9/26/2026

運動で筋肉がつる現象についての解説と対処方法

運動で「筋肉がつる」とはどういう現象か

専門的には、運動誘発性筋痙攣(EAMC:Exercise-Associated Muscle Cramp)と呼ばれる現象で、運動中や運動の後に、激しい痛みを伴って筋肉が不随意(自分の意思とは無関係)に収縮することです。

運動が要因の筋痙攣以外にも、病気による筋痙攣や、夜中に突発的に起こる筋痙攣もあります。

今回は、運動による筋痙攣のみを対象とします。



EAMCのメカニズム


「水分と電解質が不足すると筋肉がつる」という言説がありますが、近年の科学会での主流の見方は、水分と電解質の喪失をEAMCの主要因としていません。

水分と電解質の喪失は全身に影響を及ぼすはずですが、運動によって筋肉がつるのは、運動で使った局所的な筋肉のみです。また、運動でつった筋肉は、水分や電解質の補給ではなくてストレッチで和らげることができることから、水分と電解質の喪失はEAMCの主要因ではないと考えられます。


現在の主流の理論では、疲労や他の因子により、α運動神経による興奮性刺激と抑制性刺激のバランスが崩れ、EAMCが生じると考えられています。


仕組みを説明します。まず、筋紡錘とゴルジ腱器官の役割を理解するとわかりやすいです。

・筋紡錘:筋肉が伸びすぎるのを防ぐため、収縮信号を出す。

・ゴルジ腱器官:筋肉が収縮しすぎるのを防ぐため、弛緩信号を出す。受動的に伸長されることで弛緩作用を発揮しやすくなる

例えるなら、筋紡錘がアクセル、ゴルジ腱器官がブレーキです。通常の筋肉においては、収縮信号と弛緩信号のバランスが取れていて、筋肉は適切な状態に保たれています。

筋肉がつった状態は、このバランスが崩れた状態です。

疲労などの要因により、筋紡錘の感受性が高まり過剰に収縮信号が出る一方で、ゴルジ腱器官の弛緩信号が低下します。そうすると、筋肉がひたすら収縮しまくる状態になります。これが、筋肉がつった状態です。



運動でつりやすい筋肉

EAMCの多くは、運動中に強く使われた筋肉、特に複数の関節をまたぐ筋肉に発生します。複数の関節をまたぐ筋肉は、短縮されたポジションで収縮することが多いため、ゴルジ腱器官から生じる筋への抑制作用が低下しやすいです。


筋肉に対して、

・筋肉が短縮されたポジションで強い負荷をかける。

・慣れない関節角度で強い負荷をかける。

・普段のトレーニングレベルを大幅に超えた負荷をかけて強い疲労を与える。


こうすると筋肉がつりやすくなります。

一般的には、大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋がつりやすいです。長距離走やチームスポーツなど、多くの運動では下半身を酷使するためです。

筋トレだと、ハムストリングスや腹直筋がつりやすいかなと思います。

直接調べた研究は無いと思いますが、ハムストリングスだったら、シーテッドレッグカールよりもライイングレッグカールのほうが、ハムストリングスの二関節筋が短縮ポジションになるためつりやすいと考えられます。

腹直筋も、短縮ポジションで強く収縮させるとつりやすいでしょう。

私は大腿四頭筋がつりやすいです。運動中ではなくて、夜につります。個人的な体感では、トレーニング間隔が空くとつりやすいです。筋肉のEAMC耐性が低下するためでしょう。



個人差

EAMCの起こりやすさには、個人によって大きな差があります。日常的にEAMCを起こす人がいる一方で、トレーニング期間や運動強度が同程度であっても、けいれんに対する抵抗性を示す人もいます。つりやすさには遺伝的要因がある可能性があります。

男性のほうが女性よりもつりやすい傾向があります(女性の方が持久運動に優れている可能性)。

腱・靭帯の怪我歴があるとEAMCが起こりやすいです。



対処方法

つった筋肉を静的ストレッチで伸ばします。痛いと思いますが、ゆっくりと強制的に伸ばしましょう。筋肉が伸ばされることでゴルジ腱器官に張力がかかり、弛緩信号が再び送られるようになり、運動ニューロンの発火が鎮まります。




予防方法

筋肉がつるのを防ぐのに、あまり効果的な方法はなさそうです。

静的ストレッチはEAMCの治療には有効ですが、予防策としては効果がないようです

水と電解質の補給は、EAMCの予防にはなりませんが、熱中症の予防や運動パフォーマンス維持のために必要なので、補給はしたほうが良いでしょう。

筋肉のEAMC耐性を上げるには、理屈の上では、エキセントリックトレーニングとプライオメトリックトレーニングが可能性があるようです。

ケーススタディでは、ハムストリングスがつりやすいトライアスリートに、臀筋を強化し、ハムにばかり負担がかからず臀筋も使えるように身体の使い方をトレーニングした結果、つらなくなったという研究があります(4)。身体の使い方に偏りがあったり、弱い部位の存在が他の部位に負担をかけている場合は、コレクティブエクササイズでEAMCを予防できる可能性があります。

マラソンだと、筋トレ経験とつりやすさに相関があります(5)。普段から筋トレしている選手のほうが、マラソンのレースでつりにくいです。



<参考文献>
(1)An Evidence-Based Review of the Pathophysiology, Treatment, and Prevention of Exercise-Associated Muscle Cramps
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8775277/

(2)Muscle Cramps
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499895/

(3)A narrative review of exercise-associated muscle cramps: Factors that contribute to neuromuscular fatigue and management implications: Exercise-Associated Muscle Cramps
https://www.researchgate.net/publication/302592503_A_narrative_review_of_exercise-associated_muscle_cramps_Factors_that_contribute_to_neuromuscular_fatigue_and_management_implications_Exercise-Associated_Muscle_Cramps

(4)Strengthening and neuromuscular reeducation of the gluteus maximus in a triathlete with exercise-associated cramping of the hamstrings 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20118522/

(5)Muscle Cramping in the Marathon: Dehydration and Electrolyte Depletion vs. Muscle Damage 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32796418/


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