12/26/2020
マグネシウムと運動パフォーマンス
マグネシウムはエネルギー代謝や筋肉の収縮・弛緩やタンパク質合成に関わるため、マグネシウム摂取による運動パフォーマンスへの効果を調べた研究がいくつかあります。今回の記事では、マグネシウムが運動パフォーマンスを向上させる効果があるのかを見ていきます。
12/19/2020
怪我をしにくいベンチプレスのやり方
怪我をしにくいベンチプレスのやり方について、いくつかポイントを書いていきます。
1. 肩甲骨の位置
肩甲骨は可動範囲の下限まで下げます。それから、下げた状態をキープしながら寄せます。肩甲骨の下げ(下制)と寄せ(内転)だったら、下げを優先したほうが良いです。下制が緩むと肩の怪我をしやすくなります。
肩甲骨を最も寄せられるのは、肩甲骨を少し上に上げた位置ですが、その位置で寄せると脇が開いて肩を怪我しやすくなると思います。まず下げてから、できる範囲で寄せるイメージで肩甲骨を動かすと良いでしょう。
12/12/2020
リフィードでの筋グリコーゲン回復に適した炭水化物
12/05/2020
肩周りのウォームアップ
トレーニングの前にやっておくと肩周りの動きがよくなるウォームアップを紹介します。肩周りのストレッチをやってから、これらのウォームアップをすると効果的です。またこれらのエクササイズを普段からやっておくと肩周りの細かい筋肉が鍛えられ、肩の健康を保ちやすくなります。
関連記事:肩周りのストレッチ(タオル使用)
肩周りのウォームアップに共通する注意点は、軽い負荷でおこなうことです。負荷が強いと三角筋などの大きい筋肉が優先的に使われて、ローテーターカフや前鋸筋など肩周りを安定させる細かい筋肉に刺激が入りにくくなります。
肩周りのウォームアップでは細かい筋肉に刺激を入れて、上腕骨、肩甲骨、胸椎、肋骨が連動してスムーズに動くようにします。
11/28/2020
運動後の食欲
食欲の低下しやすい運動方法
筋トレも有酸素運動も、激しくおこなうほど運動後に食欲が低下しやすいです。
有酸素運動だとHIITが最も食欲が低下しやすく、次に一定ペースの高強度有酸素運動、その次に一定ペースの中強度の有酸素運動の順です。(1)
筋トレだと、上半身だけのトレーニングよりも全身のトレーニングのほうが食欲が低下しやすいです(2)。また、高重量のトレーニングよりも、中重量でインターバルが短めのトレーニングのほうが食欲が低下しやすいです。(3)の研究では、90%1RM・各セット限界まで・インターバル180秒のグループよりも、70%1RM・各セット限界まで・インターバル90秒のグループのほうが運動後の食欲が抑制されました。
11/24/2020
肩周りのストレッチ(タオル使用)
肩の健康を保つためのストレッチのやり方を解説したいと思います。
肩周りのストレッチのポイントは、
1. 肩関節の可動域の限界を攻めない
肩関節(肩甲上腕関節)はボール・ソケット型の関節で、上腕骨の骨頭(ボール)と肩甲骨の関節窩(ソケット)から構成されます。ボールとソケットと言ってもソケットにボールがすっぽりとはまっているわけではなく、実際の骨の形はゴルフボールとティーに近いです。骨の噛み合わせ自体には安定性はなく、靭帯や関節包や筋肉などの柔らかい組織で安定させています。肩関節のストレッチでグイグイと力強く動かし、可動域の限界まで攻めると、肩関節の安定性が低下して怪我をしやすくなります。肩関節については可動性よりも安定性を重視し、肩甲骨や胸椎や肋骨を動かすことを意識しながら肩周りのストレッチをおこなったほうが良いです。
11/17/2020
ビタミンD摂取がストレングスと体組成変化に効果があったとする研究
(1)Effects of Seasonal Vitamin D3 Supplementation on Strength, Power, and Body Composition in College Swimmers
https://www.researchgate.net/publication/339044560_Effects_of_Seasonal_Vitamin_D3_Supplementation_on_Strength_Power_and_Body_Composition_in_College_Swimmers
日照量が減る秋にビタミンD摂取を摂取した場合の運動パフォーマンスと体組成への影響を調べた研究です。結果を先に書くと、運動パフォーマンス変化も体組成変化も、ビタミンD摂取グループのほうが良い結果でした。日照量の減る時期にビタミンDを摂取することで、高ボリュームのトレーニングに耐えるキャパシティを維持・改善し、トレーニング効果を得やすくなったと考えられます。
論文では血清ビタミンD濃度の単位がnmol/lなのですが、個人的に馴染みのあるng/mlに変換してあります。
11/13/2020
筋形質の肥大についての研究
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fphys.2020.00816/full
概要
「骨格筋における筋形質の肥大は、(実際には存在しないユニコーンのように)科学な幻想なのか?それともレジスタンストレーニングへの適応なのか?」というタイトルの論文です。
高重量・低レップのトレーニングだと筋原線維が肥大しやすく、低重量・高レップのトレーニングだと筋形質が肥大しやすい・・・というのはフィットネス関連の一般記事で確定事項のように書かれていたりするのですが、測定の精度や実験の難しさなどにより、科学界ではまだはっきりと結果が出ていません。
(1)の論文は、現時点での筋形質の肥大についての研究結果や、筋繊維の構成要素の測定方法の解説をまとめています。この論文は、トレーニング方法やトレーニング歴によって筋繊維の構成要素が異なった適応を見せるのはありえるというスタンスです。
11/08/2020
睡眠不足とカフェインの摂取がトレーニングボリューム与える影響
https://www.researchgate.net/publication/221846407_Acute_Caffeine_Ingestion's_Increase_of_Voluntarily_Chosen_Resistance-Training_Load_After_Limited_Sleep
睡眠不足とカフェインの摂取がトレーニングボリュームにどのような影響を与えるか調べた研究を紹介します。
実験内容
・被験者ラグビーのプロ選手
男性16人
平均21歳
身長185cm
体重97kg
スクワット1RM 170-210kg
ベンチプレス1RM 130-170kg
ベントロー 110-130kg
・グループ分け
- 睡眠十分+プラシーボ
- 睡眠不足+プラシーボ
- 睡眠十分+カフェイン
- 睡眠不足+カフェイン
被験者16人を4つのグループに分けるのではなくて、被験者全員が上の4つの条件で1回ずつトレーニングをおこなう。
睡眠十分は8時間以上の睡眠、睡眠不足は6時間以下の睡眠。
カフェインはトレーニングの1時間前に4mg/体重kgを摂取。
11/04/2020
シクリカル・ケトジェニックダイエットの最新研究
シクリカル・ケトジェニックダイエットの最新研究が出てきたので紹介します。
(1)The Influence of Cyclical Ketogenic Reduction Diet vs. Nutritionally Balanced Reduction Diet on Body Composition, Strength, and Endurance Performance in Healthy Young Males: A Randomized Controlled Trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7551961/
ケトジェニックダイエットとシクリカル・ケトジェニックダイエットの説明
ケトジェニックダイエットは、炭水化物の摂取を極度に制限する食生活のことです。一日の炭水化物の摂取量を30g以下にするのが目安です。炭水化物が少ないため身体は脂質ベースの代謝に移行し、脂質と脂質から生成されるケトン体により消費エネルギーの大部分を賄うようになります。詳しく知りたい方は、関連記事を参考にしてください。関連記事:[書籍] The Ketogenic Diet
ケトジェニックダイエットを続けると、体内のグリコーゲンが少なくなり、強度の高い運動をおこなうのが困難になります。運動能力を維持したい場合や、筋肉量を維持したい場合は、減量中も強度の高い運動をおこなっていく必要があります。
そこで考え出されたのが、炭水化物を制限するケトジェニックダイエットをベースにしつつ、定期的に炭水化物の摂取量を増やすことで高強度の運動をおこなえるようにするシクリカル・ケトジェニックダイエットです。
10/30/2020
筋肥大をもたらす刺激(2019年版)
(1)Stimuli and sensors that initiate skeletal muscle hypertropHy following resistance exercise
https://journals.pHysiology.org/doi/full/10.1152/japplpHysiol.00685.2018?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org
レジスタンストレーニングによる筋肥大は、どのような刺激によってもたらされるのか、またそれらの刺激はどのようなセンサーによって感知されるのか。現状でわかっていること、わからないことをまとめた2019年の論文です。
以前調べた筋肥大のメカニズムから時間が経ったので、そのアップデートの意味もあります。
関連記事:筋肥大のメカニズム
内容がマニアックなので先に結論を書いておくと、実践面では「力学的な負荷」をかけることを最優先すればOKです。具体的には6-15レップ程度のセットをメインにトレーニングします。筋肥大の刺激の候補には、力学的な負荷以外に「ダメージ」と「代謝ストレス」もありますが、実践面では力学的な負荷を最優先するのが良いでしょう。
筋肉のダメージを増やすために、意図的に強い負荷をかけてエキセントリック動作をしたりするのはどれほど効果があるかはわからないですし、ダメージが大きくなりすぎると筋肥大にマイナスになる可能性があります。代謝ストレスを主目的としたトレーニング(高レップのセットや加圧トレーニング)は、力学的な負荷がメインのトレーニングにプラスしておこなうとさらに効果が高まるのか、それとも力学的な負荷が十分なら代謝ストレスを上乗せしても効果は高まらないのか、はっきりしていません(加圧トレーニングは力学的な負荷が不十分な状態で代謝ストレスを加えています)。
アップサイドリスクとダウンサイドリスクを考えると、ダメージを目的としたトレーニングはアップサイドが不明でダウンサイドリスクが大きいです。従って、ダメージを目的としたトレーニング、例えば高重量・高ボリュームのエキセントリック動作はあまりやらないほうが良いと思います。代謝ストレスを目的としたトレーニングは、アップサイドは不明ですがダウンサイドリスクは小さいと考えられるので、力学的な負荷を目的としたトレーニングに追加しておこなうのは問題ないと思います。
以下、マニア向けの内容。
10/21/2020
除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうことは可能なのか?
体組成の組み換え
体組成の組み換え(Body Recomposition)は、除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうことです。体脂肪率の高い初心者の場合は、新たにトレーニングを始めることで除脂肪量の増加と体脂肪量の減少を同時におこなうこともできますが、継続的にトレーニングをしている経験者では体組成の組み換えは困難だというのが主流の考え方です。
しかし、トレーニング歴のある被験者を対象とした研究でも体組成の組み換えを実現できているケースがいくつかあります。(1)の論文ではそれらの研究を調べて、どのような要因が体組成の組み換えに結びつく可能性があるのかを考察しています。
留意点は、体組成の測定はどのような機器を使っても精度が低いことです。偶然に除脂肪量増加・体脂肪量減少という結果が出た研究もある可能性があります。それと除脂肪量の変化が、骨格筋量の変化を示すとは限らないことです。また(1)の論文では体組成の組み換えがうまくいっている研究のみピックアップしています。世の中には体組成の組み換えがうまくいっていない研究も多くありますし、出版バイアスによりうまくいった研究のほうが表に出てきやすいです。
(1)の論文で取り上げられている体組成の組み換えが実現できている研究を個別に調べて、トレーニングや栄養がどのように調整されたかを今回の記事では見ていきます。またスタート時点の体脂肪率が体組成組み換えの難易度に大きく影響するので、被験者の体脂肪率がどの程度かも見ていきます。
体脂肪率は男性10-15%、女性20-24%がニュートラルレンジという判断です。このレンジ以上は体脂肪率が高めで、体脂肪を減らすのが容易です。このレンジ以下だと一般的には除脂肪量が減りやすく、体脂肪が増えやすくなり、長期的に維持するのが難しいです。
10/13/2020
増量時の栄養調整
(1)Is an Energy Surplus Required to Maximize Skeletal Muscle Hypertrophy Associated With Resistance Training
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6710320/
筋肥大のペースを最大化するためには、栄養をどのように摂取していけば良いかを調べた2019年の論文です。何か実験をおこなっているわけではなく、既存の研究を調べて、増量を効率的にやるには栄養をどう調整すれば良いのかを考察してます。想定ターゲットは運動量の多いアスリートと思われます。
Eric Helmsが関わっていることもあり内容は良いのですが、議論をそのまま出している感じの論文で、あまりまとまっていないです。今の時点ではわからないことが多いので、現状の整理と今後の研究の指針がメインになっています。
論文中のエネルギーの単位がKJであまり馴染みがないので、本記事ではkcal表記にしています(4.2KJ=1kcalで計算)。
★前提
体脂肪率の高い初心者や、トレーニングを休んでいたアスリートがトレーニングを再開する場合は、摂取カロリーを増やさなくても体脂肪を減らしながら同時に筋肉量を増やすこともできます。しかし、トレーニングを継続的におこなっていて、体脂肪率が高くない人の場合は、カロリー収支をプラスにして体重を増やしていくほうが効率的に筋肉を増やせます。
ただ、現状ではカロリー超過の条件下での筋トレの研究が乏しいです。この論文での栄養摂取の調整方法については、かなりの部分が推測にもとづいたものになります。
★どのくらいのカロリー超過が良いのか
筋肉を増やすのに必要なカロリーを、コスト積み上げ方式で考えていきます。
<骨格筋に含まれるエネルギー>
骨格筋の構成割合を「タンパク質20%、筋肉中の脂質(IMTG)やグリコーゲンなど5%、水分75%」とします。この数値で計算すると、骨格筋1kgは約1200kcalのエネルギーを持つことになります。これは言わば骨格筋の材料費で、骨格筋1kgを増やすのに最低限はこれだけのエネルギーが必要です。
9/26/2020
電子書籍「ボディメイクガイド」リリース!
Kindle向けの電子書籍を出しました。
ボディメイクガイド Kindle版
Kindleアプリをインストールすれば、パソコンやスマホでも読めます!
https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/fd/kcp
<本を書いた経緯>
まず、私が筋トレを始めてからどのように情報収集をしていったのか、その思い出を語りたいと思います。
最初は右も左も分からないのでまずは筋トレ本を読もうと思い、元ボディビルダーの大学教授が書いた本を読んだのですが、筋肉の仕組みなどを説明されても結局何をやったらいいのかわからず、インターネットで情報を探すようになりました。
今もそうなのですが、インターネット上の情報は玉石混交で、何が正しいのかわからず試行錯誤の日々でした。そのうち、「教えてgoo」のOneHさんを中心としたやり取りのログを見つけました。目からうろこでした。この方面を調べていけば、良い情報にたどり着けると思い、Lyle McDonald や Alan Aragon の書いたものを読むようになりました。それから芋づる式に Brad Schoenfeld、Eric Helms、Greg Nuckolsなどを追いかけていき、今に至ります。
インターネット上のサイトを見たり、トレーニングや栄養関連の本を読んで学んできたのですが、いくつか不満もありました。
まず日本語の本だと実用的な筋トレ本があまりないです。今回あらためて市場調査をしましたが、自己啓発系の筋トレ本、最新研究を散漫に羅列しているだけで実践と結びついていない本、筋肉や身体の仕組みなどが最初の50ページくらいに書いてあってあとは自重トレかボディビル的な種目解説の絵で埋めている本・・・といったものが多いです。本気で体型を変えたい人には物足りません。
インターネット上には日本語でも有用な情報がありますが、断片的に散らばっていて探すのが大変です。サーチエンジンでもなかなか上位にきません。それで情報を探すとなると英語が必須になってきます。しかし、英語の壁を乗り越えたとしても、問題があります。
良書を探すと、だいたいが専門的でカバーしている範囲が狭いです。多くの分野の本を読む必要があります。そして値段が高いです。一冊3000-5000円くらいします。
内容が良くてカバー範囲が広い本も少数ですがあります。
マニア向けの定番だとこの本ですね。
The Muscle and Strength Pyramid
一般向けだと多分この本が最も売れていると思います。レビュー数がすごいです。
Bigger Leaner Stronger(Michael Matthews )
ただこれらの本にも不満点はあって、エビデンスベースでトレーニングと栄養の両方を扱っているのは良いのですが、本に書かれている内容を適用できるのが、「存分にトレーニングをすることができて、好きな時に望み通りの食事を食べられる体格に恵まれた若い男性」に限られるということです。著者自身がそうなのでしょうし、これらの本の著者が関わるようなハードコアなジムに来る人にはそういう人が多いのでしょうけど、本気でボディメイクをしたい人には、上に当てはまらない人も大勢います。その人たちがアクセスできる良い情報源が現状では乏しいわけです。
その状態をなんとかしようと思って、自分で本を書くことにしました。なるべく多くの人が、自分のできる範囲でなるべく良い結果を出せるようになれば・・・との思いです。
最初はブログの内容を土台にして書こうと思い、ブログの記事をエディターにまとめました。その時点で4万字でした。その後いろいろと書き直したり、書き足したりして、最終的に11万字を超えました。ビジネス書と同じくらいのボリュームです。一般的な筋トレ本は図や写真が多いので、もっと文字数は少ないと思います。
本を書くのは初めてで、最初から最後まで一人で仕上げたので至らない点もあると思います。変なところがあったらご指摘いただけるとありがたいです。どのような内容なのか、参考までに目次を載せておきます。もし気に入っていただけたら、SNSで紹介したり、Amazonにレビューを書いてくれると嬉しいです。
9/16/2020
女性の月経周期と合わせたトレーニングと栄養
Lyle Mcdonald の The Women’s Book Vol1を読んで、女性は月経周期によってトレーニングや栄養の反応が変わってくることを知ったので、自分でも記事を書いてみます。月経周期の有無、避妊薬使用(種類によって変わる)、閉経後(ホルモン補充療法の有無で変わる)も影響するので、女性のトレーニングと栄養は非常に複雑ですね。
Vol1は栄養がメインで、トレーニングについてはあまり書かれていないです。トレーニングの詳しい調整の仕方についてはVol2のリリース待ちなので、自分で論文を調べてトレーニングの調整についても書いてみます。
月経周期における各期間の分け方はいくつかあるのですが、ここではざっくりと前半後半に分ける分け方にします。月経開始から排卵までが卵胞期、排卵後から次の月経までが黄体期です。
8/25/2020
運動後のクールダウンの効果
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5999142/
運動後のクールダウンの効果を調べた研究を集めてレビューした論文。クールダウンの種類にはいくつかあるけど、この論文では5-15分程度のジョギングなど軽い有酸素運動の効果をメインに調べている。
8/21/2020
ケーススタディ:ボディビルダーの減量とコンテスト後の回復
https://pdfs.semanticscholar.org/7eb2/f2177a56705379065088b3480ce75329fd8e.pdf
一人の男性ボディビルダーがコンテストに向けて減量するまでと、コンテスト後の回復を記録した研究。細かく記録されているので、減量期間の食事や体組成推移などを見ていきたい。
7/21/2020
Barbalho他の研究に注意
https://www.strongerbyscience.com/barbalho/?ck_subscriber_id=699589358
筋肥大とストレングスの分野で「へ~」と思うような研究をいくつか出している研究者の複数の研究が、どうも信用できないという話が出ている。データのばらつきが確率的にありえないほど小さかったり、複数のグループのデータが酷似していたり、ストレングスの伸びがあり得なかったりとおかしい点がいくつもある。個人的な印象では、いいとこ取り手法でデータを整えたというレベルではなく、複数の研究でデータをほぼでっち上げたのではないかと。
上のGreg Nuckolsの記事におかしな点が詳しく書かれていて、Barbalhoの研究に関わった人の協力で実験の生データも手に入れてるのだけど、統計のことがわからなくても、生データの数字の不自然さは一目瞭然。例えば腕の周径の被験者ごとの変化の数値が、 0.8, 0.8, 0.8, 0.8, 0.8, 1.1, 1.1, 1.1, 1.1, 1.1となっている。被験者10人で数値が2パターンしかない。今後エビデンスを考える時、Barbalhoが関わった研究についての結果は全て、一旦棚上げして考えたほうがいいと思う。
7/15/2020
TRF(Time-Restricted Feeding)の研究
TRFはIF(Intermittent Fasting)に含まれるけど、IFだと一日置きの断食(ADF:Alternate-day fasting)などもあって、そういった方法は運動する人には実行が難しい。TRFは運動する人でも実行可能。
TRFとレジスタンストレーニングを組み合わせた研究がここ数年でいくつか出てきたので紹介します。
6/09/2020
トレーニングボリュームを被験者ごとに調整した研究
https://www.researchgate.net/publication/339583180_Muscle_Hypertrophy_Response_Is_Affected_by_Previous_Resistance_Training_Volume_in_Trained_Individuals
一律のボリュームでのトレーニングと、被験者の直近のトレーニングボリュームの20%増しのトレーニングを実施し、筋肥大に差が出るか調べた研究。
6/05/2020
リフィードの研究
https://www.mdpi.com/2411-5142/5/1/19/htm
毎日同じペースでカロリーカットをしたグループと、週に2日リフィードをしたグループの減量結果を比較した研究。筋トレ愛好家の知りたいポイントを押さえた研究デザインになっている。
・被験者は肥満ではなく、トレーニング歴あり
・筋トレしながらの減量
・タンパク質摂取量がこの手の研究にしては多め(個人的にはもう少し増やしたほうがいい思うが)
・週に2日という現実的なリフィード方法
減量や筋トレの研究は、社会的意義の面から肥満の人や高齢者を対象とした研究が多いので、こういう筋トレ愛好家向けの研究が行われるのは稀。
結論を先に書くと、リフィード群のほうが除脂肪量の減少を抑えられ良い結果になっている。
★被験者データ
体脂肪率は結果の表に載っていて、実験前の時点で21%くらい。男女合わせてのデータなので男性17%、女性25%くらいかな?
★実験期間
7週間
★食事
指導のもと自己管理
・摂取カロリー配分
一定カロリー群 ずっと25%カロリーカット
リフィード群 5日連続35%カロリーカット、2日連続維持カロリー
・マクロ栄養素バランス
カロリーカット時のマクロバランスは両群ともタンパク質摂取量 1.8g/kg/日、残りの必要カロリーを脂質と炭水化物で半分ずつ。
リフィード群のリフィード日は、カロリーカット時の食事に炭水化物のみを足して維持カロリーにする。
★レジスタンストレーニング
週あたり上半身メイン2日、下半身メイン2日の合計4日。4週目だけはデロードで合計2日。あと30分の有酸素運動を週2日。
★結果
体重差を考えると両群とも同じくらい体重が減少したが、リフィード群のほうが除脂肪量の減少を抑えられ、良い結果となっている。リフィードによる保水量の差を考慮するため、乾燥除脂肪量(Dry FFM)も算出しているが、これもリフィード群のほうが減少を抑えられている。体脂肪量もリフィード群のほうが減っていて良い。今回の研究では、リフィードは体重を落ちやすくするというよりも、除脂肪量を維持しやすいという結果になっている。
リフィードの目的は一般的に以下の3つ。
・代謝低下の抑制
・筋肉の維持・肥大
・メンタル面の息抜き
代謝低下については、安静時代謝(RMR)の減少幅に少し差がついている。安静時代謝は除脂肪量の影響が大きいので、除脂肪量減少の差が表れていると考えられる。リフィードで期待されるレプチンなど内分泌系の影響による代謝低下の抑制が起きているかはよくわからない。そもそも代謝低下の抑制があったかは安静時代謝だけではなくNEATも見ないといけない。
マクロ視点でみると、7週間での体重減少量は両群でほぼ同じだが、分解して消費する場合、除脂肪部分のほうが体脂肪よりもエネルギー密度が低いことを考慮すると、リフィード群のほうがトータルでの消費カロリーが少し多かった感じはする。
除脂肪量の維持については、リフィードでグリコーゲンを補充してトレーニングの質が上がったり、筋肉のエネルギーレベルが一時的に高くなることで、筋肉の維持・肥大がしやすくなったのかもしれない(個別データだと除脂肪量が増えている人もいる)。
トレーニングボリュームは両群で同じとのことだが、ボリュームをセット数×レップ数で出しているのか、セット数×レップ数×重量で出しているのか不明なので、トレーニングの質に差がついたのかよくわからない。
★コメント
デザインの良い研究で、リフィードの優位性が示された結果になっている。今後同じようなデザインの研究で繰り返しリフィード優位の結果が示されれば、確度が高まる。
体脂肪率を楽に維持できる水準(男性なら13-15%くらい)より高い体脂肪率で減量をするならリフィードはあまり必要ないと思っていたけど、体脂肪率が低くなくても体組成変化に効果がありそうなので考えを改めたい。
なぜ両群を比較すると体重減少にあまり差がつかなかったのか仮説を考えてみると、
・今回の実験では被験者はそれほど低い体脂肪率ではないので、両群とも大幅な代謝低下が起こらず、そのためリフィードの代謝回復効果も大きくは出ず、代謝低下の抑制の面であまり差がつかなかった。
・リフィード日の摂取カロリーは維持カロリーなので、グリコーゲンとして貯蔵に回される分を考慮すると摂取カロリーが足りなく、リフィードの代謝低下の抑制効果が出るには不十分だった。
・そもそも2日程度のリフィードでは代謝低下の抑制効果があまり無い。
もし今回よりも低い体脂肪率の被験者を集めて、男性なら体脂肪率10%以下を目指すという研究デザインにして、リフィード日の摂取カロリーをグリコーゲン貯蔵分を考慮して維持カロリーよりも多めにすると、リフィードがレプチンレベルの低下抑制に寄与するといった経路で、リフィード群と一定カロリーカット群とで体重減少に大きな差が出てくるかもしれない。
★細かい話
・リフィード群はリフィード時に炭水化物だけ足しているため、週ベースでの炭水化物の摂取量がリフィード群のほうが多くなっているはず。レプチンレベルの維持や筋グリコーゲンの補充、トレーニングの質の維持の面ではリフィード群が有利だと思う。
・タンパク質摂取量が1.8g/kg/dayは減量時としては少し足りなく、特にリフィード群の35%カロリーカットだとかなり不足気味な感じがするので、この点ではリフィード群が不利に見える。(が、除脂肪量の維持ではリフィード群のほうが良い結果だった)
・減量終了後から一週間くらい空けてから、体組成を測定してほしかった。土日のリフィードで実験期間終了だと、リフィード群はグリコーゲンと水が補充されていて除脂肪量が多く出やすい。論文にはリフィードから最低2日空けて体組成を測定したと書かれていて、また水分量を考慮した乾燥除脂肪量も出しているので、ある程度はこの保水量の差をケアしているが。
・トレーニングボリュームの細かい記録や、1RM変化も記録するとより良い研究になると思う。
・極度に低い体脂肪率を目指す場合は、リフィード日はオーバーカロリー(その日の活動で消費するカロリーに加えて貯蔵グリコーゲンの分も摂取する)のほうが良いと思う。
関連記事:
リフィード(もしくはチートデイ)の効率的なやりかた
6年前の記事で、当時とあまり考えは変わっていないけど、カジュアルダイエットの人はリフィードというか、1、2週間の維持カロリーに戻すダイエット休憩を入れると良いと思う。(一つ下の関連記事参照)
維持カロリーを挟むダイエット方法
炭水化物の摂取をサイクルさせるダイエット
なぜダイエットをしてもリバウンドしやすいのか
レプチンについて
AMPkについて
タンパク質摂取量の目安
6/01/2020
運動時のマスク
呼吸のしやすさを5段階で評価していきます。マスク無しが5点。
・普通の不織布マスク
呼吸のしやすさ ★★☆☆☆ 2点
軽い運動ならなんとか出来る。
・不織布マスクが汗で湿ったもの
呼吸のしやすさ ★☆☆☆☆ 1点
汗で湿ると空気が通りにくくなりかなり苦しい。
・D&M サポーターメーカーの洗える伸縮マスク
呼吸のしやすさ ★★★☆☆ 3点
スクワット8レップやって3分インターバルといった筋トレなら何とか出来る。呼吸がある程度制限されるため、おそらくインターバルでの回復が遅れる。いつもより長めにインターバルを取ったほうが良い。HIITといった心拍数が上がりっぱなしの高強度の運動はこのマスクだと難しいと思う。あとメガネが曇りやすいのでメガネ民は曇り止めをつけたほうがいいかも(曇り止めを注文したけどまだ届かない)。
・通気性の良いフェイスマスク
呼吸のしやすさ ★★★★☆ 4点
アマゾンで売ってたこれを試してみましたが、呼吸はとてもしやすい。たぶんほとんどの運動が問題なく出来る。これがOKならなるべく使いたい。注意点は、黒色だと見た目が上野クリニックっぽくなる。
5/22/2020
ビタミンDと運動パフォーマンス
ビタミンDが筋肉・筋力に影響を及ぼす仕組みは現時点では明確になっていない。ビタミンDが筋肉のタンパク質合成に関わったり、カルシウムイオンの調整に関わったりといったメカニズムが推測されている。
こうした背景から、若いアスリートにビタミンDを投与することで、運動パフォーマンスの改善が見込めるのではないか?というエルゴジェニック視点での研究がいくつか行われている。今回はそれを見ていきたい。
★ビタミンDサプリメントをアスリートが摂取したRCT研究
下のほうに「★まとめ」があるので、個別研究は読み飛ばしても大丈夫です。
(1)Acute Effects of Vitamin D3 Supplementation on Muscle Strength in Judoka Athletes: A Randomized Placebo-Controlled, Double-Blind Trial.
https://wlv.openrepository.com/bitstream/handle/2436/608837/Acute%20effects%20of%20Vit%20D%20on%20muscle%20function%20in%20judokas.pdf;jsessionid=01C07C8293F095F75C497313FDE54BFA?sequence=2
・被験者
柔道選手
・ビタミンD摂取方法
1日目 筋力テストしてすぐ多量のビタミンDを摂取(15万IU)
8日目 再び筋力テスト
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
13.16ng/ml→16.76ng/ml
※被験者ごとのビタミンDレベルの推移を見るとこの平均値はおかしい気がする。グループの人数ではなく、全体の人数で合計を割って平均を出しちゃってる感じがするが、まさかそんなことは・・・
・運動パフォーマンス測定
大腿四頭筋とハムストリングスの筋力(膝の伸展と屈曲の最大筋力を測定)
ビタミンD群は平均で13%上昇
プラシーボ群は平均で3%上昇
(2)Correcting Vitamin D Insufficiency Improves Some But Not All Aspects of Physical Performance During Winter Training in Taekwondo Athletes.
https://www.researchgate.net/publication/324928086_Correcting_Vitamin_D_Insufficiency_Improves_Some_But_Not_All_Aspects_of_Physical_Performance_During_Winter_Training_in_Taekwondo_Athletes
・被験者
テコンドー選手
・ビタミンD摂取方法
毎日5000IUを4週間
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
10.9ng/ml→38.4ng/ml
・運動パフォーマンス測定
無酸素ピークパワー(Wingate anaerobic test全力自転車マシン漕ぎ)と膝の伸展のストレングス向上については、ビタミンD群とプラシーボ群で有意差あり。筋持久力、垂直跳び、敏捷性、シャトルランは有意差なし。
・怪我
メインの研究目的ではないが、プラシーボ群のほうが怪我する選手が多かった。
(3)The effects of vitamin D3 supplementation on serum total 25[OH]D concentration and physical performance: A randomised dose-response study
https://www.researchgate.net/publication/235628143_The_effects_of_vitamin_D3_supplementation_on_serum_total_25OHD_concentration_and_physical_performance_A_randomised_dose-response_study
・被験者
ラグビーやサッカーなど
・ビタミンD摂取方法
週あたり20000IU、40000IU、プラシーボの3グループ。12週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
20ng/ml→34ng/ml(週あたり20000IU)
20ng/ml→36ng/ml(週あたり40000IU)
・運動パフォーマンス測定
ベンチプレス1RM、レッグプレス1RM、垂直跳び、20m走いずれもビタミンD摂取による効果なし。
(4)Assessment of vitamin D concentration in non-supplemented professional athletes and healthy adults during the winter months in the UK: Implications for skeletal muscle function
https://static1.squarespace.com/static/59321fad9de4bb81bdceb3b6/t/593cb0a5e3df286fa0f55995/1497149606409/Assessment+of+vitamin+D+concentration+in+non-supplemented+professional+athletes+and+healthy+adults+during+the+winter+months+in+the+UK-+implications+for+skeletal+muscle+function.pdf
・被験者
ラグビー、サッカー、騎手の選手。
・ビタミンD摂取方法
毎日5000IUを8週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
12ng/ml→42ng/ml
・運動パフォーマンス測定
10m走と垂直跳びが向上。ベンチプレス1RMとスクワット1RMは有意差無し(向上の傾向はあり)。
(5)Vitamin D Supplementation and Physical Activity of Young Soccer Players during High-Intensity Training
https://www.mdpi.com/2072-6643/11/2/349/htm
・被験者
サッカー選手
・ビタミンD摂取方法
毎日5000IUを8週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
19ng/ml→43ng/ml
・運動パフォーマンス測定
スプリント能力とジャンプ力を測定。プラシーボ群とビタミンD群で有意差なし。
(6)Vitamin D Supplementation and Physical Performance in Adolescent Swimmers
https://www.researchgate.net/publication/265516194_Vitamin_D_Supplementation_and_Physical_Performance_in_Adolescent_Swimmers
・被験者
水泳選手
・ビタミンD摂取方法
毎日2000IUを12週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
20ng/ml→30ng/ml
・運動パフォーマンス測定
スイムのタイム、握力、片足立ちの時間、いずれもプラシーボ群とビタミンD群で有意差なし。
(7)The influence of winter vitamin D supplementation on muscle function and injury occurrence in elite ballet dancers: A controlled study
https://www.researchgate.net/publication/236338298_The_influence_of_winter_vitamin_D_supplementation_on_muscle_function_and_injury_occurrence_in_elite_ballet_dancers_A_controlled_study
・被験者
プロのバレエダンサー
・ビタミンD摂取方法
毎日2000IUを4ヶ月
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
ビタミンDレベルは測定していないようだ。実験は冬に行われ、室内での長時間の練習が多い職業なのでスタート時のビタミンDレベルは低いと思われる。
・運動パフォーマンス測定
アイソメトリックでのストレングス(膝の伸展)と垂直跳びで、いずれもビタミンD群が向上。ストレングスは+18.7%、垂直跳びは+7.1%。
・怪我
怪我率はビタミンD群のほうが低かった。ビタミンD群0.55/1000h、コントロール群1.87/1000h
★怪我リスク
(8)Stress Fractures in the Israeli Defense Forces From 1995 to 1996
https://journals.lww.com/clinorthop/Fulltext/2000/04000/Stress_Fractures_in_the_Israeli_Defense_Forces.27.aspx
(9)Association between serum 25(OH)D concentrations and bone stress fractures in Finnish young men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16939407
兵士対象の研究では、骨折リスクとビタミンDレベルの低さが相関している。骨折は頻繁に起こるものではないので、アスリート対象の研究だとサンプル数と調査期間の問題から有意差が出にくいと思う。
(10)The Association of Vitamin D Status in Lower Extremity Muscle Strains and Core Muscle Injuries at the National Football League Combine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29275983
NFLコンバインの選手のデータから、怪我歴とビタミンDの関係を分析した研究。脚の筋肉の肉離れや体幹の筋肉の怪我リスクが、ビタミンDレベルの低さと相関していた。
★まとめ
単関節のストレングス向上はビタミンD摂取の効果ありとなった研究が多い。ジャンプ力はいくつかの研究で効果ありとなっている。ベンチプレスやスクワットなど複合関節種目でのストレングス向上は効果があまり期待できないようだ。
若いアスリートはビタミンD摂取により、部分的にストレングスとパワーが改善するかもしれない。欠乏レベルにある場合は、一日5000IUを2ヶ月くらい続けたい。日光に当たってもビタミンDが生成されるけど、日光に当たりすぎると皮膚がんなどの健康リスクが出てくるので、サプリメントで補うのが良いと思う。
怪我の予防については、結構期待できそうな感じがする。骨折と筋肉の怪我の予防に貢献する可能性がある。骨は単に強くすることで骨折予防だろうけど、肉離れなどはメカニズムがよくわからない。
★ビタミンD研究の注意点
アスリートにビタミンDを投与する研究の問題点は、
・被験者数が少ない
・初期ビタミンDレベルと、サプリメント摂取後のビタミンDレベルがばらばら。
・ビタミンDが運動パフォーマンスに影響を及ぼすメカニズムと、運動パフォーマンスにとって望ましいビタミンDレベルがはっきりしない。欠乏状態(だいたい20ng/ml以下)を改善することで、運動パフォーマンス向上が期待できるのか? それとも健康維持に十分なレベル(だいたい30-40ng/ml)よりさらに高いビタミンDレベルにすると、神経-筋肉が最大のパフォーマンスを発揮するようになるのか?
★ビタミンDが不足しやすい競技・季節
日焼け止めを塗らず肌を多く露出して、低緯度地域、夏、昼間の日差しに多く当たると、ビタミンDが多く生成される。高緯度地域、冬、朝夕の日差しはビタミンDを生成しにくい。
屋内競技はビタミンDが不足しやすい。屋外競技でも、高緯度の冬場、曇りの多い地域(例えば日本だと冬の日本海側)だとビタミンDが不足しやすい。
それと階級制競技はビタミンDが不足しやすい傾向があるようだ。
★タンニングマシンはビタミンD生成に効果的か
ビタミンD生成に必要なのはUVBなので、UVBが少ない種類のマシンだとあまりビタミンDが生成されないだろう。
5/12/2020
新型コロナの年齢群別死亡リスク
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2020-05-07/comparing-coronavirus-deaths-by-age-with-flu-driving-fatalities
アメリカの新型コロナ死者のデータを使って、他の死亡要因とのリスク比較を出している記事を見つけたので紹介します。アメリカではこの記事の時点で新型コロナで7万人くらい亡くなっていて、その7万人に占める各年齢群の割合がわかっている。
最終的なアメリカ全体の新型コロナ死亡数はまだわからないけど、いくつかのシナリオごとに各年齢群が何人亡くなるか試算できるので、その数字を使えば他の死亡要因とのリスク比較ができる。
この記事でのアメリカ全体の最終的な新型コロナ死亡数のシナリオは、10万人、20万人、75万人の3つ。
★新型コロナの最終的な死亡数の考察
欧米でのいくつかの抗体検査の結果から、高齢化の進んだ先進国での新型コロナの致死率は0.1-0.2%程度ではないかと言われている。アメリカ人口3.3億人、人口の7割感染で集団免疫獲得となり新型コロナ終息、致死率0.1-0.2%と仮定して計算すると、アメリカの最終的な新型コロナ死者は23-46万人になる。記事の死亡数シナリオだと、10万人は大幅に超える可能性が高い、20万人は楽観寄りの数字、75万人はだいぶ可能性が低い悲観的な数字だと考えられる。
アメリカのデータだとアフリカ系とヒスパニック系の死亡率が高いので、日本だと全体の死亡率はアメリカほど高くならないかもしれない。それに加えて東アジアは欧米に比べるとなぜか感染が広がりにくく死者が少ない感じなので、地域的に過去に類似のウイルスが流行っていて部分的に免疫を獲得済みな可能性もある(アジアかぜのケースを見るとそういった可能性はある)。
◆季節性インフルエンザ+肺炎との比較
インフルエンザ+肺炎の数字は人口10万人あたりのアメリカの年齢群別死亡率。その年齢群が10万人いた場合に、何人がインフルエンザ+肺炎で亡くなったか。全員がインフルエンザに感染したわけではない。
新型コロナの数字は各シナリオごとの、インフルエンザ+肺炎と比較しての相対的な死亡リスク。1ならインフルエンザ+肺炎と同じ死亡リスク。1より大きければインフルエンザ+肺炎よりも死亡リスクが高い、1より小さければ死亡リスクが低い。
2018年のインフルエンザ+肺炎と新型コロナの死亡リスクを比較すると、アメリカの新型コロナ死者数75万人の悲観シナリオであっても、子供の新型コロナ死亡リスクはインフルエンザ+肺炎の半分~4分の1。一方で大人は死者数20万人の楽観寄りのシナリオであっても、インフルエンザ+肺炎よりも新型コロナのほうが死亡リスクは3~4倍高い。ただインフルエンザに感染するのは人口の1,2割なので、大人が感染した場合に死ぬ確率だと、インフルエンザと新型コロナで近い数字になりそう。(つまり大人にとって新型コロナウイルスがインフルエンザウイルスよりも怖いのは、毒性の強さによるものではなくて、感染しやすさによるものだと言える)
季節性インフルエンザ(+それに伴う肺炎)と新型コロナではどっちが怖いか?という問いに対しては、子供にとっては季節性インフルエンザのほうが怖い、大人にとっては新型コロナのほうが怖いという答えになるだろう。
アメリカと日本とでインフルエンザ+肺炎の死亡率はあまり変わらないと思う。年ごと地域ごとの流行度合いによってインフルエンザの死亡数は大きく変わるし、超過死亡の概念があるので、直接比較が難しい。5年平均のインフルエンザ死亡率のデータだと日本とアメリカは同じくらい。従って大雑把に言えば、日本とアメリカの新型コロナ死亡リスクが同じくらいなら、日本でのインフルエンザ+肺炎と新型コロナの相対リスクも同じくらいになると考えられる。
◆交通事故との比較
アメリカの人口は日本の3倍弱で、アメリカの交通事故死者数は日本の約10倍。交通事故のリスクはアメリカのほうがずっと高い。それを考慮しても、日本で子供が新型コロナで死ぬリスクは交通事故より大幅に低いだろう。若い世代は交通事故と同じくらい。中高年は交通事故よりも新型コロナで死ぬリスクのほうが高く、年齢が上がるにつれて交通事故に比べての死亡リスクは大幅に上がっていく。子供の命を守るという観点では、新型コロナ対策で学校を閉めるよりも、自動車の使用を禁止するほうが高い効果が期待できる(リスク評価をせずコストを度外視した政策への皮肉です)。
★新型コロナの死亡リスク
年齢群別の新型コロナの死亡率を算出してみる。悲観寄りにアメリカ新型コロナ40万人死亡と仮定して、
0歳 死亡率0.001%(10万人に1人)
1-4歳 死亡率0.0001%(100万人に1人)
5-14歳 死亡率0.0001%(100万人に1人)
15-24歳 死亡率0.001%(10万人に1人)
25-34歳 死亡率0.006%(10万人に6人)
35-44歳 死亡率0.017%(10万人に17人)
45-54歳 死亡率0.05%(10万人に50人)
55-64歳 死亡率0.12%(10万人に116人)
65-74歳 死亡率0.27%(10万人に270人)
75-84歳 死亡率0.68%(10万人に684人)
85歳以上 死亡率1.9%(10万人に1896人)
人口の6,7割感染で集団免疫になり終息と仮定しての死亡率なので、感染した場合に死ぬ確率(致死率)はこれを1.5倍したくらいの数字になる。
5/05/2020
家トレ
★筋肉維持のための工夫
バーベルを使ってのトレーニングが出来ないとどうしても重量が足りない。どうやって筋肉量と筋力を維持するか。
1) 片脚で負荷をかける
ランジ、ピストルスクワット、片脚デッドリフトなど。膝を痛めないよう段階的に負荷を上げていく。
2) 低負荷高レップを限界まで
自重でのスクワットや腕立て伏せを限界まで。トップで関節をロックアウトせず筋肉の緊張を保ったままレップを重ねる。体力的・精神的にキツイ。筋肉量の維持に効果的だろう。
3) 全速力でのコンセントリック収縮
ジャンプスクワット、ジャンププッシュアップなど。おそらく筋力維持に効果的で、筋肉量の維持にも効果的だろう。
★あると便利な家トレ道具
・サンドバッグ
砂を詰めて重くする袋。私はsklzというメーカーのを買いました。雑に扱えて便利。
・ゴムバンド
肩周りのトレーニングで使いやすい。
★エクササイズ例
<スクワット系>
重りを持ってスクワット
ランジなど
ピストルスクワット
動画:Pistol Squat Progression
https://www.youtube.com/watch?v=1-Yuq9pD7JY
ジャンプスクワット
動画:Dumbbell Jump Squat | Exercise Guide
https://www.youtube.com/watch?v=XOTO2qWRy9U
<デッドリフト系>
片脚デッドリフト
動画:Single Leg Dumbbell Deadlifts
https://www.youtube.com/watch?v=DDpON2JvXzk
<臀筋・ハムストリングス>
ベッドやソファに足を乗せて、ヒップリフト的な動き。臀筋とハムストリングスを鍛えられる。片脚でやると結構負荷かかる。
動画:Box/Bench Hamstring Curl
https://www.youtube.com/watch?v=t5htLdxEKx0
<プッシュ系>
重りを背中に乗せて腕立て伏せ。
ジャンププッシュアップ
動画:Jumping Push Up - Advanced chest workout
https://www.youtube.com/watch?v=VzqjWuarzZQ
<プル系>
公園のうんていで懸垂
鉄棒でinverted row
家でプル・ロウ
動画:How To Do Incline Rows With Minimal Equipment (Just a bed-sheet and a door) with Antranik
https://www.youtube.com/watch?v=rloXYB8M3vU
適当な重りでワンハンドローイング
動画:Sandbag Single Arm Row
https://www.youtube.com/watch?v=eL51WMgO-7I
家のドアフレームに固定する懸垂用の道具もあります。外れて落下したりドアフレームが壊れたりは自己責任で。「懸垂バー」で検索すると出てきます。
<肩>
動画:Pike Press
https://www.youtube.com/watch?v=P-_1Q4IlZDg
Band Lateral Raise
https://www.youtube.com/watch?v=yfNg5sFndbw
動画:Resistance Band High Row to External Rotation & Overhead Press
https://www.youtube.com/watch?v=tQewe3Shlz8
<体幹>
ベアクロール、デッドバグなど。デッドバグ系やベアクロール系の基本は、骨盤後傾で腰椎フラットにする。息を吐ききると肋骨を締めやすい。腕は強く突き出す。バーベルでデッドリフトが出来ないと体幹の背中側が鍛えにくいのが悩みどころ。
動画:HighPerformanceHandbook.com: Dead Bug
https://www.youtube.com/watch?v=rbemelnkHag
4/24/2020
調べ物をしたいときの話
★方法論的なもの
リソースを有効に使える戦略をまず考える。
明確にしたいのは、以下の2点。
・自分の使える時間
多くの人にとってはあくまで趣味なので使える時間はそれほど多くはない。どのくらいの時間を使えるか。筋トレをする人はトレーニングにも時間を使う必要がある。
・自分の情報処理能力
英文をどんどん読んで必要な情報を取り出して整理していく必要がある。
使える時間が少なく、処理能力が追いつかない場合は、自分で論文を読んでいこうと思っても中途半端にしか調べられず、成果があまり得られない。アウトソースはどうしても必要なので、専門家を上手く使うことが重要。
どこまで自分で論文を探して読むか、どこまで専門家を頼るか、それを考えていく。
ある程度は自分で調べたいと思う人は、最初は大変だけど、時間が有る時に論文を読んでいって、情報処理能力を高める必要がある。また専門家を使う場合も、専門家が紹介している論文の内容に疑問に感じたことがあったら、自分で元の論文を読んで判断する必要があるので、ある程度は論文を読めるようにしておくと便利だと思う。
手前味噌ですが以下の記事を参考に。
自分で論文を読んでいく場合は、
参考記事:エビデンスの考え方
専門家を使う場合は、
参考記事:信頼できる専門家の見分け方
これを書いたときは新型コロナに熱中してたので例えが偏ってますが・・・
★サイト紹介
◇ストレングストレーニングや筋肥大
Greg Nuckolsのサイト。
stronger by science
https://www.strongerbyscience.com/
色々な人が記事を書いている。Greg Nuckolsは世界トップクラスのパワーリフターで、現在は研究者の道を歩んでいる。文章読む感じ、頭も相当良い。
Gregが仲間とやっている有料サイトもあって、毎月最新論文を10個くらい紹介して、内容を噛み砕いて説明、それに対する所感を書いている。内容に価格が見合うと人は登録してみては。
Monthly Applications in Strength Sport (MASS)
https://www.strongerbyscience.com/mass/
私はこの有料サイトのスタート時に現在より安い価格で永久会員登録して毎月楽しく読んでるので、十分に元は取れてると思ってるけど、今の価格で年間契約や永久会員登録するとなるとちょっと考える。
◇栄養や筋肥大
Lyle Mcdonaldのサイト。
https://bodyrecomposition.com/
サイトの記事も書籍も参考になる。すごく細かく書いている記事が多いので、自分にとってそこまで必要か取捨選択しながら読む必要がある。例えばボディビルダーが高みを目指すためのマニアックな記事は、趣味でトレーニングする人にはあまり参考にならない。それと性格が攻撃的になりやすいのと、メンタルが不安定なときがあるのでその辺を差し引いて読むと良いかも(相手を攻撃する場合、過剰に否定的になっていると感じるときがある)。
◇サプリメント
サプリメントについて調べたい場合は、
examine.com
https://examine.com/
◇論文探し
定番のPubMed
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/
知りたい分野のなるべく新しいメタ解析やシステマティックレビューをまず見つけるのが良いと思う。だいたいIntroductionにその分野の概要が書いてあるので、それを読んで全体像を把握しつつ、自分が何を知っていて、何を知らないか、これからどこを調べていけば良いのか考えていく。
4/22/2020
血中ビタミンDレベルと新型コロナの重症化リスクの研究
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3571484
血中ビタミンDレベルと新型コロナの重症化リスクに逆相関が見られるとする論文が出ている。病院の新型コロナ患者のデータを集めて分析したところ、ビタミンDレベルが低いと重症化リスクが上がり、ビタミンDレベルが高いと重症化リスクが下がるという綺麗な結果が出ている。
ビタミンDレベルと新型コロナの重症化リスクに因果関係があるのかを直接調べるには他のデザインの研究が望まれるのだけど、因果関係であるためには、とりあえず以下のような可能性を否定する必要がある。
1) 新型コロナ発症で体内のビタミンDレベルが低下する可能性
発症してからビタミンDレベルが低下し、測定時点ではその数字が出てきた可能性。発症前のビタミンDレベルはわからない。
2) 交絡因子の存在
例えば、
・ビタミンDレベルが高齢になると低下する。(リンク先はイタリアのデータ)
・新型コロナは高齢になると重症化・死亡しやすい。
このような場合、単に年齢が要因でビタミンDレベルと重症化リスクの逆相関が出ている可能性がある。
他にも要介護で寝たきりの人は、日光に当たる機会が少なくビタミンDレベルが低いだろうし、それと同時に身体全体が弱っているだろうから、重症化しやすいと考えられる。身体がどれだけ元気かが屋外の活動量に関係し、それがビタミンDレベルに表れている可能性がある。
年齢や生活環境を揃えた場合のリスク比較を出してほしいけど、この研究ではコンフィデンシャル的な問題でビタミンDレベルと症状の重さ以外のデータは得られていないみたいなので今回は難しそう。
★所感
これは完全に個人の勘ですが、感触としてはビタミンDレベルが新型コロナの重症化リスクにある程度は影響しそうな感じがする。この研究者はフィリピンの人なのだけど、フィリピンのデータを見てみたら、平均でビタミンDレベルは30ng/mlを超えていて、高齢世代のほうがビタミンDレベルが高い。患者のデータは南アジアの国(複数形)の病院から集めたと書かれているのでフィリピンのデータがそのまま当てはまらないと思うけど、東南アジアや南アジアは若い世代の美白意識が強いので、若い世代よりも高齢者のほうがビタミンDレベルが低くなる傾向はないかもしれない。
新型コロナ発症後にビタミンDレベルが低下する可能性については、膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenation)でビタミンDレベルが下がるという記述をみつけたので、症状Criticalではその影響が出るケースがあるかもしれない。他にもビタミンDレベルが下がるケースがいつかあるのだけど、いずれも1,2週間でビタミンDレベルが急激に下がるのはICUレベルの重篤な場合で、OrdinaryやSevereでも症状の重さに沿ってビタミンDレベルが下がっている説明にはならないと思う。
★今後望まれる研究
普段からビタミンDレベルを計測しているなるべく均質な集団での発症リスク、重症化リスクが出せるなら、ビタミンDレベルと新型コロナリスクの関係がかなりクリアになりそう。年齢だけじゃなく人種や所得や生活環境や宗教なども影響するだろうから集団は均質にしたい。ビタミンDを投与するグループとプラシーボを投与するグループで大規模なRCTをやってみて欲しいけど・・・倫理的な面から難しいかな。
関連記事:
新型コロナウィルスとビタミンD
新型コロナウィルスとビタミンD(詳細)
4/19/2020
信頼できる専門家の見分け方
★詭弁
詭弁を完全にゼロにするのは結構難しいと思うけど、詭弁を多用する専門家は信頼できない。詭弁を避けるには、論理的思考能力と誠実さが求められる。
参考サイト:詭弁(ウィキペディア)
★Pros and cons
主張の肯定的な見方、否定的な見方、長所、短所を提示したうえで、なぜその主張を自分が選んだのか明確にしているか。こういうスタンスだと信頼性が高い。ただ、これを逆手に取って、形としては肯定・否定両方の見方を紹介しているように見えて、自分と違う意見にはストローマン(詭弁)を使うなどのやり方もあるので注意が必要。
★イデオロギーの影響
分野によってはイデオロギーによって、好まれる主張がはっきり分かれることがある。
イデオロギーは政治の色分けだと、一般的な言い方をすれば保守とリベラル。クラシカルリベラルとかはとりあえずおいておく(私はハイエク信者のクラシカルリベラルです)。
政治や経済以外でもイデオロギーが影響することがあるので、その分野ではイデオロギーによりどういう見方がされやすいのか、その主張をしている人はどちら寄りの人なのかを考慮すると良い。例えば環境問題は、保守とリベラルで好む主張がはっきり分かれる。今の新型コロナ問題も、保守は経済優先、リベラルは人命優先で分かれている。
生まれつきの性格の影響が大きくて、どういう性格の人がどちら寄りになるのか知っておくと、他の分野でのイデオロギーの影響を考慮しやすい。
保守だと、権威、秩序、伝統といったものを重んじる。
リベラルだと、公平、自由、開放性といったものを重んじる。
イデオロギーは純粋に理性や論理だけで形作られるものではなくて、生まれつきの性格の影響が大きい。だからイデオロギーが関わる問題では、人は感情的に反応するし、自分の性格と感情にフィットした主張を選ぶ。数学や物理の問題についての議論で普通は感情的にならない。論調が感情的になっている場合、それはその人のイデオロギーに引っかかっているからで、論理的な思考になっていない可能性がある。
欧米のメディアはかなりイデオロギーの影響が強いので、イデオロギーに沿った主張ばかりを載せる。メディアがどちらの色か把握しておくと良い。
自然科学の学者だとリベラルが多い。
★自分の知らないことを考慮しない。
自分の知っている範囲の事柄のみから主張を組み立てる専門家は信頼できない。一人の人間が知ることのできる範囲は非常に狭い。知能が高い人は論理的に組み立てるのが上手なんだけど、自信過剰で自分が十分に物事を知っていると思い込んでいるため、足りない材料から論理を組み立てて、見当違いな間違いをする。パーツの足りないプラモデルを強引に組み立てるようなもの。メディアに出たがりの医者の健康情報などにそのようなケースが多い(耳目を集めるようなことを言わないとメディアに出られないのだろうけど)。
★cherry picking
エビデンスから仮説を組み立てるのではなく、自分の主張にフィットするエビデンスだけを都合よく持ち出す。こういう専門家は信頼できない。
★black or white
黒か白か、善か悪かの二択で、わかりやすい答えを提示する専門家は信頼できない。世の中そんなにわかりやすかったら議論なんて起きていない。
★部分最適と全体最適
部分最適が全体最適になるわけではない。例えば、身体の特定の健康指標を最適にする方法が、身体全体の健康状態を最適にするとは限らない。
★「○○の真実」
「○○の真実」と軽々しく断言する専門家は信頼できない。「○○という神話(○○をdisる場合)」も同系統。
★自分の理論が絶対に正しいと信じている
理論通り行かなかった場合は、現実が悪いのであって、理論は間違っていないと考える。理論通りいかなかった場合のプランBを考えていない。結果として理論通りにはならなかったけど、もしこれをやっていなければ、もっと酷いことになっていたので、この理論を目指した政策は正しかったと言い訳する。こういう専門家は信頼できない。
一時期声が大きかったリフレ派がこれ。どう見ても理論が破綻してたけど、政府と世論のウケが良かったので、黒田東彦と岩田規久男を日銀トップに据えて審議委員も賛成派に入れ替えていって金融政策を好き放題やらせてみたけどあの体たらく。結果を出せず時間を浪費しただけでなく、膨張したバランスシートという負の遺産も残していった(どう後始末をつけるんだろう?)。インフレ目標達成できなかったら辞職すると豪語していた岩田規久男は結局辞職しなかった。
最近では厚生労働省クラスター対策班の西浦博・北海道大教授に同じ匂いを感じる。接触8割減を繰り返し唱えているけど、日本の現行法と普通の人の行動パターンを考慮すると実現不可能でしょう。どんな理論でも、実現できなければ意味がない。本気で8割減を達成したいのなら、法改正でもして都市部に自衛隊を派遣し、外出を厳格に制限するのが良いだろう。空論を掲げることで、結果として自粛過激派の先鋭化と国民の分断を招いている。そして本当に対処しないといけない問題から目を逸らさせ、時間を浪費させている(この点もリフレ派と似ている)。
それに緊急事態宣言解除後のことを考えているのだろうか。自分の言うとおりにすれば一ヶ月でコロナ封じ込めが成功して、その後は外からウイルスが入ってきて感染再拡大するようなこともなく、コロナ問題は終わるはずだと考えているのだろうか。8割減が達成出来ず、感染状況が落ち着かなかった場合はどうするのか。うまくいくかどうかに関わらずいずれは緊急事態宣言を解除すると思うけど、その後に感染が再拡大した場合はどうするのだろうか。いずれのケースもかなり確率が高いと思うが、その場合にどう対応するのか明確にしたほうが良い。脅すような数字を出すより、可能性ごとにプランを提示した方がずっと良いだろう。(自分の言う通りにしなければ恐ろしいことが起きるぞと脅すようなことを言うのも信頼できない専門家の特徴)
ちなみに今は封じ込め成功と言われている国も、何年間も国境封鎖を続けてウイルスの侵入を防げるのかわからないし、その政策にコストがどれくらいかかるかわからない。効果の高いワクチンや治療薬が普及するか、地球上から新型コロナウイルスが消えるまで、封じ込め成功の評価はできない。最悪なのはワクチンや治療薬の開発が難航している間に人口の多い主要国が集団免疫を獲得して、それらの国にとって新型コロナが脅威ではなくなり、ワクチンや治療薬の開発コストに対するリターンが見合わなくなって開発が中止されること。
★デメリットやコストについて何も言わない
この人を支持する人も多いだろうけど、例として山中教授を出します。山中教授はワクチンや治療薬という願望にすがった提言をしている。数ヶ月から1年でワクチンや治療薬が普及するのは、奇跡が起こらない限り無理だろう。例えば、ゾルフーザは臨床試験開始から販売まで3年くらいかかっている。(参考:新型コロナ 急がれる医薬品開発-抗ウイルス薬やワクチンが、なかなかできないのはなぜ?) 最近のインタビューでは集団免疫を言い出していて、封じ込めに拘泥していない点は評価できるが、それでも緊急事態宣言の状態をずっと続けることが必要だと言っている。
緊急事態宣言の状態を1年続けるとどれだけ経済的コストがかかるのか。民間の予想だと国内4-6月期GDPが前期比年率1-2割減といったところ。一ヶ月の緊急事態宣言でこの落ち込みようなので、緊急事態宣言を1年間続けたらGDPが3-5割減くらいになるのでは。緊急事態宣言の間、事業者と国民に適切な保障をと言ってるけど、単純計算でも1億人に10万円支給をしたら10兆円、世論を見ると一ヶ月の緊急事態宣言で最低でもこれくらい出すことが望まれているので、緊急事態宣言を続けたら毎月10万円で、年間120兆円。経済学を知らなくても、これは持続不可能だとわかる。そして子供はずっと学校にいけないままなのだろうか。未来の日本を担う子供の教育が捨て置かれる。長期戦を覚悟と言うなら、持続可能なやり方にしないといけない。
どのみち集団免疫に至るなら、なるべく早く集団免疫に到達したほうが経済的な損失は小さくなる。どのくらいのペースで感染が広がっていけば医療のキャパシティを超えずに済むのか、どの程度の経済活動なら持続可能なのかを議論し始めないといけない。緊急事態宣言の状態を続けてなるべく感染を抑えていくと、経済損失が際限なく膨らんでいく。経済水準が落ち込めば、医療だけでなく治安や教育などあらゆるものの水準が落ち込む。端的に言うと貧しい国になる。
薄々気付いている人も多いだろうことは、
「これだけ感染力の強いウイルスが蔓延した現状では新型コロナ封じ込めは無理」
「ワクチンや治療薬は出来るかわからず出来たとしても普及するまで何年間もかかりそう」
目を背けたくなる現実は、
「経済活動の停止や手厚い補償を続けるのは経済的にも財政的にも人々のメンタル的にも無理」
「封じ込めようとしても感染再拡大が起こるなら集団免疫を目指すのが最もマシなやりかた」
「集団免疫に至る過程では、ある程度の人が死ぬ」
「集団免疫を目指すならなるべく医療崩壊しない範囲で速やかに感染を拡大させていく必要がある」
「酷な言い方をすれば、程よいペースで死者と重症者が出続ける必要がある」
この選択にはこういうメリットとデメリットがありますと、トレードオフがあることを明確にする。それが誠意ある人の態度だ。山中教授は叩かれるのが嫌なのか、それともトレードオフを理解出来ないほど頭が鈍いのか知らないけど、綺麗事しか言っていない。
集団免疫戦略を取っているスウェーデンでは、4/15時点の担当疫学者の話だと、感染ペースがプラトーに達しつつつあり、スウェーデン内での一部地域では集団免疫の状態に非常に近づきつつあると信じている、とのこと。
50人以上の集まりなど禁止事項はあって、社会的距離や家にいることが推奨されているが、スウェーデンの街の様子はかなり自由な様子。国民の自主性を尊重、持続可能性を重視しているとのこと。一方、ロックダウンに踏み切った欧米各国は経済的コストの膨大さと市民のメンタル面で、ロックダウン継続は無理な雰囲気になってきている。
スウェーデンの社会実験がどういう結果になるのかわからないけど、非常に貴重な実験をやってくれているので他国は大いに参考になる。数ヶ月以内に結果が出るでのはないか。スウェーデンの感染状況が落ち着いてきたら、他の国でも集団免疫までにどれくらい死亡するかの見当がつくと思う。このサイトで状況が日々更新されている。人口1000万人で、現時点で約1500人死亡。
スウェーデンは今は異端扱いされて批判されているけど、個人的には来月くらいから評価が逆転しだすと思っている。欧米の多くの国は、ロックダウンを続ける経済的コストに耐えきれず、見切り発車で経済活動を再開し、結果としての集団免疫の道を選ばざるを得ないだろう。
酷い話だけど、医療のキャパシティを超えないような感染ペースだと集団免疫まで何年間もかかるようなら、ある程度の医療崩壊を許容しつつ終息までの時間を短くしたほうがトータルのコストは低くなるだろう。未曾有の危機、長期に渡って経済にダメージと言う割に、株価が堅調に戻りつつあるのは、経済崩壊と医療崩壊だったら、医療崩壊を選ぶだろうと株式市場は見透かしているのかもしれない。経済が崩壊したら医療も崩壊するけど、医療が崩壊しても経済は崩壊しない。
日本は欧米の追従でしょうね。政府や専門家やマスコミは新型コロナを中世のペストみたいに扱って恐怖を煽っていたから、いまさら経済活動を見切り発車で再開するのも世論の反発が強いと思うけど・・・。どう世論を納得させるかは政治家の力量。せめて若い世代はリスクは低いとデータをもとに伝えていれば、若い世代は仕事に戻ろう、高齢者を社会から隔離、という政策を取りつつ経済活動再開に向けて動き出せるものを。若い世代も重症化、死亡例と繰り返し煽っていたから。
再陽性が出ている問題については、それが再感染なのか体内でのウイルスの再活性化なのか現時点でははっきりしていない。仮に再感染だとして、皆がまったく免疫獲得できず100%再感染するのなら集団免疫戦略は使えないことになる。もし集団免疫が獲得できないなら中途半端に対策してももぐらたたきになるだけなので、各国同時に警察・軍隊を動員しての厳格な封じ込め策を取るか、もしくは死にやすい風邪として完全に放置するかになる。大部分が免疫獲得できて再感染するのがレアケースなら集団免疫戦略は問題なく使える。今後の展開を見てみないとなんともいえない。
4/10/2020
新型コロナウィルスとビタミンD(詳細)
前回記事:新型コロナウィルスとビタミンD
★体内のビタミンDレベルを保つには
・日光(紫外線)に当たる
太陽高度の高い時が良い。具体的には、低緯度地域、夏、昼間は太陽高度が高い。成人白人が全身を夏の日光に15-30分当てて10000IUくらい出来る。
・ビタミンDを多く含む食品を食べる
鮭、脂質の多い魚、卵の黄身など。ただ普通の食事で多くのビタミンDを摂取するのは難しい。
・サプリメント
屋外での活動が減少している現代においては、サプリメントで補うのが良いだろう。
専門家によれば、適切なビタミンDレベルを保つには日光も食品もサプリメントも全部必要とのこと。
★ビタミンDの種類
D2とD3があるのだけど、ビタミンD3で良いだろう。
★注意点
体内のビタミンDレベルが低下している場合は、望ましい水準に戻すことで免疫機能の回復や病気予防や骨を強くしたりや筋力を上げたりといった効果があると考えられるのだけど、ビタミンDレベルが低下していた場合に落ち込む分を取り戻すと思われるので、過剰摂取しても効果がブーストされるわけではない。
★上気道感染症やインフルエンザへの効果
ビタミンD摂取が上気道感染症やインフルエンザの予防にも効果がありそうなので、新型コロナウイルスの対策にもなるかもしれない。もちろんビタミンD摂取によりコロナウィルスへの感染リスクが下がるというエビデンスは現時点では存在しないが、ビタミンDサプリメントの摂取コストと、アップサイドリスク・ダウンサイドリスクを考えると割の良い賭けなので、自分だったら毎日5000IUビタミンDを摂取する選択肢を選ぶ。読解力のない人に絡まれるのも面倒なので繰り返すけど、私はビタミンD摂取が新型コロナウィルスの予防になると言っているわけではない。最悪死ぬことを考えると、ビタミンD摂取はやってみる価値はあると言っている(イタリアやアメリカの死者の平均年齢が80歳くらいなので若い人が死ぬリスクは著しく低いと思うが)。またビタミンD不足は様々な健康リスクに関わると考えられているので、サプリメント摂取でビタミンDレベルを望ましい水準に保つのを避ける理由も無い。
ビタミンD摂取が気道感染症を予防するかを調べたメタ解析(1)を見ると、血清ビタミンD濃度が25nmol/L(10ng/ml)以下の場合にビタミンDを摂取すると気道感染症の強い予防効果があるが、それ以上だと有意差がでない。ビタミンDの摂取の仕方は、毎日もしくは毎週摂取したほうが効果が出る。1ヶ月に一回10万IUといった服用の仕方は効果が低そう。摂取量が少ないRCTも含んだ上で、25nmol/L(10ng/ml)以下の場合のビタミンD摂取で気道感染症の強い予防効果が出ているので、40ng/ml程度まで上げられる量を摂取すればより高い効果が期待できると思う。このメタ解析だと、高カルシウム血症と腎結石リスクは、プラシーボ群とビタミンD摂取群で変わらず。
メタ解析の元になっているRCTはデザインがいまいちなものが多い。ビタミンD摂取が効果を発揮するのは、初期状態がビタミンD不足だったときに、体内のビタミンDレベルを上げ免疫の働きを正常に戻すことにより病気のリスクを低減させると考えられるので、被験者の初期状態を低いレベルに揃えて、十分な量のビタミンDを投与する。血清ビタミンDレベルが適切な水準に上昇するのに数ヶ月かかるので、実験期間は長めに取る、というデザインにしないとRCTでは効果が示されにくいだろう。
良いデザインのRCT例(2)。被験者が抗体欠乏の患者と気道感染症になりやすい患者で、特に疾患の無い人と反応が変わるかもしれないけど。ビタミンDを毎日4000IU摂取。期間は1年。血清ビタミンD濃度は初期20ng/ml付近から3ヶ月で40ng/ml超えに上昇。ビタミンD摂取群は上気道感染症のリスクが下がり、抗生物質の摂取が減った。この研究と同じようなデザインで繰り返しRCTをやってみれば、ビタミンD欠乏の人がビタミンDを摂取することで上気道感染症やインフルエンザのリスクを下げるかどうかがはっきりする。
上気道感染症の罹患リスクと、血清ビタミンD濃度に逆相関が見られるとする観察研究(3)。ビタミンDレベルが低いと、上気道感染症の罹患リスクが上がる。30ng/ml以上の場合に比べたオッズ比が、10ng/ml以下で1.36、10-30ng/mlで1.24。
1000IU/日のビタミンD摂取で上気道感染症、風邪、インフルエンザ様症状の発症リスクに影響は認められなかったという結果のRCT(4)。人数が多くて期間も長いのは良いけど、スタート時点での血清ビタミンD濃度が約25ng/mLでそれほど低くはなく、摂取後も32ng/mLでそれほど上昇しているわけではなく、ビタミンDがそれほど低くない人が少量のビタミンDを摂取しても上気道感染症などのリスクは下がらなそうだということは言える。
この研究は血清ビタミンD濃度の四分位ごとの罹患リスクを出していて、血清ビタミンD濃度が高いほど、上気道感染症、風邪、インフルエンザ様症状の罹患リスクが下がり、病気の日数が短い傾向があることが示されている。特に重い症状での日数が大幅に短くなっている。四分位の区切りは、25th, 50th, and 75th percentiles (21.75, 28.42, 35.4 ng/mL)なので、これを見ると20ng/mL以下は感染症に対する免疫機能がかなり低下してそう、35ng/mL以上にするとちゃんと働いていそうって感じがする。
あとプロバイオティクスの摂取で喉や鼻の粘膜を強化するのも、新型コロナウィルス対策として意味があるかもしれない。価格が安くてダウンサイドリスクはほぼ無いのだから、ダメ元でやってみる価値はあると思う。
関連記事:プロバイオティクスのスポーツへの利用
★ビタミンDと肺炎
ビタミンD欠乏と市中肺炎の関係についてのメタ解析(5)。ビタミンDレベルの低さと、市中肺炎のリスクが相関している。血清ビタミンD濃度20 ng/mL以下で、オッズ比1.64。一般の肺炎は多くが細菌性で、新型コロナのウィルス性肺炎とは反応が異なるかもしれないけど参考まで。
★ビタミンD欠乏の割合
季節や屋外活動の多さなどで変わる。いくつか研究を見ていく。ビタミンD欠乏の閾値はいくつか定義があるけど、よく使われる20ng/ml以下の割合を見ていく。
・日本人のオフィスワーカー(6)。20 ng/ml以下は7月が9.3%、11月が46.7%。
・妊娠中の日本の女性(7)。平均すると20ng/mL以下は73.2%。季節ごとに見ると20ng/mL以下は4月が89.8%、10月は47.8%。日光が弱まり外出が減る冬の間にビタミンDレベルが低下していると思われる。
・2004年頃のアメリカのデータ(8)。20ng/ml以下が36%。ビタミンDレベルは、白人>ヒスパニック>黒人になっている。黒人は平均が20ng/ml以下で、深刻な欠乏である10ng/mlの割合がかなり高い(Table2)。狩猟採集生活をしていた頃に住んでいた地域の日照レベルに身体がアジャストしていて、それよりも日光が弱い地域に住むとビタミンDレベルが低くなるのだと思う。当然、屋外での活動時間が短くなればそれだけビタミンDレベルが下がる。日本に住む人だと、インドや東南アジアや南米やアフリカなど日差しが強い地域の出身で肌の色が濃い人は普通に生活しているとビタミンD欠乏リスクがかなり高くなると考えられる。
スウェーデンやイギリスやアメリカでは、肌の色の濃い移民が新型コロナウィルスの死亡者に占める割合が高いという報告が出ている。生活環境や衛生状態や医療へのアクセス度合いも影響しているのだろうけど、ビタミンDレベルの低さも影響しているのかもしれない。
★ビタミンD摂取の副作用
ビタミンDの摂取で、高カルシウム血症、高カルシウム尿、腎結石になるリスクが上がるかもしれない(研究によって結果がばらついている)。
通常レベル(1日10000IU以下)のビタミンDを摂取して高カルシウム血症などになるかは、おそらく反応に個人差がある。ビタミンDに過剰反応する遺伝子変異や、結核などの病気の人がビタミンD摂取に過剰反応して高カルシウム血症になりやすいと考えられている。メタ解析(9)では、800IU以下の小容量でもそれ以上の量でも高カルシウム血症のリスクは同程度上がるという結果が出ていて、過剰反応する体質の人がリスク比を引き上げている感じがする。
★摂取量目安
日光にあまり当たらない生活の人は1日あたり5000IU程度の摂取を推奨。血清ビタミンD濃度を測定できるなら、ビタミンDレベルが望ましい水準になったら1日あたり1000-2000IUに減らして維持していっても良い。週に一回より頻度が高ければ良さそうなので、1日5000IUペースで摂取したいなら、2日に一回10000IUといった摂取の仕方でも問題ないだろう。
買うのはアメリカの大手メーカーのサプリメントが安くて良いと思う。国内メーカーのものは価格が高い。海外サプリメントは質が悪いものもあるので、よくわからないメーカーのあまりに安いものは買わない方が良いと思う。
私はアマゾンで買えるこれを摂取しています。
ビタミンD摂取による高カルシウム血症のリスクが指摘されているので、一般的なカルシウムサプリメント(炭酸カルシウムやクエン酸カルシウム)との併用は止めたほうが良いだろう。そもそも一般的なカルシウムサプリメントは摂取しないほうが良いと思う。
関連記事:健康な骨と心臓血管のための食生活ガイドライン
★ビタミンD摂取量の上限
一般にはどのくらいの量でビタミンD過剰摂取の症状が出るのか。ケーススタディを集めた研究(10)を見てみると、成人だと一ヶ月60万IU(1日20000IU)を超えるペースで数ヶ月間以上摂取しつづけるするのは過剰摂取のリスクが高そう。過剰摂取の症状は、吐き気、嘔吐、脱水、腹部などの痛み、倦怠感、食欲不振など。これらの症状が出たら即座に服用はやめる。
★所感
おそらく新型コロナウィルスは人口の大部分が感染するまで止まらない。都市封鎖といった強硬措置で一時的に封じ込めたように見えたとしても、緩めたらまた感染が広がりだす。SARSやMERSとは感染力が違うので封じ込めは出来ないだろう。新型インフルエンザのパンデミックに近い。
既存のインフルエンザが新型コロナウィルスに比べてそれほど脅威ではないのは、過去に新型としてパンデミックが起こり、多くの人がある程度の免疫を持つようになったから。その過程では、多くの命が失われた。個人として出来ることは、遅かれ早かれ感染すると考えて、出来るだけ体調を整えてウィルスを迎え討つことだと思う。(外出自粛で日光に当たる機会が減り、運動不足になると、よりウィルスに対して身体が脆弱になるだろう)
経済に人命は替えられないという論拠で、経済的コストを無視して強硬な抑え込み策をやるべきだという主張があるけど、不況になると自殺者が増える。目の前の新型コロナ死者を一人でも減らそうと頑張ると、結果として多くの命が失われる可能性がある。
トータルの犠牲を小さくする方法はおそらく、経済活動をある程度維持しつつ医療崩壊を起こさないペースでのコントロールされたパンデミックを目指し集団免疫を獲得すること。スウェーデンがそれを目指している。スウェーデンは高い医療レベル、低い人口密度、他の欧米諸国に比べると低い肥満率、低い大気汚染レベル、あとこれははっきりとはしない説だけど、BCG接種国なのとビタミンDレベルの強化策で国民のビタミンDレベルが低くないこと。恵まれた条件が揃っているのでチャレンジ出来るのだと思う(もちろん為政者と国民が合理的に考え決断できるのが前提だが)。イギリスやアメリカやイタリアは都市封鎖せざるを得ない状況にあっという間に追い込まれた。
理想論を言えば、経済活動を維持したまま、重症化リスクの高い人達(主に高齢者)を社会から隔離、それ以外の重症化リスクの低い人たちは医療崩壊しないペースでなるべく早く集団免疫の獲得を目指すのが経済的被害も人的被害も最小になると思う。免疫を持つ人が増えるとウィルスは移る先が見つからなくなってその集団では感染が終息していく。その後重症化リスクの高い人たちを社会に合流させる。再び外からウィルスが入ってきても免疫を持っている大勢の人がバリアになって、リスクの高い人たちまでウィルスが辿り着きにくくなる。(このウィルスの感染力の強さと無症状や軽症の感染者の多さを見ると、すでにかなりの人が感染して免疫獲得済みな感じもする)
感染ゼロを目指して強硬に抑え込もうとする政策の問題点は、強烈な景気の落ち込みとそれに伴う自殺者の急増、そして集団免疫が出来ない限り、解除後にまた外からウィルスが入ってきて感染拡大が再開し、リスクの高い人たちもウィルスに晒されやすくなること。免疫が出来ない種類のウィルスだったらどうするのかという反論があるけど、それは都市封鎖しても同じことが言える。すでに世界各地にウィルスは広まっているので、世界中の人が同時に一ヶ月くらい刑務所の独房みたいなところで完全隔離でもしない限り、このウィルスは再び入ってくるだろう。
日本がどこを目指した戦略を取っているのかわからないけど、トレードオフを受け入れた上で、政策を実行して欲しいものです。現状では、パニックになった世論に流され、コストと被害を無駄に膨らませる政策をやっているとしか思えない。
参考記事:新型コロナ対策でいま求められる「戦略」と「戦術」
参考記事:感染症の基本法則とパラドックス
<参考文献>
(1)Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28202713
(2)Vitamin D3 supplementation in patients with frequent respiratory tract infections: a randomised and double-blind intervention study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3533016/
(3)Association between serum 25-hydroxyvitamin D level and upper respiratory tract infection in the Third National Health and Nutrition Examination Survey.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19237723/
(4)Vitamin D3 Supplementation and Upper Respiratory Tract Infections in a Randomized, Controlled Trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3805175/
(5)The association between vitamin D deficiency and community-acquired pneumonia
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6756683/
(6)Serum 25-Hydroxyvitamin D Concentrations and Season-Specific Correlates in Japanese Adults
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3899433/
(7)High frequency of vitamin D deficiency in current pregnant Japanese women associated with UV avoidance and hypo-vitamin D diet
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0213264
(8)Demographic Differences and Trends of Vitamin D Insufficiency in the US Population, 1988–2004
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3447083/
(9)Vitamin D-Mediated Hypercalcemia: Mechanisms, Diagnosis, and Treatment
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5045493/
(10)Development of Vitamin D Toxicity from Overcorrection of Vitamin D Deficiency: A Review of Case Reports
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6115827/
4/07/2020
新型コロナウィルスとビタミンD
新型コロナウィルス対策としてビタミンDの摂取が有効かもしれないので、毎日5000IUのビタミンD摂取を推奨。屋外での活動が少なく、ビタミンD欠乏になっていそうな人は、最初の数週間は毎日10000IU摂取し、その後毎日5000IU摂取を推奨。(摂取量は成人の目安)
ロジックを簡単に書くと、体内のビタミンDレベルが低い人は、上気道感染症やインフルエンザへの罹患リスクと重症化リスクが上がると考えられ、ビタミンD摂取によりビタミンDレベルを望ましいレベルまで引き上げ免疫機能を正常化することで、これらの罹患リスクと重症化リスクを下げることが期待される。これは新型コロナウィルスにも同じことが言える可能性があり、北半球の4月は体内のビタミンDレベルが下がりやすく、また外出自粛要請により日光に当たる機会が減り、ビタミンDレベルが低下している人が多くいると思われるので、ビタミンDを摂取するのが良いと考えました。血清ビタミンD濃度を測定できるのなら、測定結果を元にビタミンDレベルが低い人のみビタミンDを摂取するのがベストですが、検査には費用と手間と時間がかかるし、医療リソースを使うかもしれないので、とりあえず摂取するのが良いという判断です。
こういった注意が出ているのは把握しています。
「新型コロナウイルスにビタミンDが効く」等の情報に注意 (200226)
ビタミンDサプリメントの価格の安さ、及び摂取によるダウンサイドリスクとアップサイドリスクを考慮すると、ビタミンD摂取は割の良い賭けだと思うので、摂取したほうが良いと判断しました。もちろん、ビタミンDを摂取すると新型コロナウィルスへの罹患リスクが下がるとか、重症化しにくくなるといったエビデンスは現時点ではありません。
稀に遺伝子変異(CYP24A1 Mutation)によりビタミンDへの感受性が高い人がいます。通常は問題ない量のビタミンD摂取で高カルシウム血症の症状(吐き気、嘔吐、脱水症状、腹部などの痛み、倦怠感、食欲不振など)が出た場合は、服用を止めて病院に行ってください。ビタミンDサプリメントの摂取だけでなく、高カルシウム食や紫外線への曝露を避けたりと、生活の仕方から変えないといけないようです。もちろん既に医師からビタミンDの摂取を禁じられている人は摂取しないこと。
<参考文献>
Evidence That Vitamin D Supplementation Could Reduce Risk of Influenza and COVID-19 Infections and Deaths
https://www.preprints.org/manuscript/202003.0235/v2
メカニズム的には新型コロナウイルスの感染リスクを低減し得るという論文。PDFのボタンを押すと全文読めます。ここでの推奨摂取量は、最初の数週間は1日10000IUで急速にビタミンDレベルを上げ、その後1日5000IU摂取。25(OH)Dレベルを測定できるなら、これを40–60 ng/mlにしたい。マグネシウムの摂取も推奨。
GLOBAL EPIDEMIC OF CORONAVIRUS—COVID-19: WHAT CAN WE DO TO MINIMIZE RISKS
https://storage.googleapis.com/journal-uploads/ejbps/article_issue/volume_7_march_issue_3/1584436192.pdf
学術誌の記事で高用量のビタミンD摂取が提案されています。この記事ではビタミンDに加えて亜鉛、セレン、抗酸化物質の摂取を推奨。最初に20万~30万IUをまとめて摂取、一週間後に同じ量。この量だと遺伝子変異が無い人も過剰摂取の症状が出るかもしれないけど、体内のビタミンDレベルを急速に上げたい場合は選択肢になる。
Optimisation of Vitamin D Status for Enhanced Immuno-protection Against Covid-19
https://www.bmj.com/content/368/bmj.m810/rapid-responses
左下の下矢印クリックで全文読めます。
Preventing a covid-19 pandemic
https://www.bmj.com/content/368/bmj.m810/rapid-responses
ここのresponsesでビタミンDの摂取についていくつかコメントが付いています。
3/29/2020
背中の伸展ポジションからの脱却
★背中の伸展ポジションの問題点
背中を伸展させて動作を行う問題点を羅列していくと、
- 骨盤前傾により股関節の屈曲が制限されるので、股関節を深く曲げにくい。
- 骨盤前傾でしゃがむと鼠径部で骨がゴリゴリ当たることがあり気持ちよくしゃがみにくい。
- 床引きデッドリフトは股関節の屈曲が足りないと、背中を丸めて無理に届かせることになるので腰に危険な負荷がかかる。
- 体幹がコントロールできていないのでスクワットでbutt winkしやすい。
- デッドリフトではハムストリングが伸びた状態で強い負荷をかけることになるので、ハムストリングを痛めやすい。
- 腰を反りすぎてトレーニング中に痛めるケースはあまりないとは思うが、脊柱起立筋群が緊張しっぱなしで常に腰が反ったポジションにあることで慢性的な腰の痛みになりやすい。
身体機能面で言えば、背中の筋肉に力をいれて背中を反って体幹を支える問題点は、矢状面のプル方向(デッドリフトやスクワット)でのみ辛うじてスタビリティを得られるが、矢状面のプッシュ方向(ベアクロールやプランク)、そして横断面、前額面では全くスタビリティが得られないこと。
多くのスポーツの動作だけでなく、普通に歩くことでさえも、矢状面だけでなく横断面や前額面での複雑な動作が必要なので、背中を反って体幹を支える癖をつけると、他のことに全く使えない身体の使い方を覚えてしまう。
★背中の伸展対策トレーニング
基本の体幹の固め方は以下参照
関連記事:体幹トレーニング
背中のストレッチのストレッチをして背中の反りを緩和しておくと良い
関連記事:背中のストレッチ
体幹の前側の筋肉を動員して体幹を固める練習でやりたいエクササイズは、デッドバグ系、ベアクロール系。肋骨を締めて体幹を固めるのを意識するのだけど、同時に腕と脚が体幹の前側の筋肉とリンクするようにすると良い。体幹の前側の筋肉は腹直筋だけじゃなく腹斜筋などお腹周り全体。手の平と足の裏が地面や重りに接していると良い(特に母指球・母趾球に負荷を感じると良い)。
デッドバグ系やベアクロール系の基本は、骨盤後傾で腰椎フラットにする。息を吐ききると肋骨を締めやすい。腕は強く突き出す。
ベアクロールはこんな感じで姿勢を作って前後左右に適当に這い回る。ジムで這い回るのが恥ずかしい場合は、「右手左足を浮かせる→左手右足を浮かせる」を交互にやると良いと思う。
動画:HighPerformanceHandbook.com: Dead Bug
https://www.youtube.com/watch?v=rbemelnkHag
デッドバグ。腰椎フラットで腰が床に付くように。肋骨が上がらないように。
動画:3 Month PNF Patterns with Bottoms Up Kettlebell Hold
https://www.youtube.com/watch?v=G7pneju5wIg
手が膝に近づく時に息を吸い、腕を伸ばす時に息を吐く。重りを持った腕は高く突き上げるイメージで。腰が反らず、胸が開かないよう注意する。
動画:Reverse Inch Worm
https://www.youtube.com/watch?v=RoM-81TFuLM
身体を曲げる時に息を吸って、伸ばす時に息を吐く。腰が反らず、胸が開かないよう注意する。
あと最近気づいたのですが、空手の三戦がいいんじゃないかと。
空手エアプですが、見様見真似で三戦の姿勢を取ってみると体幹を固めやすく、腕と脚と体幹がリンクしている感覚がある。足裏は床にべったりつけて、踵の骨の内側の接地を意識、脚、臀筋、体幹に力が入り、肘を内側に絞ることで腹斜筋のあたりが強く収縮し肋骨が締まる。呼吸はよくわからないので体幹トレーニングの記事で書いたPRIの呼吸法を使って、口から息を吐ききって肋骨を締めて腹回りの緊張を保ったまま鼻から息を吸ってバルサルバで息を止めて腹圧を高めてみた。
★デッドリフト
腕と脚と体幹のリンクができたら、デッドリフトをやってみる。バックスクワットよりもデッドリフトのほうが体幹の前側の筋肉に力を入れての動作がやりやすい。
(今後また変わるかもしれないけど今現在)個人的にやりやすいやり方を書いていくと、
バーベルの前に立ち、直立した状態で腕をキョンシーみたいに前に突き出し、口から息を吐ききってお腹周りの筋肉が収縮し肋骨が締まるのを感じる。お腹周りの筋肉の緊張を解かずに鼻から息を吸って適当なところで息を止める。
そのまま屈んでいき、体幹と尻に緊張を感じながらバーを握る。足の裏は母趾球と踵の骨のやや内側が地面に接しているのを意識する。アシンメトリーがある人は、重心が乗りにくい側の足の踵の内側接地を特に意識すると良い。
バーを軽く握ったら親指を内側に折り曲げる。母指球を押し出しながらバーを強く握り込み手首を軽く返すように力を入れる。同時に腹圧を最高レベルに引き上げる。この時点でバーベルが少し浮くのでそのまま足の裏で床を押し、バーが膝を超えたら上体を起こしてロックアウト。こうやると、胸が開かず肩甲骨が前傾せず体幹が安定する感じがする
パワーリフティング系のデッドリフト・スクワットのやり方解説だと膝を外側に押し出す、踏み込んだ足を両側に押し開くイメージで、と解説しているところが多いのだけど、これだと背中の伸展の筋肉に力を入れやすくなるけど体幹の前側に力を入れにくくなる感じがする。スクワットもデッドリフトも、膝とつま先はもちろん外側に開くのだけど、踵の骨の内側の接地、大腿骨はどちらかというと内旋方向に力を入れる(実際に内旋はさせない)イメージでやると、腕と脚と体幹の前側の筋肉がリンクし、骨盤が安定し、体幹を固めやすい。
★空気の入れ方
胸を水平面360度膨らませて息を吸い込む。肋骨の乳首より下のあたりを、前後左右360度膨らませるイメージで行うとやりやすいと思う。息を吸い込む時に肩が上がらないよう注意する。
バックスクワットは腕とバーのポジションの問題で、上背部に空気を入れにくいので、息を吸うときに意識して上背部に空気を入れるようにすると体幹が安定すると思う。背中のストレッチで上背部に空気を入れる練習をすると良い。
★コンディショニング
背骨ニュートラルでトレーニングを行っても、デッドリフトやスクワットを熱心にやると背中の筋肉にはどうしても強い負荷がかかる。背中のストレッチやフォームローラーころころして背中の筋肉の緊張を取ってやると良いと思う。
関連記事:背中のストレッチ
動画:背中の筋膜リリース(コア フォームローラー編)
https://www.youtube.com/watch?v=1YVUjPEQQT0
2/09/2020
股関節の骨の個人差とスクワットのスタンス
筋肉などの柔軟性が制約にならなければ、股関節の可動域はこの骨と骨がぶつからない範囲になる。大腿骨の先っぽの形と、骨盤のソケットの位置や深さには個人差があり、そのため骨と骨がぶつからない範囲にも個人差がある。
股関節がどこまで曲がる(屈曲する)か、脚を大きく開いた方が曲げやすいか、あまり開かないほうが曲げやすいかは、スクワットのしゃがめる深さと適したスタンスに影響する。
股関節の骨の形には個人差があり、しゃがみやすいスタンスは人によって違うこと、また骨の形の問題でどうやっても深くしゃがむのが困難な人がいて、そういう人が無理に深いスクワットや床引きデッドリフトをやると危険なことなどをこの記事では書いていきたい。
まず最初に、大腿骨の先っぽの形と骨盤のソケットの位置の個人差を見ていく
★大腿骨の先っぽの形と骨盤のソケットの位置
(1)大腿骨の先っぽの捻じれの角度 femoral anteversion / femoral neck angle
日本語だと前捻角。上から見たときの大腿骨のシャフトに対する先っぽ部分の角度。後で紹介するCraig's testで大体の値がわかる。赤ちゃんの時は40度くらいで、成長とともにだんだん角度が小さくなっていく。
被験者グループの遺伝子や生活様式によって値は異なるけど、だいたい5-15度くらいが普通で、この程度の角度だとしゃがむ動作や歩行動作に問題が出にくい。このノーマルレンジを大幅に外れる人も一定数いる。下のグラフはインドの研究のデータ。
色々な研究での、前捻角の平均値。
(2)大腿骨の先っぽの傾き Angle of Inclination / femoral neck shaft angle
前から見た場合の(frontal planeの)、大腿骨の先っぽの角度。赤ちゃんの時は140-150度で成長とともにだんだん角度が小さくなっていく。画像のBとCはノーマルのレンジを外れたケースで、股関節を動かしやすいように赤点の部分を合わせると、X脚、O脚になる。
(3)骨盤ソケット位置(前後) acetabular anteversion
上からみた場合の(Horizontal planeの)、骨盤ソケットの向き。普通は20度程度。
(4)骨盤ソケット位置(横向きか下向きか) Center-Edge Angle / acetabular inclination
前から見た場合の(frontal planeの)、骨盤ソケットの向き。普通は35度程度。
★骨の左右差
大腿骨の先っぽの捻じれと傾きの角度、骨盤のソケットの位置は、多くの人がおおよそシンメトリーになっているが、左右差が大きい人もいる。成長過程でアシンメトリーの負荷がかかると、アシンメトリーに骨が成長するのかもしれない。骨の形の左右差が大きい場合は、スクワットの脚の開き度合いも左右で異なるようにするのが適切だろう。アラインメント異常によるアシンメトリーと、骨自体のアシンメトリーとを見分ける必要があるが・・・人間の身体は難しいですね。
★ソケットの深さと骨頭の太さ
ソケットが深くて大腿骨の先っぽが太いと可動域が狭くなる。スクワットを深くしゃがむのは困難だけど、関節の安定性が高いので長時間歩いたりするのが得意。ソケットが浅くて、大腿骨の先っぽが細いと、屈曲も伸展も可動域が広くなるけど、股関節の安定性が低くなる。
★骨の形の個人差による得手不得手
例えば、骨盤ソケット位置が前向き・横向きで、大腿骨の先っぽの角度が普通だと深くしゃがみやすい。その分、股関節伸展の可動域があまりなく、デッドリフトやヒップスラストのロックアウトがカッチリしない場合もある。その場合は、腰を反ってロックアウトしてる風にならないように注意する。
骨盤ソケット位置は、下向きよりも横向きのほうがしゃがみやすけど、そのぶんボール上部のカバー面積が小さくなるので、長時間の歩行などに不利。カバー面積が小さいため周辺組織にかかる圧力が高くなることで経年劣化が早まり、変形性股関節症になりやすい可能性がある。
★股関節の屈曲可動域チェック
骨の形の話を細かく書いても、スクワットのスタンスのために股関節をレントゲン撮影して判断する人は多分いないと思うので、手軽にできる判断の方法を紹介。
動画:Quick Hip Assessment for Squatting | Movement Fix Monday | Week 6 | Dr. Ryan DeBell
https://www.youtube.com/watch?v=b0nJpBGOml4&feature=emb_title
最初にうつ伏せになって大腿骨の内旋と外旋のレンジをチェック。このモデルの女性のように大腿骨の先っぽの捻じれがretroversionと思われる人は外旋レンジが大きく内旋レンジが小さい。
次にやっているのがCraig's test。腿の横側を触り、大腿骨を内旋・外旋して骨の出っ張りがもっとも顕著になるところで足を止める。この足を止めた時の脛の角度が、垂直から外側に5-15度くらいになるのがノーマルレンジで、スクワットのスタンスは肩幅くらいの普通の足幅で楽にしゃがめる可能性が高い。脛が内側になる場合はワイドスタンスが向いている可能性が高い。脛が15度より外側になる場合はナロースタンスが向いている可能性が高い。この角度に左右差がある場合もあるので、両脚ともチェックしたい。
Craig's testを一人でやってみたい場合は、片脚立ちして関節の角度をうつ伏せ時と同じにして、大腿骨を内旋・外旋すると良いと思う。大腿骨の出っ張りは外側広筋の付着点のすぐ上なので、チェックしたい足で床を踏んだりして外側広筋をピクピクさせると場所を把握しやすい。
次は仰向けになって、様々な角度で膝を胴体に近づけてみて、どのくらい足を開くと股関節が深く曲がるかチェックする。大腿骨の形だけでなく、骨盤のソケットの位置も股関節の可動域に影響する。股関節の可動域の確認は、骨盤がどこで動き出すかに注意する。大腿骨を動かしていって骨と骨がぶつかると、それ以上脚を動かそうとすると骨盤が動く。
動画:Hip Socket Self-Assessment
https://www.youtube.com/watch?v=81xUjrD1Wao
一人でチェックする場合はこんな感じ。
このようにチェックしていくと、股関節の骨の噛み合わせの点で、どのようなスタンスだと楽にしゃがめるのか、どこまで深くしゃがめるのかが大体分かる。骨の形の問題で深くしゃがむのが困難な人は、スクワットで無理に深くしゃがむ必要はない。人によってはナロースタンスでの床引きデッドリフトが、背骨ニュートラルのままでは無理な場合もある(ワイドスタンス向きの噛み合わせならスモウが向いている)。ワイドでもナローでも股関節を深く曲げるのが苦手な噛み合わせなら、浅いスクワット、ラックプル、もしくはヒップスラストが良いだろう。骨の形の問題で股関節が深く曲がらないのに、無理に深くスクワットしたり床引きデッドリフトをしたりすると、股関節の屈曲が足りない分を背骨を丸めることで達成しようとして危ない。
楽にフルボトムまでしゃがめる人は、股関節が繰り返し負荷に弱い可能性があるので、老後のことを考えるなら、股関節周りと脚の筋肉を鍛えて歩行やランニングの衝撃を筋肉で和らげられるようにする。また、肥満にならないように注意する(体重が重ければそれだけ股関節にかかる負荷が増える)。
ただスクワットのスタンスやしゃがめる深さには、足首の可動域や内転筋の柔軟性や身体コントロール能力なども影響する。その場合はこれらの問題に対処することで、スクワット動作が改善するので、身体全体をトータルで見ていく必要がある。
関連記事:
butt winkの話
スクワットの深さ
アシンメトリー
参考サイト:
Beyond Butt Wink: Hip Shape, Injuries, and Individual Ability Part 1
https://deansomerset.com/beyond-butt-wink-hip-shape-injuries-and-individual-ability-part-1/
Beyond Butt Wink: Part 2
https://deansomerset.com/beyond-butt-wink-part-2/
Beyond the Butt Wink: Part 3
https://deansomerset.com/beyond-the-butt-wink-part-3/
Hip
https://clinicalgate.com/hip-5/
Study Of Femoral Neck Anteversion Of Adult Dry Femora In Gujarat Region
http://njirm.pbworks.com/f/4femoral_neck_antiversion.pdf
Femoral neck shaft angles: A radiological anthropometry study
http://www.npmj.org/article.asp?issn=1117-1936;year=2016;volume=23;issue=1;spage=17;epage=20;aulast=Adekoya-Cole
Three-dimensional acetabular orientation measurement in a reliable coordinate system among one hundred Chinese
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0172297
A Novel Approach for Determining Three-Dimensional Acetabular Orientation:Results from Two Hundred Subjects
https://www.academia.edu/21070725/A_novel_approach_for_determining_three-dimensional_acetabular_orientation_Results_from_two_hundred_subjects