Kettlebell Carry
https://www.youtube.com/watch?v=mkSSED3NxFU
体幹を締める、上腕二頭筋や三角筋前部で持ち上げるのではなく、肩周り全体で負荷を受け止める。肩甲骨が前傾せず、良いポジションを保つように気をつける。ケトルベルが無ければ、ウェイトプレートを縦に持って行うのも良いだろう。

動画:SturdyShoulders.com: When Should You Train Shoulder Internal Rotation?
https://www.youtube.com/watch?v=aapa6VXbQVk
ローテーターカフのエクササイズは一般的に外旋動作が多いけど、内旋を行う肩甲下筋が弱っている場合もあるので、コンディションによっては内旋動作もトレーニグする。
パッシブの可動域(外部の力で動く範囲)と、アクティブの可動域(自分の力で動く範囲)に大きな差がある場合は、内旋動作もトレーニグするのが良い。1:40~のエクササイズを参考に。台にうつ伏せになって、肩甲骨が動かないように注意し、ボールとソケットがずれないようにしながら上腕を内旋させて肩甲下筋を鍛える。大胸筋や広背筋に力が入らないようにする(これらの筋肉も上腕の内旋を行う)、



関連記事:
肩関節の基礎知識

肩周りのストレッチ

前鋸筋の動員

ロウ・プルのやり方

プッシュとプルのバランス

10/19/2018

肩周りのストレッチ

★姿勢・アラインメント・筋力バランス
良い姿勢に骨の配列が収まっていて、筋力のバランスが取れていると肩がよく動くようになる。姿勢がニュートラルポジションから逸脱していたり、関節の安定に寄与する小さな筋肉が働かなくなって大きな筋肉で力任せに動かす癖がついていたりする場合は、姿勢の矯正をした上で正しい関節動作を身体に覚え込ませる必要がある。

段階としては、
step1. 使いすぎて固く縮こまっている筋肉を緩めて伸ばす。
step2. 弱っている小さな筋肉をアイソレートして鍛える。
step3. 大きな筋肉と小さな筋肉が連動して動作を行えるよう身体に覚え込ませる。
step4. 肩関節の健康を保つ上でバランスのとれたトレーニングを行う。

大胸筋や広背筋が固く縮こまっていて姿勢が悪く、前鋸筋やローテーターカフなど小さな筋肉が弱っている場合は、step1から順に行う。

現状で大きな問題がなければstep3と4で、小さな筋肉を動員するエクササイズをバランス良く行うことで、肩関節に不具合が起きないようにする。BIG3を中心としたウェイトトレーニングを行う場合は、大胸筋や広背筋が固く縮こまらないよう、これらの大きな筋肉のストレッチを並行して続けると良い。

今回の記事はstep1についてのみ。

step2については、弱っている代表的な小さな筋肉であるローテーターカフと前鋸筋について、それぞれエクササイズ方法を紹介するつもり。

step3については、プル・ローイング動作のやり方を書くつもり。プッシュ・プレス動作については、前鋸筋の記事にまとめて書くつもり。

step4については、プッシュ動作とプル動作のバランスのとり方について書くつもり。


★肩関節を動かしやすい良い姿勢
- 猫背にならない。胸椎はニュートラルなカーブを描き、肩甲骨が前傾しない。
- 肩甲骨が寄り過ぎたり離れ過ぎたり、上がりすぎたり(いかり肩)、下がりすぎたり(なで肩)になっていない。
- 上腕骨が前方に突き出たり、内旋したりしない。直立して腕をだらんと下ろした際に、手のひらが後ろを向くようだと上腕骨が内旋している。
- 首が前に突き出ていない。首が反っていない。

現時点でニュートラルな姿勢からどのような逸脱が起きているかは個人差がある。生活習慣や長年行っている競技によっても異なる。効果的な対処をするには、専門家による現状の正確なアセスメントが必要。

それを前提とした上で、「ウェイトトレーニングに熱心な人がどのような状態になりやすく、それにはどう対処したら良いか」について汎用的な対処法を書いていく。あくまで汎用的な方法なので、現状分析した上でのスペシャルな対処法には効果が劣るだろう。

ウェイトトレーニングに熱心な人が固く縮こまりやすい主な筋肉は、大胸筋、小胸筋、広背筋、菱形筋。


★姿勢の歪みの例
動画:EricCressey.com: Should You "Balance" Pushes and Pulls?
https://www.youtube.com/watch?v=t9XKZRIIazc
動画に出てくる最初の例は、広背筋を多く使うトレーニグにより肩甲骨が下に押し付けられて、なで肩になっている状態。デッドリフトや懸垂で広背筋は強く使うし、ベンチプレスやスクワットでも肩甲骨は下に押し付けられやすい。そのため本格的なウェイトトレーニングを行うとこの状態になりやすい。この場合は広背筋のストレッチを行うのが良いだろう。

動画の1:43~でmilitary postureと言っている例は、菱形筋が固く縮こまって肩甲骨が寄りすぎて少し上がっている状態。ベンチプレスやスクワットでは肩甲骨を寄せて固定するし、また身体を後ろに倒して肩をすくめながらローイングをやるとこうなりやすい。この場合は肩甲骨を開くストレッチをやったり、テニスボールなどでマッサージして菱形筋をほぐすと良い。

動画:Effects of bad posture on your spine: prevent with Low Pressure Fitness
https://www.youtube.com/watch?v=Obsut3Dc2Ok
大胸筋や小胸筋や広背筋が固く縮こまり、猫背巻き肩になっている例。首も前に突き出している。Youtube で bad posture で検索すると、もっとわかりやすい生身の人間の例が出てくるのだけど、対処方法がいまいちなのでここでは紹介しない。大胸筋や広背筋の使いすぎで猫背巻き肩になっている場合は、胸椎を伸ばし、大胸筋と広背筋のストレッチを行うと良い。


★使いすぎて固く縮こまっている筋肉をストレッチする
肩関節周りのストレッチを行う際に共通する注意点は、肩関節のボールとソケット部分のみを大きく曲げないこと。胸椎と肩甲骨を同時に大きくゆっくり動かすことを意識する。ボール・ソケット部分をグイグイ曲げると、肩関節の安定性が低下する恐れがある。肩甲骨と胸椎の可動性を高めることを意識してストレッチを行う。

・胸椎
丸まった胸椎を伸ばす。胸椎の捻りも重要。

TonyGentilcore.com How to Perform Thoracic Extension on Foam Roller Correctly
動画:https://www.youtube.com/watch?v=Oi9MeEGiQ-0
フォームローラーで胸椎を伸ばす時の注意点。腰椎を伸ばすのではなく、胸椎を伸ばす。グイグイと反らない。胸を開かない。首を反らない。1:00~が良いやり方の例で、腰が反らないよう体幹を締め、胸が開かないよう腕を前に伸ばしながら行う。胸椎の可動域は小さいので、少しだけ動かせば良い。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Bench T-Spine Mobilizations
https://www.youtube.com/watch?v=qovO0ysEpuc
顎を引いて胸椎を伸ばしたまま、ゆっくりと身体を下ろしていく。下ろしきったところで息を深く吐き出す。広背筋や上腕三頭筋も同時にストレッチできる。

動画:HighPerformanceHandbook.com: Side-Lying Windmill
https://www.youtube.com/watch?v=RX21NOL61OE
腰椎は固定して捻らない(ヘソの位置が動かないよう意識するとやりやすい)。肩関節のみを回さず、胸椎を含む上背部全体を大きく回す。自分の手の動きを目で追うとやりやすい。

・大胸筋、小胸筋
グイグイとアグレッシブにストレッチしないこと。肩関節は優しく扱う。胸筋のストレッチはリラックスして鎖骨をゆっくり開くイメージでやると良い。腕だけ後ろにいって胴体が前に残ると、上腕骨のボール部分が前に押し出されて肩関節に良くない。

動画:Doorway slides
https://www.youtube.com/watch?v=b0Ccih0z7pE

動画:Corner Wall Chest Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=Kvo7054R3fQ

動画:ShowandGoTraining.com: Pec Major & Minor Soft Tissue
https://www.youtube.com/watch?v=kOtSeKKJDmc

・広背筋
広背筋のストレッチのポイントは、腕を身体の前方に、親指は上を向く、肩甲骨も腕に合わせて動かす、胸椎は伸ばす、腰椎は丸める、伸ばしたポジションでゆっくりと息を吐いて、吐ききった状態で静止。

動画:EricCressey.com: TRX Deep Squat Breathing with Lat Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=LENyTY-MKy4
広背筋のストレッチ。パワーラックに手を引っ掛けてやったり、床の上で土下座スタイルで腕を前に伸ばしてやっても良い。

・菱形筋
菱形筋のストレッチを調べてみたけど、腕を自分の身体に寄せて引っ張ることで肩甲骨を開いて菱形筋をストレッチするやり方が多い。このやり方だと肩関節のボールとソケット部分の角度が鋭角になって、肩関節の安定性が低下しそうなので、肩関節のボールとソケットがなるべく鋭角にならず、肩甲骨をのみを開くやり方が望ましい。

動画:Rhomboid Stretch
https://www.youtube.com/watch?v=j4NyH5YNLl4
こんな感じが望ましい

動画:How to Stretch Rhomboids
https://www.youtube.com/watch?v=ca5j-33Bn6c
この動画の後半のように腕を自分の身体に寄せて引っ張ると肩関節に悪そうな感じ

個人的には、下図のようにダンベルを片手に持って、ダンベルの重さで菱形筋を伸ばすのがやりやすい。ダンベルの重さは私は20kgくらいがちょうど良かった。軽すぎると伸びないので適度に重いのが良いと思う。胸椎の捻り方向のストレッチも同時に行える。



動画:Tennis Ball Rolling Exercises for Upper Back Pain -Missoula Chiropractor Krieg Tip
https://www.youtube.com/watch?v=bFI6hGRa-hg
菱形筋をテニスボールでほぐす。肩甲骨と背骨の間にボールを置いて行う。硬めのマットレスのベッドの上に寝て行うのも良い。

・首の突き出し、反り

首周りのエクササイズは慎重にゆっくり行うこと。グリングリンと勢いよく回したり、強い負荷をかけないこと。それとスクワットやデッドリフトで首を反って挙上するのは、首の突き出しや反りを悪化させるので止めたほうが良い。

動画:FIX Forward Head Posture! (Daily Corrective Routine)
https://www.youtube.com/watch?v=wQylqaCl8Zo
首が前に突き出ている場合の矯正方法。他の箇所の姿勢矯正と同様に、固く縮こまっている筋肉を伸ばして、弱い筋肉を鍛える。顎を引くストレッチは、立って背中を壁につけて行うのも良い。



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9/28/2018

肩関節の基礎知識


熱心にウェイトトレーニングを行う人は、肩の怪我をしやすい。ウェイトトレーニングをハードに行いつつ、肩のコンディションを良好に保つにはどうすればよいか。基礎的な知識をいくつかの記事に分けて書いてみたい。

肩のコンディションは人によって様々で、現時点で痛みが激しい場合は、専門家に診てもらうのが良いだろう。


★肩関節の基礎知識
肩関節は、ボール(上腕骨頭)とソケット(肩甲骨関節窩)の組み合わせになっている。ただソケットはかなり浅いので、プラモデルのボールジョイントなどと違ってボールがずれやすい。けん玉の皿と玉、もしくはゴルフのティーとボールの形に近い。肩関節には腱や靭帯や神経が密集しており、ボールがずれるとこれらの組織を圧迫して不具合が生じる。




運動を熱心に行う人が肩関節の健康を保つために最も重要なことは、

ソケットからボールをずらさない


そのためには腕と肩甲骨がうまく連動して動くことが必要となる。腕を動かすとボールが動き、腕に連動して肩甲骨が動くことで、肩甲骨のソケットで上腕のボールを受ける。

上腕骨と肩甲骨の連動の話でよく言及されるのが肩甲上腕リズムで、筋トレだとショルダープレスを行う際にこの動きになる。

動画:Scapulohumeral Rhythm
https://www.youtube.com/watch?v=rpzBGlOEW4E


腕を上に挙げる時だけではなく、腕立て伏せで腕を身体の前方に押し出す動きでも、ローイングで腕を後ろに引く動きでも、肩甲骨と上腕が上手く連動して動くことが大事。腕が前に出れば、肩甲骨も前に出る。腕を後ろに引けば肩甲骨も後方からやや内側に動く。

ローイングやプルやプレスの種目で、フォームについて考える時は、「肩甲骨と上腕が連動し、ボールがソケットからずれていないか?」を考えるのが良いと思う。ローイングでは肩甲骨を寄せて・・・といったキューは本質的ではないだろう。

(この点で、肩甲骨を寄せて固定したまま上腕を前に動かすベンチプレスの動作は、肩関節にとっては不自然な動作になる。ベンチプレスでは肩甲骨を固定して安定性を高めることでより強い力を発揮するようにしていて、「強い力を発揮する」という観点からは理に適ったフォームではあるのだけど、肩関節の健康という観点からはデメリットがある)

上腕と肩甲骨の連動のためには、大胸筋や広背筋といった大きな筋肉の筋力や柔軟性、前鋸筋や僧帽筋やローテーターカフの働きなど、肩関節の動きに関わる筋肉のバランスが重要となってくる。また肩甲骨や上腕骨や胸椎といった骨が、姿勢の良い位置に収まっていることも重要となる。


関連記事:
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8/24/2018

連日トレーニング

一般的にレジスタンストレーニングでは、ある部位(筋肉)をトレーニングしたら、次のトレーニングまで48時間~72時間程度空け、筋肉が回復してから再度トレーニングするのが良いと言われる。これは半ば常識となっている。

その常識にチャレンジした研究が今回の2つの研究。トレーニングの頻度とボリュームを揃えて、連日同じ部位をトレーニングするグループと、最低でも1日休みを入れるグループでトレーニング効果に違いが出るか調べている。

例えば以下のようなトレーニングプログラムで効果に違いが出るか。
連日:月曜~木曜が休み、金曜~日曜に全身トレーニング。
隔日:月曜、水曜、金曜に全身トレーニング。


(1)Effects of Consecutive Versus Non-consecutive Days of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Red Blood Cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6015912/

被験者:若い男性(たぶんシンガポール人)。日頃から運動をしているが本格的なレジスタンストレーニングをしているわけではない。

トレーニング内容:
両グループとも全身を週3日トレーニング。トレーニング期間は12週間。トレーニング種目とトレーニングボリュームはグループ間で同じ。グループ間で異なるのは、トレーニングを3日連続で行うか、最低でも1日空けるか。

トレーニング種目は全てのトレーニング日で共通。
- レッグプレス
- ラットプルダウン
- レッグカール
- ショルダープレス
- レッグエクステンション

全種目10RMの重量で3セット×10レップ(10RMの重量で10レップなのでたぶん全セット限界まで)

結果:
両グループともストレングスが伸び、除脂肪体重が増えた。ストレングスの伸び、除脂肪体重の増加量にグループ間で有意差なし。


(2)Nonconsecutive versus consecutive-day resistance training in recreationally trained subjects.
https://www.researchgate.net/publication/308763287_Nonconsecutive_versus_consecutive-day_resistance_training_in_recreationally_trained_subjects

被験者;
趣味で運動している若い男性(たぶんポルトガル人)。除脂肪体重(60kg台前半)とベンチプレス1RM(80kg後半)とトレーニング歴(8年くらい)からすると筋トレ中級者だと思う。

トレーニング内容:
両グループとも全身を週3日トレーニング。トレーニング期間は7週間。トレーニング種目とトレーニングボリュームはグループ間で同じ。グループ間で異なるのは、トレーニングを3日連続で行うか、最低でも1日空けるか。

種目は以下の通り。全てのトレーニング日で全身トレーニングだけど、トレーニング日によって少し種目に違いがある。レップ数もトレーニング日によって変わっている。


結果:
体組成は両グループとも実験前後で変化なし。腕と脚の太さの変化は連日グループがわずかに良い結果。

ストレングスはベンチプレスとレッグプレスについて測定。両グループともベンチプレスとレッグプレスの記録が伸びた。グループ間で伸びに有意差なし。


☆コメント
上の2つの研究で共通するのは
- 被験者は初心者~中級者。
- コンパウンド種目は多いがマシン中心で、全身への負荷がきついスクワットやデッドリフトは行っていない。
- 部位あたりのトレーニングボリュームはそれほど多くない。

今回の2つの研究ではトレーニングボリュームはそれほど多くはない。ただ多くはないと言っても、3セットか4セットを限界まで行っているので、24時間では筋肉のダメージもトレーニングキャパシティも回復していないだろう。それでもグループ間で差がないので、完全に回復せずトレーニングを行ってもちゃんと効果が得られるようだ。

Time restricted feeding(リーンゲインズのように決まった時間枠内でのみ食事を行う)の研究(4)で示されているように、食事タイミングを分散させなくても栄養はしっかり消化吸収されるし、トレーニングタイミングを分散させなくてもトレーニング効果は得られる。最近は、短期の研究から推測されるよりも人体がフレキシブルに適応できることを示す研究が増えてきていて面白いと思う。

今回の研究結果は、トレーニングプログラムを組む上でのフレキシビリティを高める。例えば、トレーニングを行える日が土曜と日曜しかない場合、一般的に推奨される部位あたり48~72時間の休息を入れようとすると、土曜に下半身、日曜に上半身といった分割スタイルになり、部位あたり週に1回しかトレーニングが行えない。現状のエビデンスからは、週に1回よりも週に2~3回トレーニングした方がストレングスも筋肥大も高い伸びになる可能性が高いので、全身を連日トレーニグすれば、休みを入れて週に2回トレーニングするのと同等の効果を得ることが出来、部位あたり週1回トレーニングするよりも高いトレーニング効果が得られることが期待される。(5)(6)

ただ中級者から上級者になるとトレーニングの重量とボリュームが増えてきて、連日トレでは2日目以降はトレーニングの質と量が落ちるだろう。またスクワットやデッドリフトは回復に時間がかかると考えられる(3)。上級者が連日ハードに同じ部位や同じ種目をトレーニングしようとすると、トレーニングの質と量が低下することにより、休みを入れてトレーニングするよりも伸びが低くなる可能性が高い。

中級者から上級者で、諸事情により連日同じ部位をトレーニングしないといけない場合は、以下のような点を考慮して疲労管理を行いつつ、トレーニングの質と量を確保するのが良いと思う。
- セット間インターバルを長めに取る。
- 全セット限界までやると筋肉のダメージが大きくなるので、追い込み度を下げる。特に1日目は追い込み度低めが良いだろう。目安としては多くのセットを限界まで2-4レップ残し程度で行う。
- 筋肉のダメージの度合いは概ねトレーニングボリュームに比例するので、1日目にボリュームが低くなる高強度低レップのストレングストレーニング(目安は85%1RM以上の重量、5レップ以下)を行い、2日目に高ボリュームの筋肥大トレーニング(目安は60%~85%1RMの重量、6-15レップ)を行うのも良い。
- 同じ部位でも、1日目はフリーウェイト、2日目はマシンやアイソレートといった感じで種目を少し変えてみる。



参考文献:
(1)Effects of Consecutive Versus Non-consecutive Days of Resistance Training on Strength, Body Composition, and Red Blood Cells.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6015912/

(2)Nonconsecutive versus consecutive-day resistance training in recreationally trained subjects.
https://www.researchgate.net/publication/308763287_Nonconsecutive_versus_consecutive-day_resistance_training_in_recreationally_trained_subjects

(3)Resistance Training Recovery: Considerations for Single vs. Multi joint Movements and Upper vs. Lower Body Muscles
https://digitalcommons.wku.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1653&context=ijes

(4)Effects of eight weeks of time-restricted feeding (16/8) on basal metabolism, maximal strength, body composition, inflammation, and cardiovascular risk factors in resistance-trained males
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5064803/

(5)Training Frequency for Strength Development: What the Data Say
https://www.strongerbyscience.com/frequency-muscle/

(6)Training Frequency for Muscle Growth: What the Data Say
https://www.strongerbyscience.com/frequency-muscle/


関連記事:
限界まで追い込んだ場合と追い込まなかった場合の回復の違い

8/10/2018

運動からの疲労回復方法(2018年版)

An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.00403/full

マッサージやコンプレッションウェアなど、運動後に行われる疲労回復方法について、どの手法がどれくらいの効果があるかを調べたメタ解析研究。


★回復の評価軸
筋肉のダメージと炎症の指標
- creatine kinase (CK)
- C-reactive protein (CRP)
- interleukin-6 (IL-6)

被験者の主観
- 筋肉痛
- 疲労感


★結果一覧
massage:マッサージ
compressive garments:コンプレッションウェア
immersion:水に浸かる
electrostimulation:電気刺激
stretching:ストレッチ
cryotherapy:クライオセラピー(超低温の冷気を短時間当てる)
active recovery:アクティブリカバリー(運動後に低強度の運動をする)
Contrast Water Therapy:冷水と温水に交互に浸かる
hyperbaric therapy:いわゆる酸素カプセル

筋肉のダメージと炎症の指標





筋肉痛(DOMS)と疲労感(perceived fatigue)




★回復方法別の結果解説
・マッサージ
- 疲労感を軽減するのに最も有効(コルチゾールレベルの低下とβエンドルフィンレベルの上昇が寄与か)。
- 筋肉痛の軽減効果も高い。
- CKとIL-6の低下に最も効果的(筋肉のダメージの軽減と回復の促進を示唆)。

想定メカニズム:筋肉の血行をよくし、浮腫を軽減する可能性。

実践: 運動後2時間以内に20-30分のマッサージ。


・コンプレッションウェア
- 筋肉痛と疲労感の軽減に効果的。
- 今回の解析では、各種炎症マーカーのCK, IL-6, CRPについては効果は見られず。
- 既存の研究は、回復期間、着用期間、どれくらいの圧力がかかるか、着用する部位などがバラバラで、またコンプレッションウェアの実験では運動の強度が低い傾向があり、そもそもダメージがあまり出ていない可能性もある。

想定メカニズム:圧力で浮腫を軽減、筋肉から老廃物を排出しやすくする。

実践:運動後24時間以上は着用したほうが良さそう。


・水に浸かる
- 筋肉痛と疲労感の軽減に効果的。
- CKをやや低減。IL-6とCRP については有意差なし。

想定メカニズム:浮腫の軽減と痛みの感覚の麻痺。水圧が筋肉から代謝物の排出を促進。血管収縮により炎症が拡がるのを防ぐ。

実践:11–15℃の冷水に11–15分浸かる。(体温以下の水温なら効果があるので厳格にこの温度にしなくても良い)


・冷水と温水に交互に浸かる
- 筋肉痛に効果あり。疲労感については有意差なし。
- CKの低減。

想定メカニズム:血管収縮と血管拡張を繰り返すことで浮腫の軽減、炎症と痛みの軽減。


・アクティブ・リカバリー
- 筋肉痛に効果あり(運動後の短い時間での効果が大きい)。疲労感については有意差なし。
- CK, IL-6, CRPは有意差なし。

想定メカニズム:血行を良くし、代謝物の除去を促進。


・クライオセラピー
- 運動後の短い時間に筋肉痛に小さな効果あり。
- IL-6は低減。CKとCRPには有意差無しだが、継続的な使用でCKに低減効果が出るとする研究もある。
- 既存の研究は温度や使用タイミングなどがバラバラ。


・ストレッチ、電気刺激
- 筋肉痛と疲労感については低減効果なし。ストレッチは筋肉痛を悪化させる場合も。



★解析結果についての留意点
- 研究によって運動の強度がまちまち。強度の高い運動をすればそれだけ低減効果が出やすくなり、逆に強度の低い運動をするとダメージと疲労が小さいので低減効果も出にくくなる。
- レーザーや振動を使った最新の手法は、既存の研究の数が少ないので今回の研究には含まず。
- パフォーマンスは別の評価軸で今回の研究では含まず。ダメージや炎症の指標の変化と、実際の運動パフォーマンスの変化が一致するわけではない。



☆コメント
疲労回復方法については以前書いたけど、以前の記事は古い研究を基にしているので、今回のメタ解析研究の結果で情報をアップデートして良いと思う。

推奨方法は・・・
運動が生活に関わる人は、お財布と相談しながらマッサージを受けるのが良いでしょう。

趣味で運動をしている人は、水に浸かるかコンプレッションウェアが良さそう。水に浸かるのは体温以下の水温ならば効果があるので水風呂がない場合はプールでも良いだろう。ただ後述するように冷水に浸かるのは筋肥大とストレングスの向上を妨げる可能性があるので、筋トレをしている人は注意したほうが良いと思う。コンプレッションウェアは長時間の着用が必要なようなので、人によっては着用し続けるのが少し鬱陶しいと感じるかもしれない。

運動からの回復には十分な食事と睡眠が最も大事で、プラスアルファで疲労回復のために何ができるか。趣味で運動している人は、上に挙げた効果的な方法へのアクセスに難がある場合は、無理してやる必要もないと思う。運動のボリュームを適切に設定し、しっかり食べてしっかり寝るのが基本。

アスリートの場合は、状況によって回復方法を使い分けるのも良いだろう。例えば1日に複数回の試合をするような場合は、アクティブリカバリーのように短時間でも痛みが軽くなってパフォーマンスを上げられるならば意味があるだろう。

ダメージや炎症の軽減が、長期的な適応にどのような影響を及ぼすのかはあまりわかっていない。トレーニング後に10度の冷水に10分浸かると筋肥大とストレングスの伸びが阻害されたという研究(2)があり、高用量の抗炎症薬の継続的な服用でも筋肥大とストレングスの伸びが阻害されたという研究(3)があるので、ダメージや炎症を和らげるとそれだけ筋肥大しにくいといったこともあるかもしれない。

ただ考えられる説がいくつかあって、
(ⅰ) 筋肉のダメージが筋肥大に深く関わっていて、筋肉のダメージを軽くし早く回復させることで筋肥大が抑制される。(最近の筋トレ研究のトレンドでは筋肉のダメージは筋肥大に直接的な関係があまりないというのが主流になっているが)
(ⅱ) ダメージや炎症を抑制する方法や薬物は、同時に筋肥大のプロセスも抑制する。
(ⅲ) トレーニング初期は筋肉のダメージが大きく、繰り返しトレーニングを行いダメージの修復を繰り返すことで、筋肉がトレーニングに耐えられるようになり、それからようやく本格的な筋肥大が始まる。ダメージは筋肥大には直接的には関わらないが、トレーニングに耐えうる筋肉へのトランスフォームを行うのに重要な役割を果たす。トレーニング後の炎症反応を無理やりに抑制するとダメージの修復が遅れて、トレーニングに耐えうる筋肉へのトランスフォームが進まず、筋肥大フェーズに入りにくい。

素人の考えだが、(ⅱ) and/or (ⅲ)の説がもっともらしい説明だと思う。適度な炎症は適応に必要なので、通常のトレーニングで起こる程度の炎症を抑え込むのはあまり良くない感じがする(もちろん怪我や病気での炎症は抑え込んだ方が良いだろう)。従って感覚が麻痺するほどの低温の水に浸かったり、冷気を当てたりするのは適応を妨げる可能性がある。一方で、マッサージやコンプレッションウェアは代謝物の排出促進などにより回復を早めるのがメインな感じがするので、適応を妨げないかもしれない。水に浸かるのも、水圧による回復効果があるのなら、20-30℃程度の温い水に浸かるのは筋肥大とストレングスの向上を妨げないかもしれない。

あとストレッチやフォームローラーは、筋肉の疲労回復には効果がないとしても、姿勢や筋肉のバランスを整えて怪我を防止するのに効果的なので、なるべく行ったほうが良いと思う。詳しくは関連記事の「ストレッチとウォームアップ」を参考に。運動後の激しいストレッチは筋肉痛を悪化させる可能性があるので、運動後にストレッチをやる場合は軽くやるのが良いだろう。個人的にはストレッチとフォームローラーは運動前と寝る前にやっています。



参考文献:
(1)An Evidence-Based Approach for Choosing Post-exercise Recovery Techniques to Reduce Markers of Muscle Damage, Soreness, Fatigue, and Inflammation: A Systematic Review With Meta-Analysis
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2018.00403/full

(2)Post-exercise cold water immersion attenuates acute anabolic signalling and long-term adaptations in muscle to strength training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4594298/

(3)High‐doses of anti‐inflammatory drugs compromise muscle strength and hypertrophic adaptations to resistance training in young adults
https://www.researchgate.net/publication/319204260_High-doses_of_anti-inflammatory_drugs_compromise_muscle_strength_and_hypertrophic_adaptations_to_resistance_training_in_young_adults



関連記事:
筋トレの疲労と回復方法

疲労のメカニズム

ストレッチとウォームアップ