★ショルダープレスやラットプルダウン
肘を上げて、肩関節を外旋させ、腕を開いた状態で強い負荷をかけると、肩関節の前部が緩んで肩関節が不安定になりやすい。
種目例
- ビハインドネックのショルダープレス
- ビハインドネックのラットプルダウン
◇対策◇
ビハインドネックでのラットプルダウンやショルダープレスは避け、身体の前側で動作を行う。つまり普通のラットプルダウンやショルダープレス。上腕を30度ほど前に出して、上腕骨が肩甲骨と同一平面で動くようにすると、肩関節への負荷が軽くなる。ラットプルダウンは上体を後ろに30度ほど倒すのも良い(僧帽筋中部・下部の収縮を意識しやすくなる)。
★ベンチプレスやダンベルフライ
肘が胴体よりも大幅に後ろにある状態で肩関節に強い負荷をかけると、肩関節の前部が緩んで肩関節が不安定になりやすい。
種目例
- ベンチプレス系
- フライ系
- トライセプス・ベンチ・ディップス
- ローイング動作での引きすぎも肩関節前部に負担がかかる。
特にワイドグリップでのベンチプレスや腕が長い人のベンチプレスでは、肘が胴体よりも大きく後ろに来て肩関節に負担がかかりやすい。
◇対策◇
ベンチプレスでは脇はあまり開きすぎず、肘は後ろに引きすぎない。目安は肩関節の外転(脇の角度)45度以内、伸展15度以内。
脇をあまり開かず、みぞおち付近にバーを下ろすフォームでベンチプレスをする際は、背中は軽くアーチを作るとやりやすい。コツは腰椎を反るのではなくて、胸椎を反ること。
参考記事:ベンチプレスの背中のアーチ
ワイドグリップでのベンチプレスや脇を大きく開いて鎖骨付近に下ろすボディビルスタイルのベンチプレスは避ける。手幅は肩幅の1.5倍以内にする。
胸にタオルを置いたり、バーにスクワットパッドを巻いたりすると、バーの下ろす深さを制限できる。また鎖を使うとボトム付近での負荷を下げることができる。鎖をバーベルにぶら下げると、バーが下がるにつれて地面に着く鎖が長くなり負荷が軽くなる。
インクラインのベンチプレスは避けたほうが良いだろう。インクラインのプレスをやるならダンベルを使うと良い。デクラインベンチプレスやリバースグリップ(逆手)でのベンチプレスは肩関節への負担が軽い。
ダンベルでのフラットベンチプレスで、持ち方をニュートラルグリップにすると肩関節への負担が軽くなる。ニュートラルグリップで握れるswiss bar(fottball bar)があればそれを使うのも良い。
ダンベルフライやペックフライは、可動域の限界まで開かない。肘が胴体の横かすこし後ろに来る程度で止める。脇の角度も90度に近すぎないほうが良い。ケーブルマシンを使うのも良い
トライセプス・ベンチ・ディップスは避け、普通の腕立て伏せやケーブルマシンなどを使って上腕骨三頭筋を鍛える。腕立て伏せはボックスやベンチの角などを使って行うと、手首への負担も減る
★サイドレイズやアップライトロー
肩関節が窮屈な状態で負荷をかけると、ローテーターカフの腱や滑液包が肩峰の下のスペースで挟まれて炎症を起こしやすい(肩峰下インピンジメント)。サイドレイズでもアップライトローでも、肘を高く上げると特に怪我リスクが高くなる。
種目例
- サイドレイズ
- アップライトロー
- プルオーバー
◇サイドレイズの対策◇
肘を肩より上に上げない。ショルダープレスと同様に上腕を前方に30度ほど出して肩甲骨平面上で動作を行う。
サイドレイズにはいくつかやり方があって、通常の手のひらを下に向けて行うやり方は肩峰の下のスペースが狭くなるので怪我リスクが上がる、ただ、健康な肩の人なら、このやり方でも肘を上げすぎないことに注意すれば、それほど怪我リスクは高くならないと思う。肩の調子が悪い人は避けたほうが良いだろう。
他には、フル缶、エンプティ缶というやりかたがあって、フル缶が親指が上を向くようにダンベルを握る、エンプティ缶が親指が下を向くようにダンベルを握る。飲み物の入った缶を中身がこぼれないように持つのがフル缶、中身が全部流れ落ちるように持つのがエンプティ缶。
動画:Full Can Raise
https://www.youtube.com/watch?v=fgHZlFy7Ho0
動画:DB Empty Can Raise
https://www.youtube.com/watch?v=CIqtc_7QWQY
フル缶は肩関節の健康を保ちやすい(肩峰下スペースが広い、肩甲上腕リズムが自然、肩甲骨が後傾)が、筋肥大の観点からは三角筋中部後部への負荷が小さい。エンプティ缶は三角筋中部後部への負荷を上げられるが、肩の健康の観点からはあまり良くない(肩峰下スペースが狭い、肩甲上腕リズムが不自然、肩甲骨が前傾)。
ベンチにうつ伏せになってフル缶のレイズを行うやり方もあって、これだと三角筋中部後部を動員できる。うつ伏せフル缶の肩の健康への影響を調べた研究はざっと探したけど見つからなかったが、自分でやってみた感じでは肩関節への負担は軽そうだった。やり方は脇の角度が100°くらいになるようにして行う。
◇アップライトローの対策◇
種目自体を避ける。やるなら肘を肩より上に上げない。
◇プルオーバーの対策◇
肩関節を過度に屈曲させて負荷をかけると肩峰下インピンジメントが悪化する。プルオーバーをやるなら、可動域の限界までやらない。もしくはラットプルダウンで広背筋を鍛える。
懸垂のやり過ぎによる怪我リスク(肘と肩)の記事でも書いたが、肩峰下のスペースはBIG3+懸垂を熱心にやると狭くなって、肩の怪我につながりやすい。本格的に筋トレする人は、肩のトレーニングの際に上記のポイントに気をつけることに加えて、肩周りのストレッチを念入りに行うことで肩峰下インピンジメントを予防すると良いだろう。
★肩甲骨と上腕骨の連動
肩周りの筋トレは、肩甲骨と上腕骨が連動して動き、大きな筋肉(三角筋や大胸筋や広背筋)と小さな筋肉(ローテーターカフや前鋸筋)の両方を動員できる種目を多くやったほうが良い。これは短期的な怪我リスクよりも、長期的に見て肩関節を良好なコンディションに保つために意識すると良いこと。
肩甲骨と上腕骨の連動を切って、三角筋や大胸筋や広背筋をアイソレートして鍛えると、見た目は良くなりやすいし、短期的にはそれほど怪我をしないだろけど、肩関節の正常な動作が失われやすくなるので、長期的には肩関節の健康が損なわれやすくなる。
関連記事:
肩関節の基礎知識
肩周りのストレッチ
プッシュとプルのバランス
参考文献:
Avoiding Shoulder Injury From Resistance Training
https://www.researchgate.net/publication/232204583_Avoiding_Shoulder_Injury_From_Resistance_Training
Characteristics of Shoulder Impingement in the Recreational Weight-Training Population
https://pdfs.semanticscholar.org/f962/896c767355405a14a06cde7ab7b012c76edd.pdf
Ultrasound evaluation of the subacromial space in healthy subjects performing three different positions of shoulder abduction in both loaded and unloaded conditions.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27776926
Shoulder Coordination During Full-Can and Empty-Can Rehabilitation Exercises
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4732390/
Electromyographic Analysis of the Supraspinatus and Deltoid Muscles During 3 Common Rehabilitation Exercises
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2140071/
Exercise Modification Strategies to Prevent and Train Around Shoulder Pain
https://www.researchgate.net/publication/312266298_Exercise_Modification_Strategies_to_Prevent_and_Train_Around_Shoulder_Pain
EVIDENCE-BASED ALTERNATIVES TO POPULAR EXERCISES
https://journals.lww.com/acsm-healthfitness/fulltext/2017/11000/EVIDENCE_BASED_ALTERNATIVES_TO_POPULAR_EXERCISES.7.aspx
Comparison of chain- and plate-loaded bench press training on strength, joint pain, and muscle soreness in Division II baseball players.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19050650
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