6/11/2016

遺伝的な要因による筋トレ効果の違い

Genetics and Strength Training: Just How Different Are We?

遺伝的な要因によって、筋トレの効果にどのような個人差が出るのか。この記事をネタに筋トレの効果の個人差について書いてみたい。

ここでの遺伝的な要因とは、生まれつきの遺伝子と幼児期の発達過程で決まり大人になったらほぼ変えられないもののこと。


全く同じレジスタンストレーニングを行っても、筋肥大への効果にはかなりの個人差がある。これを示す研究はいくつもあって、

Variability in muscle size and strength gain after unilateral resistance training
https://www.researchgate.net/publication/7794282_Variability_in_muscle_size_and_strength_gain_after_unilateral_resistance_training
利き腕じゃない方の上腕二頭筋を12週間トレーニング。18-40歳の男女。被験者数500人超え。
レップ数は期間後半になるにつれて低レップに:12レップ→8レップ→6レップ

筋肥大にはかなり個人差がある。年齢と筋肥大の程度には相関が見られなかったので、(年齢と相関する)テストステロンレベルの差は筋肥大の個人差に重要な影響を及ぼしていないようだと論文では述べられている。



ただ、年齢と筋肥大に相関が見られなかったというのは、加齢とともに筋量が衰えていてトレーニング開始初期はマッスルメモリーで若者と同等の筋肥大になっていた可能性もある。トレーニングを継続していくと、年齢による差(テストステロンレベルによる差)が出てくるかもしれない。既存の研究は、トレーニング歴のない人を対象とした研究は被験者の年齢は様々だが、トレーニング歴のある人を対象とした研究はだいたいが大学の運動部員や20代のアスリート、つまり若者のみ。なのでマッスルメモリーの影響はよくわからない。

個人差をもたらしているのはレセプターなどの局所的な反応システムなのかもしれない。上半身と下半身の発達のしやすさには差があるし、女性は一般的には上半身の骨格が華奢で、上の研究でも示されているように上半身の筋肉が発達しにくい。

High responders to resistance exercise training demonstrate differential regulation of skeletal muscle microRNA expression
http://jap.physiology.org/content/110/2/309.long
この研究では、トレーニングへの反応の良いグループと悪いグループのmiRNAの違いを調べていて、miR-378の変化が除脂肪体重の変化と相関しているという結果に。
レップレンジは6-12レップ程度。トレーニングへの反応の良いグループと悪いグループでは、タイプⅠ・Ⅱ筋繊維の構成に違いはなかった



Regulation of IGF -1 signaling by microRNAs
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4292735/
miR-378は心筋細胞のIGF-1シグナリングに関わるらしい。心肥大のメカニズムの文脈で研究されている。


思春期にはテストステロンレベルやIGF-1レベルが急上昇して、これが骨格や筋肉など身体の成長を促進する。人によってどの程度発達するかは、ホルモンレベルと局所的な反応システムの感度が影響してくるのだろう。成人後もレセプターか何かの局所的な反応システムの感度が筋肥大の個人差に影響を与えているのではないだろうか。思春期にガッチリした骨格になる人は、ホルモンの骨と筋肉への反応が良くて、成人後も筋肥大が起こりやすいのかもしれない。ちなみにAGAもレセプターの問題・・・。

Free testosterone is a positive, whereas free estradiol is a negative, predictor of cortical bone size in young Swedish men: the GOOD study.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16007330
テストステロンレベルと骨の太さは相関する、という研究もある。


既存の研究でわかっていることは、6-12RM、3セット、週2回といった一般的なレジスタンストレーニングプログラムに対する反応が悪い人がいるということだけ。反応が悪い人も他のスタイルのレジスタンストレーニングプログラムで良い反応が出る可能性は残っている。

A genetic-based algorithm for personalized resistance-training
https://www.researchgate.net/publication/299415724_A_genetic-based_algorithm_for_personalized_resistance-training
この研究では遺伝子を調べて、パワー型(速筋型)と持久型(遅筋型)にグループを分け、それぞれグループをまた2つに分けて、高強度トレと低強度トレを行った。
高強度:10セット×2レップ
低強度:3セット×10レップ(2週間)→3セット×15レップ(3週間)→3セット×20レップ(3週間)
種目は、デッドリフト、プルダウン、フロントスクワット、フラットダンベルプレス、踏み台登り、垂直跳び。

得意と思われるレップレンジでトレーニングを行ったグループは、「パワー型×高強度トレ」「持久型×低強度トレ」。
苦手と思われるレップレンジでトレーニングを行ったグループは、「パワー型×低強度トレ」「持久型×高強度トレ」。

遺伝子タイプとトレーニングタイプを一致させた「パワー型×高強度トレ」「持久型×低強度トレ」のグループは、CMJ(腕の反動を使わない垂直跳び)も3分間自転車こぎも伸びが良かった。下の表の赤丸部分がタイプ一致トレ。

被験者はアスリートなので神経系は適応済みだろうから、CMJの伸びを筋肥大によるものと仮定すると、パワー型の人は低ップ、持久型の人は高レップのトレが良いということになる。

欲を言えば、1-3レップ、6-12レップ、15-20レップの三つのレンジでやって、通常のレジスタンストレーニングのレップレンジに比べて、タイプ一致トレがより高い効果を示すのかやってみて欲しかった。

パワー型が1-3レップと6-12レップで同等の効果がでるなら、6-12レップを選択する。持久型が、6-12レップと15-20レップで同等の効果がでるなら、6-12レップを選択する。高強度トレは恒常的に行うには時間効率面でも怪我リスク面でも非現実的だし、低強度トレはコンパウンド種目を20レップとかちょっとやりたくないし・・・。

筋肥大を目的とすると、パワー型は一般的なレジスタンストレーニングのレップレンジ6-12レップの下限近くで、持久型は上限近くで行うのが良い目安かも。色々試してみて、自分が筋肉に負荷をかけやすいレップ数で行うのが良いと思う。部位によってやりやすいレップ数も違うだろうし。私は持久型の筋肉なんだけど、3レップ以下だと筋肉に余力があるはずなのに動かなくなって負荷をかけにくく、高レップだと心肺とメンタルがきつくなってもまだ筋肉が動く。

パワー型かどうかは、中高生の時にやったスポーツテストの垂直跳びの記録で大体わかると思う。高く跳べた人はパワー型。


遺伝的な筋肉の性質に一致したトレーニングを行えばより良い効果が出る可能性はある。とは言うものの、骨格と筋肉量の上限の関係はソリッドに確立されていて、骨格がデカイほど筋肉量の上限も大きい。

YOUR Drug-Free Muscle and Strength Potential: Part 1
http://strengtheory.com/your-drug-free-muscle-and-strength-potential-part-1/

遺伝的限界まで鍛え続けた場合、多くの男性は、「筋肉:骨=5:1(重量比)」になる。女性は4:1。

恵まれた体質の男性だと、5.5:1くらいまでは筋肉がつくようだ。この比率を超えて筋肉がついている場合は、ほぼ100%薬物を使っている。

骨の総重量を計測するのは非常に手間がかかる。手首と足首の周径が骨の総重量とだいたい比例するので、手首と足首の太さを測ることで、限界まで鍛えた場合にどれくらいの除脂肪体重に達することが出来るか推測することが出来る。

上のリンク先の Casey Butt’s Maximum Muscular Potential Model のところに、自分の数値を入力するとマッスルボディの遺伝的な限界の推測値を出してくれるカルキュレーターがある。

単位がインチでよければ、オリジナルのカルキュレーターで。


Endocrine Crosstalk Between Muscle and Bone
骨と筋肉のコンディションは密接に関わっている。共通の遺伝子が影響するのか(例えばミオスタチン異常では筋肥大だけでなく骨の密度と強度が高くなる)、それぞれの細胞から分泌されるサイトカインにより情報交換を行っているのか

まあ普通に考えて、骨格のキャパシティを上回る筋肉量がついたら骨格が壊れる可能性があるし、筋肉量を大幅に上回る骨格を持ったら重さと大きさから動作が困難になるだろうしで、骨格と筋肉は互いに効率よいサイズ・重さに発達するよう進化しているのだろう。そして遺伝子や内分泌系などを使って私達の体内で調整してくれているのだろう。

ガッシリ体型の方が同じトレーニングをしても筋肥大の反応が良いという研究もある。

Effect of body build on weight-training-induced adaptations in body composition and muscular strength.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8201909
体脂肪量に対して除脂肪体重を多く持っているガッシリ体型と、その逆のスレンダー体型に分けて12週間のレジスタンストレーニング。ガッシリ体型グループは除脂肪体重が増えたが、スレンダー体型グループの除脂肪体重はトレーニング前と有意差なしという結果に。切ない。


骨太タイプはレジスタンストレーニングに対する筋肥大の反応も良く、骨細タイプは反応が悪いんじゃないかと個人的には推測している。これは私自身が骨細なので言い訳探しのバイアスがあると思われるが・・・。


反応が悪い人は筋肥大速度の上限が低いのか、それともリターンが低いのか。例えば単純化して考えると、100のトレーニングをして、反応が良い人は100の筋肥大が起きて、反応が悪い人は50の筋肥大が起きたとする。トレーニング量を半分に減らすと、反応が良い人は50の筋肥大が起きるが、反応が悪い人は実は50が上限でこっちも50の筋肥大が起きるかもしれない。もしくは、トレーニング量に比例してリターンが下がり25の筋肥大が起きるかもしれない。上限説に従うなら、反応が悪い人はハードにトレーニングしてもリターンが限られているのでまったりやった方が効率が良い。リターンが低い説に従うなら、人並みのリターンを得るためには反応が悪い人はよりハードにトレーニングする必要がある。どっちだろう。


あとはストレスもトレーニング効果に影響がある。体調不良や仕事や家族や友人関係などで強いストレスを感じる時は、トレーニングは軽めするか休んだ方が良い。トレーニングボリュームはかなり減らしても、筋肉は維持できる(関連:筋力と筋量の維持に必要なトレーニング量 )。コントロール可能なものはコントロールすれば良いし、コントロールできないものはやり過ごせばよい。

Self-rated mental stress and exercise training response in healthy subjects.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22416235
これは持久能力についての実験だけど、持久運動トレーニングへの反応では、ストレスが軽い人の方が持久能力の伸びが高かった。

それとトレーニングの結果がなかなか出なくて焦るとこれもストレスになる。生まれつきの差もかなりあるだろうから、他人と比較せず、一歩一歩着実に進めていくのが良いだろう。生まれつきの差は、トレーニングをサボる言い訳にするのではなくて、自分の体質を理解し、ネガティブに考えずストレスを軽くし、前向きにトレーニング取り組むことの理由付けにすると良い。競技やメディアやネットで目立つ人は、恵まれた体質の人が選びぬかれているわけで、彼らのパフォーマンスを基準にしない方が良い。

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