11/26/2019

体幹トレーニング

★体幹の役割
身体動作における体幹の役割は、下半身と上半身をつなぐこと。日常動作やスポーツの多くにおいて、体幹は下半身の生み出した力を上半身に伝える。重いものを持ち上げたり、ボールを投げたり、棒を振り回したり(野球やゴルフ)。

力の伝達の橋渡しを効率的にするには、体幹はグニャグニャ動いてはいけない。また腰椎の健康のためにも、強い力をかけながら腰椎をグニャグニャ動かさないほうが良い。

日常動作やスポーツで、体幹を積極的に動かして力を生み出すケースはあまりないので、体幹を積極的に動かして筋力トレーニングを行うシットアップやバックエクステンションといったエクササイズは、機能的な身体動作の面からいって効果的とはいえない。そして腰の健康にも悪い。

体幹のトレーニングの基本的な考え方は、
(1)腰椎のニュートラルポジションを保ちつつ、腹圧を高め体幹を固める。

(2)日常動作やスポーツによって体幹をどの程度固めるかは異なる。目的に応じて、適切な強度と適切なタイミングで体幹を固めることが出来るようにトレーニングする。

日常動作だけだったら、そこまで強く体幹を固める必要はない。物を持ち上げるときにフッと力が抜けてぎっくり腰にならないように、意識せず自動的に適切なタイミングで体幹の筋肉が働くようにトレーニングすると良いだろう。重たいバーベルでスクワットやデッドリフトを行うなら、せん断方向と圧縮方向の強い力がかかる時に体幹をガチガチに固められるようトレーニングする。野球やゴルフなどねじりの動作があるスポーツを行うなら、捻り方向に力がかかったときにも体幹が固まるようトレーニングする。

トレーニングの順序としては、まずは股関節や肩関節などを動かさず、外部からの負荷もかけない状態で体幹を固める練習をする。それからこの状態を保ったまま肩関節や股関節を動かし、徐々に動作を複雑にし、かける負荷を強くしていく。



★体幹を固める練習
PRIなど姿勢系の分野でキャニスターポジションと呼ばれる姿勢を作れるようにする。競技によっては腰を反ったり丸めたりしたほうが競技パフォーマンスの面で良いケースもあるけど、ほとんどの人にとっては腰椎ニュートラルが効率的な身体動作の面でも腰の健康の面でもメリットがあるので、腰椎ニュートラルで体幹を固める方法を書いていく。

キャニスターは蓋のある密閉容器のことだけど、個人的にあまり馴染みがないので海苔の缶で例え話を書きます。海苔の缶の蓋をまっすぐ下ろしていくと、缶の中で空気がパンパンになる感じがする。これと同じように、骨盤に肋骨を真っ直ぐ下ろして蓋をするイメージで姿勢を作ると、腹圧がパンパンになって体幹が固まる。正確には横隔膜と骨盤底を平行にして真っ直ぐ下ろして蓋をするのだけど、横隔膜と骨盤底の身体イメージを持つのは困難なので、肋骨で骨盤に蓋をするイメージで良いと思う。

今回説明する体幹を固めるエクササイズが主に向いているのは、腰が過度に反っているタイプの人。熱心にトレーニングをしていたり、背筋をぴんと伸ばした姿勢で長時間座っていたりするとこうなりやすい。他のパターン、例えば腰がフラットになっているケースだとまた別のアプローチが向いているかもしれない(ただ腰がフラットだとすでにウェイトトレーニングで怪我をしている可能性が高いので、この記事を読む人にはそのケースはほとんどいないと思う)。


自分がどのような姿勢になっているのか知るには、能力の高い専門家による正確なアセスメントが一番良いのだけど、自己診断するなら、
・固い床に仰向けに寝ると、背中が反って腰の部分にかなりスペースが出来る、後頭部を床につけると肋骨が上方に突き出る。
・太っているわけではないが、直立姿勢になると下腹部がぽっこり前に出る。
・腰を反ると腰が痛い。
・自重で踵とお尻をぺったりとつけて座り込むフルボトムスクワットのポジションが出来ない。
このような状態だと、骨盤が前傾して、腰が反っていると思われる。

骨盤が前傾して腰が反っていると、以下のような症状が出やすい。
・股関節を深く曲げた時に腿の前側の付け根(鼠径部)が痛む。
・腰が張ったり、痛くなったりする。
・デッドリフト系のエクササイズをやると、ハムストリングスが伸び過ぎてハムストリングスが痛む。
・スクワットやデッドリフトで膝が内側によれやすく、膝が痛くなる。

骨盤の前傾を修正し、体幹を意識して固めるエクササイズは、ウォームアップの段階で行う。アラインメントの調整や、スタビライザーへの刺激はウォームアップでやったほうが良い。ウェイトやケーブルマシンを使って本格的に体幹に負荷をかけるエクササイズは、トレーニング本番で行う。

関連記事:ストレッチとウォームアップ


◇◇◇ステップ1◇◇◇
骨盤が前傾した状態で固まってしまっている場合は、まず骨盤が動くようにする。

関連記事:骨盤の前傾の矯正

a) 腰椎を曲げ、脊柱起立筋を伸ばし、骨盤を後傾させよう。強い負荷をかけて腰椎を曲げ伸ばしするのは腰に悪いけど、負荷をかけない状態で軽く曲げ伸ばしするのは腰に良い。motion is lotion!(関節は適度に動かすと関節の健康に良い)。

背中が強く反っている人は、この背中のストレッチをやっておくと良い。

関連記事:背中のストレッチ

キャットキャメル。息を吐き出しながら背中を丸める。背骨の可動域の限界を攻めないこと。腰椎を曲げて、骨盤が後傾できるようにすれば良い。
動画:RTS Coaching: The Cat-Camel

b) 股関節の屈筋を伸ばす。脛が地面と並行だと股関節の単関節筋(腸腰筋)が主に伸びる。足首を持ち上げると、膝と股関節の二関節筋(大腿直筋)が伸びやすくなる。両方やろう。コツは前後にグイグイ動いたりせず、腰を反らないように注意し、殿筋に力を入れ、恥骨をクイッと上に向ける感じでやる。


c) 広背筋を伸ばす
デッドリフトや懸垂など背中のトレーニングを熱心にやる人は広背筋もストレッチしておくと良い。適当なものに掴まって、体重を後ろにかけて伸ばすのが手軽。肩関節だけ伸ばすのではなくて、肩甲骨も一緒に引っ張られる感じにすると良い。

動画:Best Lat Stretch EVER!


◇◇◇ステップ2◇◇◇
体幹を固める練習を行う。

寝転んで膝と股関節を90度に曲げて、足を壁につけるか椅子に乗せるかして、膝の間にフォームローラーなど適当なものを挟んで、踵を下方向に軽く押して、臀筋とハムストリングスと内転筋に軽く力を入れて尾てい骨を少し浮かせて、腰の部分がぺったり床につくようにする。首には力を入れない。首が辛い場合は、後頭部の下に数センチの厚みのものを置いて枕にする。腕はやりやすい位置に置いておく。顔の上あたりに伸ばしておいたり、手のひらを膝に軽く乗せたりするのも良いだろう。



ニュートラルポジションよりも骨盤が後傾して、腰椎がフラットになるが、このエクササイズはこれで大丈夫。その状態で、鼻から息を吸って、口から息を深く吐き出す。目安としては、吸い込む息の量は限界の75%程度、吐き出す息の量は限界100%。3-4秒かけて吸い込んで、5-8秒かけて吐き出して、吐ききった状態で2-3秒止める。これを4-5回繰り返す。

腹直筋だけでなく腹斜筋のあたりも締まり肋骨がタイトになればOK。鏡や窓ガラスに顔を近づけて、「はー」と息を吐きかけて曇らせるイメージでやると感覚を掴みやすい。クランチのように上半身を丸めないこと。海苔の缶の例えだと、腹直筋だけでなくお腹周り360°を筋肉の壁で固めることで、腹圧を高め体幹を強く固めることが出来る。息を吸って深く吐き出すのを何回か繰り返して練習する。

吸って吐く動作に慣れてきたら、今度は体幹を締めた状態をキープしながら、ある程度息を吸ってお腹に空気を入れる。この時、息を止めたまま全力で叫ぼうとすると腹圧が高まる感覚を掴める。この腹圧を高めた状態で息を止め、上の歯と下の歯をあわせて、舌を口蓋(口の中の上の部分)にベタッと押し付けると、体幹を非常に強く固めることが出来る。スクワットやデッドリフトなどガチガチに体幹を固める際は、このやり方で体幹を強く固めると良い。

動画:90-90 Breathing Drill


動画:90/90 Hip Lift | Melbourne Strength Culture Tutorial


このエクササイズで体幹を固めることができるようになったら、目的に応じて股関節や肩関節を動かし、動かす関節の数を徐々に増やし、負荷を上げていく。下半身だったら、最初は股関節だけで、次に股関節と膝関節といった具合に、動作の複雑性を上げていく。負荷も最初は軽い負荷で、慣れてきたら徐々に上げていく。



★目的に応じた体幹トレーニング
アラインメント調整や体幹を固める練習をやったら、目的に応じた体幹トレーニングへ。目的の数だけエクササイズの種類はあると思うけど、ざっと例を挙げていく。基本的な考え方を理解すれば、自分で効果的なエクササイズを選んだり、新たに作り出したり出来る。

例1) 日常動作で元気に動きたい。ぎっくり腰になりたくない。
軽めの負荷でスクワットとデッドリフトの動きをやっておくと良い。スクワットはゴブレットスクワットがおすすめ。バーベルバックスクワットは体幹を固めるのが難しいので、重い重量を必要としないなら無理にやる必要はない。

関連記事:バックスクワットでのバーベルの担ぎ方


関連記事:butt winkの話


デッドリフトは股関節の使い方だけでなく、低い位置のものを持ち上げるときにタイミング良く体幹を固める練習も大事なので、ルーマニアンデッドリフトのような「エキセントリック→コンセントリック」のパターンと、床に置いたバーベルやダンベルを持ち上げ、1レップごとに床に置いて、一旦直立姿勢に戻りまた床から持ち上げる「最初からコンセントリック」のパターンの両方をやると良い。

・ゴブレットスクワット

・ダンベルデッドリフト



例2)バーベルを使ったスクワットやデッドリフト
背中を反らないスクワットとデッドリフトの動きを一から学ぶ場合は、息を吐ききった状態で息を止め体幹を固め、非常に軽い負荷をかけながらルーマニアンデッドリフトやゴブレットスクワットをしてみると良い。腰を反って背中で重量を受け止めるのではなく、大腿四頭筋、殿筋、ハムストリングス、内転筋などで負荷を受け止め、体幹は固い筒になるのをイメージする。1レップごと直立時に息継ぎをする。腹圧が弱くなっているので、必ず非常に軽い負荷でゆっくり行うこと。慣れてきたら、息をお腹に吸い込んだ状態で同様に体幹を固めて腹圧をかけ、バーベルの重量を上げていく。

前半が腰を反りすぎのデッドリフトの例。後半が腰を反らないデッドリフトの例。後半のやり方のほうが良い。
動画:over driving erectors on deadlift


腰を反らず最短距離でバーベルを挙げ、最小の動きで直立姿勢になる。
動画:Simple Tip For Better Lifting | Plymouth Back Pain Experts


デッドリフトのロックアウトの動きはヒップスラストと同じなので、ヒップスラストをやると良い練習になる。ヒップスラストは無理に重たい重量でやると腰を反って無理やり挙げるので、軽めの重量で股関節のみをバシンとロックアウトするよう意識すると良い。

関連記事:ヒップスラストのやり方


関連記事:デッドリフトのやり方



例3)プッシュ・プレス動作の体幹トレーニング
プル動作での体幹トレーニグはデッドリフトで手軽に出来るけど、プッシュ・プレス時の体幹トレーニグは負荷の調整と手軽さの面で結構難しい。

手軽に出来るのは bear crawlかな。ケーブルマシンでプッシュ動作をするのも良いと思う。

強い負荷をかけるならシンプルにソリを押すトレーニングが良いだろう。アメフトやラグビーといった競技をするならこのようなトレーニグが効果的。


例4)横方向の体幹トレーニグ
サイドベントのように体幹を動かすのではなく、体幹を固めながら横方向の力を加えるのが良い。手軽に出来るのはサイドブリッジ(サイドプランク)。



やり方を少し変えることで負荷を上げることも出来る。

動画:EricCressey.com: 1-leg Side Bridge, Top Leg on Bench

動画:EricCressey.com: Side Bridge with Top Leg March



例5) 捻り動作の体幹トレーニング
ケーブルマシンが負荷を調整しやすくて使いやすいと思う。捻りの動きを生み出すのは、股関節や胸椎や肩関節で、体幹(腰椎)は捻らない。

動画:Half-Kneeling Chop/Lift | Core Stability | Controlled Rotation


動画:Band Half Kneeling Pallof Press


あとはメディシンボール投げとか。




★ベルト
体幹トレーニングの際はリフティングベルトはしないほうが良いと思う。体幹の筋肉の力の入り方が微妙に変わってくるし、日常動作や多くの競技ではベルトはしないで動作を行う。スクワットやデッドリフトでとにかく重たい重量を挙げたいなら、多くの人はベルトをしたほうがより重い重量を挙げられるので、したほうが良いだろう。




★見た目問題
腹直筋の見た目を良くするにはクランチ系をやるのが手っ取り早いので、ボディメイクの観点では少しは腹筋運動的なエクササイズをやっておくのもありだと思う。肩周り(三角筋や大胸筋)のトレーニングもそうなんだけど、ベンチプレスや三角筋のアイソレート種目や腹筋運動は、機能的な身体動作と怪我リスクの面ではデメリットがあるが、見た目重視の筋肉を筋肥大させるには効果的。個人的にはこんな感じの腹筋マシンが腰に負担をかけず、腹直筋の中部上部を収縮させられる。

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