サルコペニアなど筋肉が病的に弱っている高齢者は、ビタミンD摂取により体内ビタミンDレベルを改善することで、筋力がある程度戻ることがいくつかの研究で示されている。
ビタミンDが筋肉・筋力に影響を及ぼす仕組みは現時点では明確になっていない。ビタミンDが筋肉のタンパク質合成に関わったり、カルシウムイオンの調整に関わったりといったメカニズムが推測されている。
こうした背景から、若いアスリートにビタミンDを投与することで、運動パフォーマンスの改善が見込めるのではないか?というエルゴジェニック視点での研究がいくつか行われている。今回はそれを見ていきたい。
★ビタミンDサプリメントをアスリートが摂取したRCT研究
下のほうに「★まとめ」があるので、個別研究は読み飛ばしても大丈夫です。
(1)Acute Effects of Vitamin D3 Supplementation on Muscle Strength in Judoka Athletes: A Randomized Placebo-Controlled, Double-Blind Trial.
https://wlv.openrepository.com/bitstream/handle/2436/608837/Acute%20effects%20of%20Vit%20D%20on%20muscle%20function%20in%20judokas.pdf;jsessionid=01C07C8293F095F75C497313FDE54BFA?sequence=2
・被験者
柔道選手
・ビタミンD摂取方法
1日目 筋力テストしてすぐ多量のビタミンDを摂取(15万IU)
8日目 再び筋力テスト
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
13.16ng/ml→16.76ng/ml
※被験者ごとのビタミンDレベルの推移を見るとこの平均値はおかしい気がする。グループの人数ではなく、全体の人数で合計を割って平均を出しちゃってる感じがするが、まさかそんなことは・・・
・運動パフォーマンス測定
大腿四頭筋とハムストリングスの筋力(膝の伸展と屈曲の最大筋力を測定)
ビタミンD群は平均で13%上昇
プラシーボ群は平均で3%上昇
(2)Correcting Vitamin D Insufficiency Improves Some But Not All Aspects of Physical Performance During Winter Training in Taekwondo Athletes.
https://www.researchgate.net/publication/324928086_Correcting_Vitamin_D_Insufficiency_Improves_Some_But_Not_All_Aspects_of_Physical_Performance_During_Winter_Training_in_Taekwondo_Athletes
・被験者
テコンドー選手
・ビタミンD摂取方法
毎日5000IUを4週間
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
10.9ng/ml→38.4ng/ml
・運動パフォーマンス測定
無酸素ピークパワー(Wingate anaerobic test全力自転車マシン漕ぎ)と膝の伸展のストレングス向上については、ビタミンD群とプラシーボ群で有意差あり。筋持久力、垂直跳び、敏捷性、シャトルランは有意差なし。
・怪我
メインの研究目的ではないが、プラシーボ群のほうが怪我する選手が多かった。
(3)The effects of vitamin D3 supplementation on serum total 25[OH]D concentration and physical performance: A randomised dose-response study
https://www.researchgate.net/publication/235628143_The_effects_of_vitamin_D3_supplementation_on_serum_total_25OHD_concentration_and_physical_performance_A_randomised_dose-response_study
・被験者
ラグビーやサッカーなど
・ビタミンD摂取方法
週あたり20000IU、40000IU、プラシーボの3グループ。12週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
20ng/ml→34ng/ml(週あたり20000IU)
20ng/ml→36ng/ml(週あたり40000IU)
・運動パフォーマンス測定
ベンチプレス1RM、レッグプレス1RM、垂直跳び、20m走いずれもビタミンD摂取による効果なし。
(4)Assessment of vitamin D concentration in non-supplemented professional athletes and healthy adults during the winter months in the UK: Implications for skeletal muscle function
https://static1.squarespace.com/static/59321fad9de4bb81bdceb3b6/t/593cb0a5e3df286fa0f55995/1497149606409/Assessment+of+vitamin+D+concentration+in+non-supplemented+professional+athletes+and+healthy+adults+during+the+winter+months+in+the+UK-+implications+for+skeletal+muscle+function.pdf
・被験者
ラグビー、サッカー、騎手の選手。
・ビタミンD摂取方法
毎日5000IUを8週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
12ng/ml→42ng/ml
・運動パフォーマンス測定
10m走と垂直跳びが向上。ベンチプレス1RMとスクワット1RMは有意差無し(向上の傾向はあり)。
(5)Vitamin D Supplementation and Physical Activity of Young Soccer Players during High-Intensity Training
https://www.mdpi.com/2072-6643/11/2/349/htm
・被験者
サッカー選手
・ビタミンD摂取方法
毎日5000IUを8週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
19ng/ml→43ng/ml
・運動パフォーマンス測定
スプリント能力とジャンプ力を測定。プラシーボ群とビタミンD群で有意差なし。
(6)Vitamin D Supplementation and Physical Performance in Adolescent Swimmers
https://www.researchgate.net/publication/265516194_Vitamin_D_Supplementation_and_Physical_Performance_in_Adolescent_Swimmers
・被験者
水泳選手
・ビタミンD摂取方法
毎日2000IUを12週間。
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
20ng/ml→30ng/ml
・運動パフォーマンス測定
スイムのタイム、握力、片足立ちの時間、いずれもプラシーボ群とビタミンD群で有意差なし。
(7)The influence of winter vitamin D supplementation on muscle function and injury occurrence in elite ballet dancers: A controlled study
https://www.researchgate.net/publication/236338298_The_influence_of_winter_vitamin_D_supplementation_on_muscle_function_and_injury_occurrence_in_elite_ballet_dancers_A_controlled_study
・被験者
プロのバレエダンサー
・ビタミンD摂取方法
毎日2000IUを4ヶ月
・ビタミンD群の血清ビタミンD濃度変化
ビタミンDレベルは測定していないようだ。実験は冬に行われ、室内での長時間の練習が多い職業なのでスタート時のビタミンDレベルは低いと思われる。
・運動パフォーマンス測定
アイソメトリックでのストレングス(膝の伸展)と垂直跳びで、いずれもビタミンD群が向上。ストレングスは+18.7%、垂直跳びは+7.1%。
・怪我
怪我率はビタミンD群のほうが低かった。ビタミンD群0.55/1000h、コントロール群1.87/1000h
★怪我リスク
(8)Stress Fractures in the Israeli Defense Forces From 1995 to 1996
https://journals.lww.com/clinorthop/Fulltext/2000/04000/Stress_Fractures_in_the_Israeli_Defense_Forces.27.aspx
(9)Association between serum 25(OH)D concentrations and bone stress fractures in Finnish young men.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16939407
兵士対象の研究では、骨折リスクとビタミンDレベルの低さが相関している。骨折は頻繁に起こるものではないので、アスリート対象の研究だとサンプル数と調査期間の問題から有意差が出にくいと思う。
(10)The Association of Vitamin D Status in Lower Extremity Muscle Strains and Core Muscle Injuries at the National Football League Combine.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29275983
NFLコンバインの選手のデータから、怪我歴とビタミンDの関係を分析した研究。脚の筋肉の肉離れや体幹の筋肉の怪我リスクが、ビタミンDレベルの低さと相関していた。
★まとめ
単関節のストレングス向上はビタミンD摂取の効果ありとなった研究が多い。ジャンプ力はいくつかの研究で効果ありとなっている。ベンチプレスやスクワットなど複合関節種目でのストレングス向上は効果があまり期待できないようだ。
若いアスリートはビタミンD摂取により、部分的にストレングスとパワーが改善するかもしれない。欠乏レベルにある場合は、一日5000IUを2ヶ月くらい続けたい。日光に当たってもビタミンDが生成されるけど、日光に当たりすぎると皮膚がんなどの健康リスクが出てくるので、サプリメントで補うのが良いと思う。
怪我の予防については、結構期待できそうな感じがする。骨折と筋肉の怪我の予防に貢献する可能性がある。骨は単に強くすることで骨折予防だろうけど、肉離れなどはメカニズムがよくわからない。
★ビタミンD研究の注意点
アスリートにビタミンDを投与する研究の問題点は、
・被験者数が少ない
・初期ビタミンDレベルと、サプリメント摂取後のビタミンDレベルがばらばら。
・ビタミンDが運動パフォーマンスに影響を及ぼすメカニズムと、運動パフォーマンスにとって望ましいビタミンDレベルがはっきりしない。欠乏状態(だいたい20ng/ml以下)を改善することで、運動パフォーマンス向上が期待できるのか? それとも健康維持に十分なレベル(だいたい30-40ng/ml)よりさらに高いビタミンDレベルにすると、神経-筋肉が最大のパフォーマンスを発揮するようになるのか?
★ビタミンDが不足しやすい競技・季節
日焼け止めを塗らず肌を多く露出して、低緯度地域、夏、昼間の日差しに多く当たると、ビタミンDが多く生成される。高緯度地域、冬、朝夕の日差しはビタミンDを生成しにくい。
屋内競技はビタミンDが不足しやすい。屋外競技でも、高緯度の冬場、曇りの多い地域(例えば日本だと冬の日本海側)だとビタミンDが不足しやすい。
それと階級制競技はビタミンDが不足しやすい傾向があるようだ。
★タンニングマシンはビタミンD生成に効果的か
ビタミンD生成に必要なのはUVBなので、UVBが少ない種類のマシンだとあまりビタミンDが生成されないだろう。
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