1/04/2023

上腕三頭筋の筋肥大効果を調べた研究(オーバーヘッドvsプッシュダウン)

Triceps brachii hypertrophy is substantially greater after elbow extension training performed in the overhead versus neutral arm position
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/17461391.2022.2100279



ケーブルマシンを使っての上腕三頭筋のトレーニングで、オーバーヘッドでのトライセップスエクステンションと、プッシュダウンでのトライセップスエクステンションでは、どちらが筋肥大効果が高いかを、上腕三頭筋長頭、内側頭、外側頭それぞれについて調べた研究です。

上腕三頭筋は長頭、内側頭、外側頭で構成されます。長頭は、肘と肩関節にまたがる二関節筋です。内側頭と外側頭は、肘関節のみの単関節です。

この研究は、被験者の左右の腕をランダムに各グループに振り分けているので、筋肥大の個人差の影響がないです。例えば、被験者Aは、右腕をオーバーヘッドでトライセップスエクステンション、左腕をプッシュダウンといったように振り分けています。

期間は12週間、被験者21名(各グループが21本の腕)、筋肉量の測定はMRIで行っています。筋肥大研究としての研究の質が高く、結果の信頼性が高いです。

被験者は、14名の男性、7名の女性、平均年齢は20代前半、少なくとも過去1年間はトレーニング歴なし。

一般的な上腕三頭筋の筋トレ方法と少し違うのは、肩の外転を防ぐために手首を回外した状態(アームカールと同じ握り)でトライセップスエクステンションしていることです。

 



結果は、長頭がストレッチされた状態で負荷をかけられるオーバーヘッドのトライセップスエクステンションのほうが、長頭の筋肥大効果が高かったです。面白いのは、肘関節の単関節筋で、オーバーヘッドでもプッシュダウンでも可動域と筋肉の長さが同じはずの内側頭と外側頭も、オーバーヘッドのほうが筋肥大効果が高かったことです。



トレーニング重量はオーバーヘッドのほうが低いです。トレーニングの%1RM(強度)、レップ数、セット数は同じ。下図はオーバーヘッドとプッシュダウン(Neutral-Arm)のトレーニング重量の推移です。





上腕三頭筋長頭の筋肥大について

「上腕三頭筋長頭は二関節筋なので、肩を屈曲して長頭がストレッチされた状態にして負荷をかけたほうが効く」という筋トレ界隈で言われていることが確かめられました。

それと、最近の研究で示唆される「筋肉が短い状態でのトレーニングよりも、ある程度筋肉がストレッチされた状態でのトレーニングのほうが筋肥大しやすい」というモデルの補強にもなります

関連記事:パーシャルとフルレンジの筋肥大効果の比較

上の記事での私の考察では、「ある程度伸ばされた状態の筋肉の方が強い力を発揮できるので筋肥大に効果的」と書きました。筋肥大のファクターとして、筋肉にかかる力学的な張力(メカニカルテンション)を最優先で考えていました。

実際、膝の伸展動作でも、シーテッドレッグカールとプローン(うつ伏せ)レッグカールの比較でも、ある程度筋肉が伸ばされた状態=強い力を出せる筋肉の長さ、となっていて、その範囲のでトレーニングが筋肥大に効果的となっていました。ニーエクステンションだと最大トルクを出せるのは膝屈曲60-80°程度で、その動作範囲をカバーするトレーニングが筋肥大効果が高かったです。レッグカールだと、ハムストリングスの二関節筋が伸ばされるシーテッドレッグカールのほうが、二関節筋が縮んで力を入れにくいプローンレッグカールよりも筋肥大効果が高かったです。

今回の研究だと、オーバーヘッドだと上腕三頭筋長頭がかなりストレッチされるため力を発揮しにくく、扱える重量が下がるので、筋肉にかかるテンションが低下しているはずですが、長頭の筋肥大効果は高くなっています。

この研究を踏まえ、筋肥大について私の考えるモデルを、「筋肥大には筋肉にかかる力学的な張力が重要だが、筋肉が伸ばされた状態で負荷をかけることも重要。ある程度は筋肉にかかる張力が下がっても、筋肉が伸ばされていれば筋肥大効果は高くなる」というものに修正します。

筋肉を細かく考えると、筋肉が伸ばされていくとアクチンとミオシンの重なり合う部分が少なくなっていきます。その場合、筋繊維全体にかかる力が小さくなっても、アクチンとミオシンの結合部1つあたりにかかる力は大きいままで、筋肥大のスイッチが入りやすいのかもしれません。

動画:5. Details of Actin-Myosin Crosslinking
https://www.youtube.com/watch?v=zQocsLRm7_A


おそらく筋肉が伸ばされ過ぎると全然力が入らなくなり、筋肥大効果が低下していくと思われます。伸ばせば伸ばすほどよいというわけではないでしょう。どのくらい伸ばすと効果が低下するのか興味深いですが、多くの動作は筋肉が伸ばされ過ぎた状態は関節にとって危険な状態なので、怪我リスクを考えると実用性はあまり無いと思います。例えば、ダンベルフライで限界まで下ろして大胸筋を出来るだけストレッチさせようとすると肩の怪我リスクが高いです。他には、大腿四頭筋が出来るだけ伸ばされた状態で負荷をかけようとすると、悪名高いうさぎ跳びになります。



上腕三頭筋外側頭と内側頭の筋肥大について

この論文で面白いのは、肘関節の単関節筋で可動域も筋肉の長さも同じはずの内側頭と外側頭も、オーバーヘッドのほうが筋肥大効果が高かったことです。


これについては論文だと2つの仮説が書かれていて、

・オーバーヘッドでは長頭の発揮できる力が下がる分、それを埋め合わせるために内側頭と外側頭が頑張った。

・オーバーヘッドだと腕に流れる血流が減るため、代謝ストレスが高まり、筋肥大効果が高くなった。

頑張った説は、可能性が低いかなと個人的には思います。同じ関節を担当する筋肉でも、低強度だとサボる筋肉と頑張る筋肉があったりするのだけど、1RM付近に強度を上げるか限界レップまでやるかすれば、全部の筋肉がその角度で発揮できる全力を出します。今回の研究は全セットほぼ限界までやってるので、オーバーヘッドでもプッシュダウンでも、それぞれの筋肉の頑張りは同じでしょう。

同じグループの他の研究で、シーテッドレッグカールとプローンレッグカールの筋肥大効果を比べたものがあって、ハムストリングスの二関節筋はシーテッドレッグカールのほうが肥大したけど、単関節筋(大腿二頭筋短頭)は差がなかったという結果になっています。もし他の筋肉が頑張る理論が正しいなら、二関節筋が短縮されて力が発揮しにくくなるプローンレッグカールでは単関節筋が頑張って、単関節筋がより筋肥大するはずですが、研究ではそうなっていません。
 
Stronger by Scienceの記事で、Greg Nuckolsはもう一つの仮説を出していて、

・上腕三頭筋は肱側で一つの腱に合流しているため、オーバーヘッドでは長頭に引っ張られて、内側頭と外側頭もすこし伸ばされた状態でトレーニングされたため効果がアップした。

という説も提案しています。ただ彼の結論としては、血流減少説を支持しています。


私の仮説を書くと、

・オーバーヘッドだと、肘を曲げた状態では、ケーブルのテンションに加えて「前腕、手、ケーブル、アタッチメント」の重さも上腕三頭筋で支える。これにより、外側頭と内側頭が伸ばされたときに負荷がかかりやすいため、筋肥大効果が高くなった。

です。

オーバーヘッドだと、肘を曲げた状態では、ケーブルのテンションに加えて「前腕、手、ケーブル、アタッチメント」の重さも上腕三頭筋で支えるので、筋肉が伸ばされたときに負荷がしっかりかかります。被験者は女性含む初心者で、オーバーヘッドのトレーニング重量は5kgくらいなので、「前腕、手、ケーブル、アタッチメント」で追加される重さも十分な負荷になりそうです。「前腕+手」は体重の3-4%の重さがあるようなので、被験者の体重からすると2.0-2.5kgになります。前腕と手の重心は肘から手の間の中心くらいで、肘角度90°の状態では、肘にかかるトルクは、「ケーブルマシンの負荷×前腕と手の長さ」+「前腕と手の重さ×前腕と手の長さ/2」+「ケーブルとアタッチメントの重さ×前腕と手の長さ」。何が言いたいかというと、ケーブルマシンの負荷に、前腕+手の重さがそのまま加わるのではなくて、トルクとしては前腕+手の重さの半分くらいがケーブルマシンの負荷に上乗せされます。

プッシュダウンは、肘を90°に曲げた状態だと、ケーブルの引っ張る力(上方向の力)を、「前腕、手、ケーブル、アタッチメント」の重さ(下方向の力)がある程度相殺してしまい、上腕三頭筋にかかる負荷が低下します。肘角度90°くらいは内側頭と外側頭が伸ばされていて、せっかく筋肥大に効果的な筋肉の長さになっていると思われますが、プッシュダウンだとそこで負荷が抜けやすくなっています。



オーバーヘッドだと内側頭と外側頭が伸ばされた状態で大きな負荷がかかるので筋肥大しやすく、プッシュダウンだと肘を曲げた状態(内側頭と外側頭が伸ばされた状態)で負荷が抜けやすく、肘を伸ばしたときに負荷がかかりやすいため、筋肥大効果が低くなったというのが私の仮説です。



日本は加圧トレ文化があるためか、血流減少への評価が高いのですが(今回の上腕三頭筋の論文も日本の研究グループのものです)、個人的には血流減少説には懐疑的です。筋肥大には、力学的なストレスが最も重要で、代謝ストレスメインにして力学的なストレスを減らしても効果がアップするとは考えにくいです。それに現実世界ではトップレベルのボディビルダーが加圧トレなどをやっていないです。

BFR(血流制限トレーニング)についての最近のメタアナリシスでも、強度高めの普通の筋トレのほうが低強度BFRよりも筋肥大効果が高いとなっています。

Effects of Blood Flow Restriction Therapy for Muscular Strength, Hypertrophy, and Endurance in Healthy and Special Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis
https://journals.lww.com/cjsportsmed/Fulltext/2022/09000/Effects_of_Blood_Flow_Restriction_Therapy_for.14.aspx

そもそも、腕を上げる程度の血流減少で、それほど大きな効果が出るのか?という疑問もあります。



上腕三頭筋の筋肥大トレはオーバーヘッドがベストか

プッシュダウンも実際のトレーニングでは、研究のように棒立ちではやらず、上半身を少し傾けて負荷をかけやすいようにやるので、ちゃんとやれば筋肥大効果は高いと思います。

動画:How To Get Bigger Triceps (3 Training Mistakes You’re Probably Making)
https://www.youtube.com/watch?v=3jxrjl4B8-U


ただ、上腕三頭筋を太くすることを目的として一種目だけやるなら、オーバーヘッドのほうが良いかなと思います。やはりオーバーヘッドのほうが長頭に強い刺激が入る感じがします。ケーブルでもフリーウェイトでも良いですが、なるべく肘に負担がかからない方法でやると良いでしょう。

動画:【横川尚隆3】上腕三頭筋が一番デカくなる種目&ポイント徹底解説です。
https://www.youtube.com/watch?v=k3w5EP0iCEk

フレンチプレス型の負荷のかけかたでも良いと思いますが、ケーブルマシンだと下のようなやり方もできます。肩周りの柔軟性があまり無い人はこっちのほうがやりやすいと思います。

動画:Overhead Cable Tricep Extension
https://www.youtube.com/watch?v=ns-RGsbzqok

余裕があるなら、オーバーヘッドとプッシュダウンの両方をやると良いでしょう。負荷のかかりかたが違うので、オーバーヘッドとプッシュダウンはお互い補い合う効果があるかもしれません。プッシュダウンは、肘を伸ばしきったあたりでの負荷が強く、そのときに使われる筋肉に効果が高い可能性があります(体感的にはベンチプレス+プッシュダウンを高ボリュームでやると外側頭が攣りそうになることがあります)。またベンチプレスの補助種目としては、プッシュダウンのほうがキャリーオーバー(ベンチプレスを伸ばす効果)が高い可能性があります。

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