8/21/2020

ケーススタディ:ボディビルダーの減量とコンテスト後の回復

(1)Natural Bodybuilding Competition Preparation and Recovery: A 12-Month Case Study
https://pdfs.semanticscholar.org/7eb2/f2177a56705379065088b3480ce75329fd8e.pdf

一人の男性ボディビルダーがコンテストに向けて減量するまでと、コンテスト後の回復を記録した研究。細かく記録されているので、減量期間の食事や体組成推移などを見ていきたい。

★被験者
26-27歳の白人男性(一年間の記録なので途中ひとつ歳を取った)
薬物使用無し


★食事頻度、タイミング
一日5食 食事間隔は4-4.5時間

トレーニング前後の炭水化物の摂取を多めにしている。トレーニング前の食事に一日の炭水化物の25%、トレーニング後の食事に一日の炭水化物の25%。


★減量の推移記録






週あたりの体重減少ペースは論文中に無いので、一ヶ月を4.3週間として一ヶ月ごとの体重変化から計算している。


★カロリー収支
週平均の摂取カロリーは2700kcal程度で、コンテスト一ヶ月前くらいから2500kcal程度。

コンテスト後しばらくして体重が回復してからの摂取カロリーが3500kcal程度。このくらいが維持カロリーだろう。減量期はコンテスト後のトレーニングメニューよりも有酸素運動のトレーニング量が多いので、消費カロリーもおそらく3500kcalより少し多い。従って減量初期のカロリー不足は1000kcal程度と考えられるが、減量開始から安静時代謝がどんどん下がっているので、カロリー不足の量もどんどん低下していったと思われる。

安静時代謝は当初の2500kcalから3ヶ月後には1500kcal付近まで低下している。その後、摂取カロリーをほぼ変えずに体重は減っているので、有酸素運動のボリュームを増やして消費カロリーを増やしたと思われる。2700kcal程度の摂取カロリーが続いているので、トータルで3000kcal程度は消費しないとこのペースで体重減少しない。単純計算で、安静時代謝1500kcal、食事誘発性熱産生10%で270kcal(タンパク質割合が高いのでもう少し多いと思うが)、トータル3000kcalにするには運動とNEATで1230kcal消費する必要がある。


★マクロ栄養素バランス、タンパク質摂取量
減量期の初期のマクロ栄養素バランスは、
週5日がタンパク質36%、炭水化物36%、25%脂質
週2日がタンパク質30%、炭水化物48%、22%脂質

週2日の炭水化物多めの日は、日毎の摂取カロリーが書いてないのでリフィードかどうか不明。タンパク質摂取量が全ての日で同じなら、5日と2日の摂取カロリーの差は20%になる。

5日と2日の割合を均してタンパク質34%、摂取カロリー2700kcalで計算すると、タンパク質摂取量は230g。体重100kgで計算すると、タンパク質摂取量は2.3g/kg/day。

減量が進むにつれて、週毎に炭水化物 and/or 脂質を5-10g減らして、タンパク質摂取量を増やしていった。コンテスト直前では、タンパク質46%、炭水化物29%、脂質25%。摂取カロリーは約2500kcalなので、タンパク質摂取量は288gになる。コンテスト直前の体重88.9kgで計算すると、タンパク質摂取量は3.2g/kg/day。


★サプリメント
サプリメントは1日5gのクレアチンモノハイドレートのみ。


★トレーニング
減量期通しての週あたり平均は、
- レジスタンストレーニングを4回(週の合計5時間)
- HIITを1回、40分
- 低強度の有酸素運動を1回、30分
- ポージングの練習15-30分(初期は週1回、コンテスト直前は週3,4回)

レジスタンストレーニングは部位あたり週2回トレーニング。


★コメント
最初の3ヶ月でやや除脂肪体重が減っている。減量初期はグリコーゲンと水分が抜けるのでその分もあるだろうけど、除脂肪体重が約3kg減っているので、筋肉も減っていると思われる。ある程度除脂肪体重が減るのは不可避なのかもしれないが、減量ペースを週0.5%程度に落とすか、タンパク質摂取量を3g/kg/day付近まで増やすかすれば除脂肪体重の減りを抑えられたかもしれない。

体脂肪率一桁になってからの残り3ヶ月は、除脂肪体重を維持しつつ減量を続けられている。このフェーズでのやり方を参考にすると、体脂肪率一桁では減量ペースが週0.3-0.5%程度、タンパク質摂取量3g/kg/day付近からこれをやや上回る程度にすると良さそう。体重90kgの人だと、一日のカロリー不足量が400kcal程度でこの減量ペースになる(体重減少がほぼ体脂肪の場合)。



★他のコンテスト向け減量の研究
(2)A nutrition and conditioning intervention for natural bodybuilding contest preparation: case study
https://link.springer.com/article/10.1186/s12970-015-0083-x

この研究は、除脂肪体重の減少割合が体重減少分の4割程度と大きく、減量があまりうまく行かなかったと思われるケース。


- 後半の減量ペースが速すぎる。後半フェーズでカロリー不足1000kcal超えは過激なやり方で、除脂肪体重が減りやすいと思う。逆に前半のカロリー不足が小さい。
- 減量期間が14週間で、(1)の研究の約半分の期間のため、減量ペースを速くせざるを得なかったのかもしれない。減量スタート時点の体脂肪率は両者とも14%くらいで同程度。
- HIITでスプリントをやったりしていて、無駄に体力を消耗している。HIITをやるならエルゴメーターなどエキセントリックの負荷がかからず軌道が固定されているものが疲労の面でも怪我リスクの面でも望ましい。体力はなるべくレジスタンストレーニングに注ぎ込んで、筋肉にメカニカルテンションを与えて、筋肉を残すよう指示したほうが良いと思う。
- 脂質をあまり減らさず、炭水化物を減らしすぎている。筋肉を減らさないためには、脂質を減らして、炭水化物の摂取量を増やしたほうが良いだろう。タンパク質摂取量ももう少し増やしたほうが良いかもしれない。

最初の研究の被験者のほうがレベルの高いボディビルダーで、遺伝的にも恵まれている可能性があるけど、この研究の減量方法には改善点がある。


(3)Case Study: The Effect of 32 Weeks of Figure-Contest Preparation on a Self-Proclaimed Drug-Free Female’s Lean Body and Bone Mass
https://www.researchgate.net/publication/314201321_Case_Study_The_Effect_of_32_Weeks_of_Figure-Contest_Preparation_on_a_Self-Proclaimed_Drug-Free_Female%27s_Lean_Body_and_Bone_Mass

これは女性競技者が被験者の研究。記録は32週間だが、実質的に24週間で減量を行ったとのこと。平均すると週0.5%ペースで体重減少。体重は62.7 kgから55.0 kgへ減少で、除脂肪体重は減少なし(少し増えた)。タンパク質摂取量は、2.8-3.5g/kg/day。最後の10週は5日サイクルでマクロ栄養素バランスを変更し、3日が低炭水化物、2日が高炭水化物、高炭水化物の日のほうが摂取カロリーはやや多め。あとトレーニング前後に炭水化物を多めに摂取している。トレーニング量はかなり多い。(1)の研究の男性ボディビルダーに比べると、レジスタンストレーニングも有酸素運動もトレーニング時間が2倍以上になっている。男性に比べると身体が小さく摂取カロリーをこれ以上削れないので、トレーニングで消費カロリーを増やしてカロリー不足を作らないといけない。



★コンテスト後の回復
(4)Physiological, Psychological and Performance-Related Changes Following Physique Competition: A Case-Series
https://www.mdpi.com/2411-5142/5/2/27/htm

A previous case study describes a strategy popularized in natural bodybuilding known as reverse dieting, in which competitors attempt to minimize weight gain by gradually increasing caloric intake in small increments while continuing to perform aerobic exercise [3]. Three competitors (M2, F2, F4) increased caloric intake with minimal weight gain (△BW%: +2%, +5%, +5%) (Figure 2). RMR changes were minimal (△RMR%: 0%, −6%, +4%) and dry FFM decreased (−0.6kg, −1kg, −0.5kg) (Table 2). It appears that such minor increases in body weight (< 5%) were inadequate to elicit improvements in physiological outcomes. Competitors could potentially expedite recovery by increasing caloric intake and reducing aerobic exercise to facilitate a more substantial rate of weight gain in the weeks following competition.

フィジークコンテストに出場した6人の男女の被験者の回復期間を調べた研究。コンテスト出場後8週間で体重増加が5%以下だった被験者は、安静時代謝が回復せず乾燥除脂肪体重が減っていた。ボディビルやフィジークのコンテスト出場後に、なるべく体脂肪を増やさないようにと回復ペースを遅くすると、除脂肪体重が減りやすくなると考えられる。極度に低い体脂肪率では身体機能が回復せず、体脂肪が増えやすく筋肉が減りやすい状態が続く。極度に体脂肪率を低くした後は、摂取カロリーを増やし有酸素運動を減らし、男性は体脂肪率10%付近、女性は18-20%付近まで速やかに体脂肪率を戻して、筋肥大トレーニングを行ったほうが良いだろう。



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