1/14/2024

マッサージガンの効果を調べた研究


マッサージガンは筋トレに役立つのか、システマティックレビューを読んで考察していきます。

今回見ていくのはこちらの2023年の研究です。マッサージガンの、運動パフォーマンスと回復への効果について調べています。

(1)The Effects of Massage Guns on Performance and Recovery: A Systematic Review
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10532323/




運動パフォーマンス

マッサージガンの施術後に運動パフォーマンス測定をした研究がいくつかあります。 

・振動数40hzを2分実施で可動域が拡大したという研究がある。可動域拡大には確実な効果がある模様。

・全体的に見て、運動前にマッサージガンを使っても筋力アップには効果なし。

・ジャンプ力向上にも効果なし。振動数20hz1分間をアキレス腱に当ててジャンプの高さが低下した研究もある。

・ドロップジャンプでの反応が向上したという研究が一つある(これは筋肉に当てている)。

・アジリティやバランス能力には効果なし。

まとめると、運動前にマッサージガンを使うのは、柔軟性を高めて可動域を広げるのには明確に効果があるが、それ以外の運動パフォーマンスにははっきりした効果がなさそうです。


回復

マッサージが運動後の回復を早めるかについて調べた研究には大きく2通りあります。

①疲労タスク→マッサージガン→すぐまた疲労タスクをやってその疲労タスクの疲労感やパフォーマンスを測定

②疲労タスク→マッサージガン→翌日以降の筋肉の疲労度を測定

多くの人が興味があるのは②でしょう。

①については、疲労タスク→マッサージガンで、2回目の疲労タスクの疲労感が低下するようです。この用途で用いる場合、30Hz付近の低めの振動数が効果がありそうです。

②の翌日以降の筋肉の回復度合いを測定した研究では、ふくらはぎの筋肉を筋トレで疲労させてすぐに、回復施術(マッサージ、振動プレート、マッサージガン、フォームローラー)を片脚のみに実施、もう片方のふくらはぎは比較対象群として何もせず、というものがあります。筋トレ直後、施術直後、24時間後、48時間後に筋肉のコンディションを測定しています。実用面で参考になりそうなのはこの研究くらいしかないので、この研究を詳しく見ていきます。

(2)Comparison of Interventional Strategies to Improve Recovery after Eccentric Exercise-Induced Muscle Fatigue
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7828692/


筋肉のコンディション測定には、TENSIOMYOGRAPHYという測定機器を使っています。電気刺激を筋肉に与えて、収縮速度や筋肉の膨張度合いを測定するものみたいです。

適切な例えかわかりませんが、大胸筋をピクピクさせるとき、疲れてない大胸筋は素早く大きくピクピクするけど、筋トレで疲労させた大胸筋はあまりピクピクしなくなるので、その違いから疲労度を測る感じですかね?


4種類の施術をしていて、それぞれの施術のパラメータ設定は、
・マッサージ(人力)は15分実施
・振動プレートは40Hzを1分間(振動している台にふくらはぎを乗せる)
・マッサージガンは29Hz(ストローク16mm)を2分間
・フォームローラーは30秒×2セット

結果は、マッサージ、振動プレート、マッサージガン、フォームローラーはそれぞれ回復効果がありました。4種類とも施術直後に、収縮速度や筋肉の膨張度合いは筋トレ実施前の数値に戻っています。何も施術をしなかった比較対象群のふくらはぎの数値は、振動プレート以外の3種類については24時間以降も戻っていません。振動プレートはなぜか何もしなかったほうの脚の数値も施術直後に戻っています。TENSIOMYOGRAPHYで測定している数値が、実際のパフォーマンスにどこまで影響があるのかは不明ですが、施術の有無で筋肉のコンディションには明確な違いがあるようです。

この研究だと、マッサージとマッサージガンが、振動プレートとフォームローラーよりやや良いという結果で、マッサージのコスト(時間・労力・お金)を考えると、マッサージガンがいいですねという結論です。



マッサージガンによる回復効果の想定メカニズム

マッサージガンによる回復の想定メカニズムには、以下の3つが挙げられています。

・振動で神経性の筋肉の緊張を和らげる。振動数が高すぎると逆に筋肉が緊張する可能性がある。鍛えられたアスリートの筋肉は高めの振動数の方が良いかも。

・組織にストレスを加えることで血流がアップする。振動数が低すぎると血流アップしないため、振動数は高いほうが良い。30Hzだと低いようだ。40-50Hzが良さそう。

・物理的にもみほぐすことで筋肉や筋膜を柔らかくする。傷ついた組織を壊したり動かしたりすることで再生を促す。振動数は高めのほうが良いかも。健康な人の筋膜の厚さは振動数30Hzだと変わらなかったという研究がある。



フォームローラーの研究も見てみよう

マッサージガンとフォームローラーは、物理的に筋肉・筋膜をもみほぐすという点で効果は近いと考えられるので、フォームローラーによる運動パフォーマンスと回復への効果も参考までに見てみます。フォームローラーはフィットネス業界に普及してから時間が経っているため研究も豊富にあります。

(3)A Meta-Analysis of the Effects of Foam Rolling on Performance and Recovery
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6465761/

フォームローラーの効果を調べたメタアナリシスだと、運動直後にフォームローラーで筋肉をほぐしても、24時間後以降の筋力回復には効果がなさそうです。スプリントには効果があるので、爆発的な動きを要求される場合はパフォーマンス回復に効果がありそうです。フォームローラーは筋肉痛の緩和には明確に効果があるため、痛みがあまり気にならなくなり走りやすくなるのかもしれません。



マッサージガンの回復効果

マッサージガンとフォームローラーは、回復を促すメカニズムが近いと考えられるので、マッサージガンも翌日以降の筋力回復はあまり期待できないと思います。(疲労タスク→マッサージガンで、翌日以降に筋力測定をした研究は見つかりませんでした)

(2)の研究で、TENSIOMYOGRAPHYで測定している数値の変化がどこまで実際のパフォーマンスに関わってくるのか不明ですが、マッサージガンやフォームローラーといった各種の施術は、筋肉が凝り固まるのを防いでコンディションを良好に保つのに役立ちそうな感じはします。

ただ、ハードな運動をしたあとにマッサージガンやフォームローラーでケアしてやれば回復が劇的に早まり翌日には体力100%で動けるようになるといったことは期待できないでしょう。これらの施術は、ハードな運動を続けながらコンディションを保ち、怪我を予防し、高いレベルでのパフォーマンスを継続するのを助けるのには有用だと思います。

実際の筋トレでの運用だと、高ボリュームのトレーニングを続ける時期に、筋肉が張ったり固くなったりするのを防ぐために、マッサージガンやフォームローラーを使用すると良いと思います。筋肉に強い負担がかかった状態を放置すると、筋肉がピリピリしたりピキッとしたりすることがあります。あとアラインメントが歪んで、フォームが崩れたりしますね。

アイテムの使い分けは、点でほぐしたい場合はマッサージガン、面でほぐしたい場合はフォームローラーです。個人的な感覚だと、尻の筋肉の肉厚の部分はフォームローラー、臀筋周縁部や深いところはマッサージガンが良くて、背中が張る場合は背中全体をフォームローラーでゴリゴリ潰していきます。胸の筋肉を小胸筋含めて奥の方までほぐすのにはマッサージガンが効きます。太もも周り(ハムストリング・大腿四頭筋・内転筋・大腿筋膜張筋)はマッサージガンのほうがやりやすいです。マッサージガンは、張ったり凝ったりしている筋肉に当てます。ターゲットの筋肉は力を入れず、弛緩させます。注意点は骨には当てないこと。


私は、スライヴというメーカーの7000円くらいのマッサージガン(MD-1301)を使っています。マッサージガンはほとんどがバッテリー式で、コード式のがおそらくここの製品のみです。同じくらいの価格帯のバッテリー式だと、バッテリーが半年や一年でダメになって使えなくなったというレビューがあったのでコード式にしました。数万円するものだともっと長持ちするのかもしれませんが、単純な仕組みの機械で機能的には大差ないでしょうから安いのでいいかなと。国内メーカーなので故障の際の対応などもちゃんとやってくれそうです。

カカクコムやamazonだと現時点で最安値が6000円を切っています。ちなみに私はインフルエンサーとかではないので、スライヴと利害関係はありません。使用感は、パワーがあって良好です。バッテリー切れがないのは、やはり良いですね。重量がそれなりにあってサイズが大きいので女性には使いにくいかもしれません。



マッサージガンの使用方法

(1)の研究に書かれている推奨使用方法は、

・可動域拡大や柔軟性アップ目的なら部位あたり40Hz以上で2分以内

・回復目的なら部位あたり2分以上40Hz以下

・ストレングストレーニングやプライオメトリクストレーニングの直前にはやらない

・ボール型のアタッチメントを使用

・あまり強く押し付けすぎない

・突っついたりバウンドさせたりせず均一のプレッシャーで少しずつ動かして施術する

となっています。回復目的では低めの振動数が良いというのは、疲労タスク→直後マッサージガン→すぐにまた疲労タスクの研究がもとになっているので、あまり気にしなくてもいいと思います。筋トレのサイクルを回していく上で重要なのは翌日以降の回復です。マッサージガンのメカニズム的にもトレーニーの筋肉の硬さ的にも、高めの40-50Hzのほうが回復には良い感じがします(40-50Hzは1分間の振動数だと2400回-3000回です)。


マッサージガンを使ってはいけないケースは、

・皮膚に傷や痣がある。

・骨折している

・血栓がある

・糖尿病と神経痛など


マッサージガンを使ってはいけない部位は、

・顔、眼、耳、頭、首、胸、背骨、皮膚の表面の神経と血管

・関節置換術などで人口の部品と入れ替えている箇所

その他の注意点は、何十分も同じ箇所を強くやり続けない。それと妊婦や片頭痛持ちやヘルニアなどの人は使用が制限される(胎児や患部に振動が伝わらないように)。

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