https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5999142/
運動後のクールダウンの効果を調べた研究を集めてレビューした論文。クールダウンの種類にはいくつかあるけど、この論文では5-15分程度のジョギングなど軽い有酸素運動の効果をメインに調べている。
★運動パフォーマンス
クールダウンを行うと、運動パフォーマンスの回復は早まるのか?
・同日中の2回めの運動のパフォーマンス
一回目の運動後にクールダウンを行って、最低でも4時間は経ってからもう一度運動した時のパフォーマンスへの影響は、有意差は無いがわずかに無酸素運動のパフォーマンスが低下する傾向。軽い有酸素運動でグリコーゲンを消費してしまうからかも。
・翌日以降の運動パフォーマンス
瞬発力やアジリティにわずかな影響。ポジティブな影響もあれば、ネガティブな影響もあり。被験者の体力レベル、クールダウンで何をやったか、どの運動パフォーマンスを測定したのかによって、結果がばらつくと思われる。
★生理学的な効果
・乳酸塩の除去
クールダウンを行うことで、血中と筋肉中の乳酸塩の除去を早める効果がある。しかし乳酸塩が疲労を引き起こすわけではないので、乳酸塩の除去を早めても運動パフォーマンスの回復は早まらないだろう。何もせず休んでいても1,2時間で乳酸塩は除去される。ただ、乳酸塩レベルが高いと食欲が抑制される可能性があるので、運動直後に食事をする必要のある場合は、クールダウンをおこなうことで食欲を回復させやすくできるかもしれない。
・筋肉痛(DOMS)
ほとんどの研究が、クールダウンは筋肉痛に効果なしという結果になっている。ただ、高い体力レベルの被験者(アスリート)では、クールダウンで筋肉痛が緩和されたという研究がいくつかある。
・筋肉のダメージの指標(クレアチンキナーゼなど)
クールダウンでダメージの指標が低下した(筋肉のダメージ回復が早まった可能性)という結果の研究もあれば、効果なしという結果の研究もある。
・パワー・ストレングスの回復
多くの研究が有意差なしだが、クールダウンを行うとわずかに回復効果がある傾向。
・神経筋
クールダウンを行うと、有意差はないが反応速度の回復がわずかに早まる傾向がある。
・筋肉と腱の硬さと可動域
ハードなエキセントリック動作を繰り返したりすると、運動後に筋肉と腱が硬くなって可動域が低下するが、クールダウンにこれを緩和する効果は無し。
・筋グリコーゲンの再合成
軽い有酸素運動により血乳の増加やグルコース輸送体の発現が起こるので、理論上はクールダウンは筋グリコーゲンの再合成を促進する可能性がある。炭水化物を摂取しながらクールダウンを行うと筋グリコーゲンの再合成が促進されるか調べた研究では、短時間のクールダウンならクールダウンしてもただ休んでも筋グリコーゲンの再合成に有意差無し。長時間のクールダウン(長時間の低強度の有酸素運動)だと再合成が妨げられる。
・免疫機能の回復
高強度や長時間の運動後は、一時的に免疫機能が低下しやすい。クールダウンにこれを緩和する効果があるのか。クールダウンを行うと運動直後の白血球数の低下が抑制されたが、2時間後はただ休むのと有意差無しという研究がある。他に24時間後の免疫関連の指標を調べた2つの研究では、クールダウンとただ休むのとに有意差無し。
・呼吸・心臓血管
クールダウンを行うと運動後の呼吸数や心拍数の低下が早まる。理屈の上では、運動後の目眩や失神を防ぐ可能性があるので、そういった症状がある人はクールダウンをやったほうが良いかも。
・深部体温
ステーショナリーバイクでのクールダウンは、運動で上がった深部体温を速く低下させる効果は無し。外を走るなどして汗が速く蒸発する環境で深部体温の低下が早まるかは今後の研究待ち。
・アドレナリンやコルチゾールなどホルモンレベル
クールダウンを行うことで、運動中に上昇する各種ホルモンレベルが安静時のレベルに戻るのが早まるか? クールダウンを行うと、直後のホルモンレベルの低下は遅れるが、1,2時間もすればただ休むのと変わらない。
・気分、睡眠
客観的な指標ではメンタル的な回復や睡眠への効果はなさそうだが、被験者はクールダウンに対して好意的な評価をすることが多い。クールダウンでリラックスできたり、他の人と交流したり、その日の試合やトレーニングを振り返ったりできるといった点が評価されているようだ。ただ、体力レベルが低いと、クールダウンの有酸素運動が負担になって、翌日以降の主観的な回復度が低下する可能性。
★長期的なクールダウンの効果
・怪我の予防
トライアスロンやランニングの調査では、クールダウンの習慣は怪我リスクと相関なし(クールダウンをしても怪我リスクが下がるわけではない)。ダンス・エアロビクスのインストラクターの調査では、クールダウンの時間が5-10分間よりも15分間行っているグループのほうが怪我リスクが下がるという結果。
・適応
HIITへの適応をクールダウンは妨げないという研究がある。筋肥大やストレングスについては、クールダウンを長時間やりすぎなければ大丈夫だろう(長時間やったら普通の有酸素運動になるが)。体力レベルの低い人が、クールダウンにランニングを行ったりすると、15分程度でも「やりすぎ」になって筋トレの適応を妨げる可能性があるので、体力レベルが低く走り慣れていない人はステーショナリーバイクなどエキセントリックの負荷がかからない方法で行うか、クールダウンは行わなのが良いだろう。
★軽い有酸素運動以外の方法でクールダウンとしてよく行われるもの
・静的ストレッチ
筋肉痛を和らげたり、怪我リスクを下げたりはしない。
・フォームローラー
筋肉痛を和らげ、可動域を広げ、運動パフォーマンスを回復させる効果がありそう。筋肉の結合組織(筋膜)に好影響しているようだが、筋繊維のダメージがわずかに増えている可能性がある(ただこのダメージが筋肉の適応に良いことなのか悪いことなのかは不明)。研究ではトレーニング後にフォームローラーを20分やっているのでやりすぎなのかもしれない。腿の中央・横・前・裏と尻の5箇所を両脚、1箇所あたり60秒を2セット。(トレーニング内容はスクワット10レップ×10セット)
◆コメント◆
運動後失神の症状がある人は、軽い有酸素運動のクールダウンをやったほうが良いかもしれない。その他の人は軽い有酸素運動のクールダウンはやってもやらなくても、僅かな差しか無いだろう。もしやるならステーショナリーバイクやエリプティカルトレーナーや水泳など、エキセントリックの負荷がかからない方法で、疲れない強度で行うと良い。時間があまり無い場合は、クールダウンをやらずにさっさとトレーニング終了にしても問題ないだろう。フォームローラーが筋トレとの相性が良さそうなので、筋トレ後に酷使した筋肉を短時間軽くほぐす感じでやると良いかもしれない。
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