https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(25)00676-5/fulltext
睡眠、運動、栄養。
どれも長生きや健康に重要だと言われますが、多くの場合は個別に切り離されて研究され、影響度の比較や相乗効果があるのかは調べられていませんでした。
この研究では、睡眠、運動、栄養の、寿命と健康寿命への影響をまとめて調べています。
◆研究概要
実施国 英国
サンプル数 59078人
年齢の中央値 64.0歳
男性率 45.4%
2013-2015年に、被験者に手首に加速度計を7日間装着してもらった。
・睡眠時間
・中高強度身体活動(MVPA)の一日あたりの時間 中高強度は3METs以上
を測定。
食事内容は、研究参加時(2006~2010年)に実施した29項目の食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価した。このFFQでは、過去12か月間における一般的な食品の摂取状況を尋ねた。
Diet Quality Score(DQS:食事の質スコア)を算出し、0点(最も質の低い食事)~100点(最も健康的な食事)の範囲で評価した。スコアは、以下の食品・飲料の摂取量に基づいて算出された。
- 野菜
- 果物
- 魚
- 乳製品
- 全粒穀物
- 植物油
- 精製穀物
- 加工肉
- 未加工の赤身肉
- 砂糖入り飲料
調査期間 8.1年のフォローアップ
期間中の発生件数
・死亡 2458件
・心血管疾患 9996件
・がん 7681件
・タイプ2糖尿病 2971件
・慢性閉塞性肺疾患 1540件
・認知症 508件
睡眠・運動・食事の状況と死亡リスクの相関から、平均寿命と平均健康寿命(心血管疾患、がん、タイプ2糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、認知症のいずれにも罹患していない期間)を推定しています。
◆研究結果
睡眠、中高強度身体活動(MVPA)、食事の質をそれぞれ3分位に分けています。
3分位を組み合わせた27カテゴリーを比較したグラフが以下です。理論上もっとも好ましくない組み合わせである、睡眠・MVPA・食事の3つがすべて最低カテゴリーである場合と比較して、どの程度の行動変化で、どの程度の寿命延長になるかを表しています。
Life expectancy(寿命)
DFLE:Disease-free life expectancy(健康寿命)
Slp:Sleep(睡眠時間)
LD:Low Diet Quality(低い食事の質)
MD:Medium Diet Quality(中程度の食事の質)
HD:High Diet Quality(高い食事の質)
DQS:Dietary Quality Score(食事の質スコア)
以下は、最低カテゴリーである場合と比較して、運動、睡眠、食事の組み合わせにより、どのくらい寿命が伸びることが期待されるかを算出した例です。
① 低MVPA + 中程度の睡眠 + 高DQS
寿命:+3.80年
健康寿命:+2.93年
② 中程度MVPA + 中程度の睡眠 + 高DQS
寿命:+7.00年
健康寿命:+6.32年
③ 高MVPA + 中程度の睡眠 + 高DQS
寿命:+9.35年
健康寿命:+9.46年
運動量を増やすことによる効果が特に大きく、適切な長さの睡眠と質の高い食事が加わることで、さらに大きな寿命・健康寿命の伸びと関連するようになります。
睡眠、運動、食事の延命効果を単独に見ていくと、
<寿命>
・睡眠時間は7.5時間程度が最も望ましい。
・中高強度身体活動は、55分/日くらいで効果が頭打ちになる。
・食事の質は、あまり影響がない。
SPANスコア:睡眠、運動、栄養の適切さをまとめて一つのスコアにしたもの。高いほど、健康に良い(死亡率が低くなる)睡眠、運動、栄養の生活をしている。睡眠は長すぎても良くないため、一日7.5時間がもっとも良い睡眠とした。
<健康寿命>
・睡眠は、8時間程度が最も望ましい。
・中高強度身体活動は、75分/日で効果が頭打ちになる。
・食事の質は、あまり影響がない。
健康に最も望ましくない行動をしている層(睡眠・運動・食事がすべて5パーセンタイルにある状態)と比較した場合、
<寿命を1年延長することに関連した最小限の組み合わせ>
・睡眠:+5分/日
・MVPA:+1.9分/日
・DQS:+5点(例:野菜を1日あたり1/2食分、もしくは全粒穀物を1日あたり1.5食分追加)
ちなみに、この延命効果を睡眠の変化のみで達成しようとすると、一日25分の睡眠追加が必要になります。
<健康寿命を4年延長することと関連した組み合わせ>
・睡眠:+24分/日
・MVPA:+3.7分/日
・DQS:+23.0点(野菜を1日1カップ追加、全粒穀物を1日1食分追加、魚を週2食分追加)
理論上は、睡眠・運動・食事を少しずつ同時に改善する方が、個々の行動を単独で大きく改善するよりも、少ない変化量で同程度の健康上の利益を得られることになります。
この研究結果からすると
・寿命、健康寿命には運動の影響が大きい。
・睡眠、運動、食事を同時に改善していくと、それぞれはさほど大きくない変化量でも高い効果を得やすくなる。
と言えます。
食事については、あまり大きな影響がないという結果でしたが、肥満についてのいくつか研究では、太りすぎると寿命が縮まることが示されているので、食事にもある程度は気を使ったほうが良いでしょう。
個人的には、食事については肥満回避を最優先にして、あとは常識の範囲内でバランス良く食べていれば十分だと思います。食事の細部にこだわるよりも、程よい長さの睡眠を取り、運動を続けたほうが効果を得られます。
この研究の注意点としては、
・介入研究ではなく、行動と死亡率・発症率の相関を調べて、寿命を推定しています。
・睡眠と身体活動はウエアラブル端末で測定、食事の質は自己申告に基づきます。また、短期間のデータです。
・5つの主要な慢性疾患のみを健康寿命の対象としています。他の疾患により健康寿命が短くなる可能性もあります。
・診断される前の疾患により、身体活動や睡眠に影響が出ていた可能性もあります。例えば、運動不足で寿命が短くなるのではなく、寿命が近づいてきている人が運動量が低下していた可能性があります。この逆因果の影響を小さくするために、追跡開始から3年以内に死亡した人、自己評価による健康状態が悪い人、フレイル指数が高い人、BMIが18.5未満の人、ベースライン時点で慢性疾患を持っていた人は除外しています。
・元データの参加者(UK Biobank)は、英国の一般人口と比較して健康な集団です。喫煙率が低い、飲酒の状況が異なる、肥満が少ない、社会経済的に不利な地域に住んでいる人が少ない、といった特徴があります。
◆参考
運動、肥満の単独での寿命への影響を調べた研究を簡単にまとめておきます。運動については、(1)と似たような結果で、運動の効果が高いことが示されています。肥満については、太るほど寿命が削られる結果になっているので、太り過ぎは避けたいところです。
<運動と寿命の関係を調べた研究>
(2)Physical activity and life expectancy: a life-table analysis
https://research-repository.griffith.edu.au/server/api/core/bitstreams/ede896ad-8ece-4cdc-b1e6-6a6e2b16838b/content
運動量の下位25%が、上位25%レベルに運動量を増やす(ウォーキング111分/日を追加する)と、40歳時点での余命が10.9年伸びる計算になる。そこまで極端なことをしなくても、28.5分/日のウォーキングの追加で余命が+6.3年。
(3)Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21846575/
不活動のグループに比べて、一日15分の運動を行うグループは余命が3年増える。
<肥満と寿命の関係を調べた研究>
・BMI 30~35(一般的な肥満): 若年・中高年期において約3~6年の余命短縮。
・BMI 40以上(高度肥満): 約8~13年の余命短縮。
・若いときに肥満状態になるほど、余命が大きく減る。
(4)Association of BMI with overall and cause-specific mortality: a population-based cohort study of 3·6 million adults in the UK
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30389323/
(5)Body-mass index and cause-specific mortality in 900 000 adults: collaborative analyses of 57 prospective studies
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19299006/
(6)Years of life lost and healthy life-years lost from diabetes and cardiovascular disease in overweight and obese people: a modelling study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25483220/




0 件のコメント:
コメントを投稿