12/16/2022

レジスタンストレーニングの頻度による筋力への影響を調べた研究

メタアナリシスで、頻度を上げると筋力も伸びやすくなるかを調べています。分析対象の研究の数は22で、そのうちトレーニング歴ありの被験者を対象とした研究は3つです。

Effect of Resistance Training Frequency on Gains in Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis
https://www.researchgate.net/publication/323348254_Effect_of_Resistance_Training_Frequency_on_Gains_in_Muscular_Strength_A_Systematic_Review_and_Meta-Analysis

 

レジスタンストレーニングによる筋力向上の要素には大きく以下の3つがあって、

<筋肥大>
筋肉が太くなった。

<神経系の適応>
神経-筋肉が強い力を出すのが上手くなった。

<スキル向上>
フォームが良くなった。複数の筋肉を協調させて強い力を発揮するのが上手くなった。


アームカールやレッグエクステンションといった単関節種目だと、スキル向上の影響は小さくて、筋肥大と神経系の適応がメインになります。

スクワットやベンチプレスといった複合関節種目だと、スキル向上の影響が大きくなってきます。



メタアナリシスの結果

<データ全体>

高頻度になるほど効果が高まります。頻度が高まると、ボリュームも増えるので、それで効果が高まっている面が大きいです。解析対象の多くの研究が、部位当たり1回1-3セットなので、この程度のボリュームだと頻度を上げたほうが伸びやすいです。以下のグラフは全て、頻度と効果量(effect size)のグラフで、効果量の数字が大きいほど効果が高いことを意味します。


<ボリュームを揃えた場合>

ボリュームを揃えると、「高頻度=高い効果」の関係が崩れます。


<複合関節種目>

複合関節種目は頻度が高いほど、効果がどんどん高まります。特にフリーウェイトの複合関節種目はスキルの影響が大きいので、高頻度で繰り返しトレーニングしたほうが伸びやすいです。


<単関節種目>

単関節種目だと頻度を上げても効果は高まりにくいようです。頻度が高まると効果が高まるかの分析は、p=0.324で有意差無しです。



<上半身の筋力>

上半身の筋力は高頻度だと効果が高まりやすいという結果になっています。上半身は普段の生活で強い力を発揮する機会があまりないので、レジスタンストレーニングで伸びやすいのかもしれません。それとこのメタアナリシスでは、上半身種目はスキル向上の効果が出やすい複合関節種目の割合が高めなのも影響していると思われます。研究一覧から、分析対象の各研究の測定種目を見てみると、

上半身の筋力測定種目
ベンチプレス 10
チェストプレス 8
ひじ屈曲 9
ショルダープレス 3
ひじ伸展 2
ラットプルダウン 2
座ってのディップス動作 1
サイドレイズ 1
チェストフライ 1
バックエクステンション 1



<下半身の筋力>

下半身の筋力は頻度を上げても効果が高まりにくいようです。頻度が高まると効果が高まるかの分析は、p=0.070で有意差無しです。スキル向上の効果が出にくい種目の割合が高いのも影響していると思います。

下半身の筋力測定種目
レッグプレス 10
レッグエクステンション 9
スクワット 4
レッグカール 3
ハックスクワット 1



<限界までやるかどうか>

限界までやったほうも、やってないほうも、トレンドは出ていますが、頻度と効果の関係性に有意差無しになっています(p=0.078と0.160)。



<年齢による違い>

中高年は頻度を上げても効果が高まりにくいです(p=0.093で有意差なし)。年をとると回復力と適応力が低下するので、高頻度・高ボリュームのトレーニングにしても伸びにくいのでしょう。

若い人は頻度を上げると効果が高まりやすいです(p=0.024で有意差あり)。若いと回復力も適応力もあるので、やればやるほど伸びやすいのでしょう。


<トレーニング歴の有無>

分析対象の22の研究のうち、トレーニング歴のある被験者の研究は3つ含まれています。いずれも頻度は週1回か週3回で、ボリュームは揃えてあります。結果は、頻度が週1回でも週3回でも、おおむね効果は同じになっています。



トレーニング頻度の一般論

筋肥大、神経系の適応、スキル向上のそれぞれについて書いていきます。


<筋肥大>

筋肥大面では、「週ベースで見て適切なボリュームを積むこと」が最優先です。部位当たりの頻度が週1回よりも、週2回や週3回のほうが、一般的にはボリュームを確保しやすいので、筋肥大に向いています。週ベースのトータルボリュームが増えてくると、週1回でまとめてやるのは、かなりの精神力と体力が必要になります。


1回あたりのトレーニングボリュームを考えると、「筋肥大のトリガーになる最低限のボリューム」があるかもしれないので、頻度を高くしすぎると、1回あたりのボリュームが少なすぎて、さらなる筋肥大が起きにくいかもしれません。たとえば、極端な例で部位当たり1日2セットを週7日だと、週ベースで14セットで、中級者向けに十分なボリュームになりますが、1日2セットで中級者が筋肥大するのかな?という感覚的な疑問があります(そういう研究はないと思いますが)。

ハイレベルのボディビルダーが5分割して部位あたり週1回程度のトレーニングをやることがあるのも(いわゆるBro Split)、彼らの場合は筋肥大のトリガーになる最低限のボリュームが相当高くなっているので、1回にまとめて刺激をいれないと、さらなる筋肥大が起きないのかもしれません。Bro Splitはステロイドユーザー向けのもの、という記述も見受けられますが、JBBFのトップ選手もやってます。

初心者や中級者は、部位当たり週1回よりも、週2、3回のほうが良いと断言できますが、トップレベルのボディビルダーもそれが良いかはちょっとわかりません。現実として、鈴木雅氏、横川尚隆選手、相澤隼人選手も、5,6分割したメニューで頂点に立っていますから。


<神経系の適応>

神経系の適応については、おそらく頻度はあまり関係ないです。ボリュームが同じなら、週1回でも週3回でも同じような効果でしょう。トータルボリュームを揃えると、頻度と筋力の伸びに相関がなくなります。

このメタアナリシスに入っていない2022年の研究でも、トータルボリュームが同じ場合は、週1回も週3回も同じくらい筋肥大して、同じくらい筋力が伸びたという結果になっています(片脚レッグプレスなのでスキルの要素は小さい)。トータルボリュームが違う場合は、ボリュームが多い週3回のほうが筋肥大して、筋力が伸びた傾向がありました(有意差なしだが、効果量は差がついている)。

Effect of different training frequencies on maximal strength performance and muscle hypertrophy in trained individuals—a within-subject design
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0276154

トータルボリュームの筋肥大への効果と、神経系の適応への効果の切り分けは難しいのですが、おそらく神経系の適応も、ある程度はボリューム依存です。1セット×3レップ@85%1RMを週1回と、5セット×3レップ@85%1RMを週1回だと、おそらく5セットのほうが効果は高いでしょう。でもボリュームを増やすために、15セット×3レップ@85%1RMを週1回や、5セット×3レップ@85%1RMを週3回といったトレーニングをすると、仮に神経系の適応に高い効果があっても、疲労が大きすぎてパフォーマンスは低下します。従って、筋肥大目的のトレーニングみたいにトータルボリュームを増やすために頻度を上げる方法は、神経系の適応のトレーニングには向いていないでしょう。

実践を考えると、若い人のフリーウェイトのトレーニングで、神経系の適応を目的とした高強度トレーニングは、種目あたり週1回か週2回が無難なトレーニング方法です。

ほかには高齢者のフレイル対策のトレーニングといったことを考えると、筋力を伸ばせればいいので、週1回の頻度でも十分に効果があると考えられます。運動自体は高頻度でしたほうが健康にはいいので、何かしらこまめに身体を動かしたほうがいいとは思いますが、筋力アップ目的の強度の高いレジスタンストレーニングは、高頻度でやらなくてもOKでしょう。今回のメタアナリシスの結果からも、高齢者は高頻度(≒高ボリューム)でも効果が伸びにくく、頻度を上げてボリュームを増やすメリットもあまりなさそうです。高齢者の初心者だと60-70%1RM程度の強度で、筋肥大にも神経系の適応にも十分なので、10レップ程度のセットを2-3セット、週1回行えば十分な効果が得られるでしょう。


<スキル向上>

スキル向上のためには、頻度は高いほうが良いです。大抵のことは、繰り返し練習したほうが上手くなります。技術的に難しい種目になるほど、頻度を上げたほうが効果が高くなります。

ウェイトリフティングは技術的に難しいので、基本的に高頻度で練習します。パワーリフティングだと、一般的な頻度は、ベンチプレス>スクワット>デッドリフトで、技術面の難しさ順になっています(それに加えて、回復のしやすしさも頻度に影響しています。ベンチプレスは回復しやすく、デッドリフトは回復が遅い)

技術的に難しい種目の場合は、スキル練習と、筋力トレーニングとを明確に分けたほうが効果的でしょう。強度の低いスキル練習は疲労が小さいので高頻度でOKですが、強度の高い筋力トレーニングは疲労が大きいので高頻度では行わないようにします。

BIG3も、スキルに伸びしろがある状態なら、強度と追い込み度が高めのメインセット以外に、スキル練習のセットを入れると伸びやすくなるでしょう。

例えばBIG3のスキル練習を考えると、初心者だと30-50%1RMでのフォーム練習をすると良いでしょう。中上級者は、重量が上がってきた場合の精度を上げたいので、70%1RM付近で5レップ以下のテンポやポーズド、80%1RM付近での1レップのセットなどが考えられます。

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