前回の記事の続き
前回記事:新型コロナウィルスとビタミンD
★体内のビタミンDレベルを保つには
・日光(紫外線)に当たる
太陽高度の高い時が良い。具体的には、低緯度地域、夏、昼間は太陽高度が高い。成人白人が全身を夏の日光に15-30分当てて10000IUくらい出来る。
・ビタミンDを多く含む食品を食べる
鮭、脂質の多い魚、卵の黄身など。ただ普通の食事で多くのビタミンDを摂取するのは難しい。
・サプリメント
屋外での活動が減少している現代においては、サプリメントで補うのが良いだろう。
専門家によれば、適切なビタミンDレベルを保つには日光も食品もサプリメントも全部必要とのこと。
★ビタミンDの種類
D2とD3があるのだけど、ビタミンD3で良いだろう。
★注意点
体内のビタミンDレベルが低下している場合は、望ましい水準に戻すことで免疫機能の回復や病気予防や骨を強くしたりや筋力を上げたりといった効果があると考えられるのだけど、ビタミンDレベルが低下していた場合に落ち込む分を取り戻すと思われるので、過剰摂取しても効果がブーストされるわけではない。
★上気道感染症やインフルエンザへの効果
ビタミンD摂取が上気道感染症やインフルエンザの予防にも効果がありそうなので、新型コロナウイルスの対策にもなるかもしれない。もちろんビタミンD摂取によりコロナウィルスへの感染リスクが下がるというエビデンスは現時点では存在しないが、ビタミンDサプリメントの摂取コストと、アップサイドリスク・ダウンサイドリスクを考えると割の良い賭けなので、自分だったら毎日5000IUビタミンDを摂取する選択肢を選ぶ。読解力のない人に絡まれるのも面倒なので繰り返すけど、私はビタミンD摂取が新型コロナウィルスの予防になると言っているわけではない。最悪死ぬことを考えると、ビタミンD摂取はやってみる価値はあると言っている(イタリアやアメリカの死者の平均年齢が80歳くらいなので若い人が死ぬリスクは著しく低いと思うが)。またビタミンD不足は様々な健康リスクに関わると考えられているので、サプリメント摂取でビタミンDレベルを望ましい水準に保つのを避ける理由も無い。
ビタミンD摂取が気道感染症を予防するかを調べたメタ解析(1)を見ると、血清ビタミンD濃度が25nmol/L(10ng/ml)以下の場合にビタミンDを摂取すると気道感染症の強い予防効果があるが、それ以上だと有意差がでない。ビタミンDの摂取の仕方は、毎日もしくは毎週摂取したほうが効果が出る。1ヶ月に一回10万IUといった服用の仕方は効果が低そう。摂取量が少ないRCTも含んだ上で、25nmol/L(10ng/ml)以下の場合のビタミンD摂取で気道感染症の強い予防効果が出ているので、40ng/ml程度まで上げられる量を摂取すればより高い効果が期待できると思う。このメタ解析だと、高カルシウム血症と腎結石リスクは、プラシーボ群とビタミンD摂取群で変わらず。
メタ解析の元になっているRCTはデザインがいまいちなものが多い。ビタミンD摂取が効果を発揮するのは、初期状態がビタミンD不足だったときに、体内のビタミンDレベルを上げ免疫の働きを正常に戻すことにより病気のリスクを低減させると考えられるので、被験者の初期状態を低いレベルに揃えて、十分な量のビタミンDを投与する。血清ビタミンDレベルが適切な水準に上昇するのに数ヶ月かかるので、実験期間は長めに取る、というデザインにしないとRCTでは効果が示されにくいだろう。
良いデザインのRCT例(2)。被験者が抗体欠乏の患者と気道感染症になりやすい患者で、特に疾患の無い人と反応が変わるかもしれないけど。ビタミンDを毎日4000IU摂取。期間は1年。血清ビタミンD濃度は初期20ng/ml付近から3ヶ月で40ng/ml超えに上昇。ビタミンD摂取群は上気道感染症のリスクが下がり、抗生物質の摂取が減った。この研究と同じようなデザインで繰り返しRCTをやってみれば、ビタミンD欠乏の人がビタミンDを摂取することで上気道感染症やインフルエンザのリスクを下げるかどうかがはっきりする。
上気道感染症の罹患リスクと、血清ビタミンD濃度に逆相関が見られるとする観察研究(3)。ビタミンDレベルが低いと、上気道感染症の罹患リスクが上がる。30ng/ml以上の場合に比べたオッズ比が、10ng/ml以下で1.36、10-30ng/mlで1.24。
1000IU/日のビタミンD摂取で上気道感染症、風邪、インフルエンザ様症状の発症リスクに影響は認められなかったという結果のRCT(4)。人数が多くて期間も長いのは良いけど、スタート時点での血清ビタミンD濃度が約25ng/mLでそれほど低くはなく、摂取後も32ng/mLでそれほど上昇しているわけではなく、ビタミンDがそれほど低くない人が少量のビタミンDを摂取しても上気道感染症などのリスクは下がらなそうだということは言える。
この研究は血清ビタミンD濃度の四分位ごとの罹患リスクを出していて、血清ビタミンD濃度が高いほど、上気道感染症、風邪、インフルエンザ様症状の罹患リスクが下がり、病気の日数が短い傾向があることが示されている。特に重い症状での日数が大幅に短くなっている。四分位の区切りは、25th, 50th, and 75th percentiles (21.75, 28.42, 35.4 ng/mL)なので、これを見ると20ng/mL以下は感染症に対する免疫機能がかなり低下してそう、35ng/mL以上にするとちゃんと働いていそうって感じがする。
あとプロバイオティクスの摂取で喉や鼻の粘膜を強化するのも、新型コロナウィルス対策として意味があるかもしれない。価格が安くてダウンサイドリスクはほぼ無いのだから、ダメ元でやってみる価値はあると思う。
関連記事:プロバイオティクスのスポーツへの利用
★ビタミンDと肺炎
ビタミンD欠乏と市中肺炎の関係についてのメタ解析(5)。ビタミンDレベルの低さと、市中肺炎のリスクが相関している。血清ビタミンD濃度20 ng/mL以下で、オッズ比1.64。一般の肺炎は多くが細菌性で、新型コロナのウィルス性肺炎とは反応が異なるかもしれないけど参考まで。
★ビタミンD欠乏の割合
季節や屋外活動の多さなどで変わる。いくつか研究を見ていく。ビタミンD欠乏の閾値はいくつか定義があるけど、よく使われる20ng/ml以下の割合を見ていく。
・日本人のオフィスワーカー(6)。20 ng/ml以下は7月が9.3%、11月が46.7%。
・妊娠中の日本の女性(7)。平均すると20ng/mL以下は73.2%。季節ごとに見ると20ng/mL以下は4月が89.8%、10月は47.8%。日光が弱まり外出が減る冬の間にビタミンDレベルが低下していると思われる。
・2004年頃のアメリカのデータ(8)。20ng/ml以下が36%。ビタミンDレベルは、白人>ヒスパニック>黒人になっている。黒人は平均が20ng/ml以下で、深刻な欠乏である10ng/mlの割合がかなり高い(Table2)。狩猟採集生活をしていた頃に住んでいた地域の日照レベルに身体がアジャストしていて、それよりも日光が弱い地域に住むとビタミンDレベルが低くなるのだと思う。当然、屋外での活動時間が短くなればそれだけビタミンDレベルが下がる。日本に住む人だと、インドや東南アジアや南米やアフリカなど日差しが強い地域の出身で肌の色が濃い人は普通に生活しているとビタミンD欠乏リスクがかなり高くなると考えられる。
スウェーデンやイギリスやアメリカでは、肌の色の濃い移民が新型コロナウィルスの死亡者に占める割合が高いという報告が出ている。生活環境や衛生状態や医療へのアクセス度合いも影響しているのだろうけど、ビタミンDレベルの低さも影響しているのかもしれない。
★ビタミンD摂取の副作用
ビタミンDの摂取で、高カルシウム血症、高カルシウム尿、腎結石になるリスクが上がるかもしれない(研究によって結果がばらついている)。
通常レベル(1日10000IU以下)のビタミンDを摂取して高カルシウム血症などになるかは、おそらく反応に個人差がある。ビタミンDに過剰反応する遺伝子変異や、結核などの病気の人がビタミンD摂取に過剰反応して高カルシウム血症になりやすいと考えられている。メタ解析(9)では、800IU以下の小容量でもそれ以上の量でも高カルシウム血症のリスクは同程度上がるという結果が出ていて、過剰反応する体質の人がリスク比を引き上げている感じがする。
★摂取量目安
日光にあまり当たらない生活の人は1日あたり5000IU程度の摂取を推奨。血清ビタミンD濃度を測定できるなら、ビタミンDレベルが望ましい水準になったら1日あたり1000-2000IUに減らして維持していっても良い。週に一回より頻度が高ければ良さそうなので、1日5000IUペースで摂取したいなら、2日に一回10000IUといった摂取の仕方でも問題ないだろう。
買うのはアメリカの大手メーカーのサプリメントが安くて良いと思う。国内メーカーのものは価格が高い。海外サプリメントは質が悪いものもあるので、よくわからないメーカーのあまりに安いものは買わない方が良いと思う。
私はアマゾンで買えるこれを摂取しています。
ビタミンD摂取による高カルシウム血症のリスクが指摘されているので、一般的なカルシウムサプリメント(炭酸カルシウムやクエン酸カルシウム)との併用は止めたほうが良いだろう。そもそも一般的なカルシウムサプリメントは摂取しないほうが良いと思う。
関連記事:健康な骨と心臓血管のための食生活ガイドライン
★ビタミンD摂取量の上限
一般にはどのくらいの量でビタミンD過剰摂取の症状が出るのか。ケーススタディを集めた研究(10)を見てみると、成人だと一ヶ月60万IU(1日20000IU)を超えるペースで数ヶ月間以上摂取しつづけるするのは過剰摂取のリスクが高そう。過剰摂取の症状は、吐き気、嘔吐、脱水、腹部などの痛み、倦怠感、食欲不振など。これらの症状が出たら即座に服用はやめる。
★所感
おそらく新型コロナウィルスは人口の大部分が感染するまで止まらない。都市封鎖といった強硬措置で一時的に封じ込めたように見えたとしても、緩めたらまた感染が広がりだす。SARSやMERSとは感染力が違うので封じ込めは出来ないだろう。新型インフルエンザのパンデミックに近い。
既存のインフルエンザが新型コロナウィルスに比べてそれほど脅威ではないのは、過去に新型としてパンデミックが起こり、多くの人がある程度の免疫を持つようになったから。その過程では、多くの命が失われた。個人として出来ることは、遅かれ早かれ感染すると考えて、出来るだけ体調を整えてウィルスを迎え討つことだと思う。(外出自粛で日光に当たる機会が減り、運動不足になると、よりウィルスに対して身体が脆弱になるだろう)
経済に人命は替えられないという論拠で、経済的コストを無視して強硬な抑え込み策をやるべきだという主張があるけど、不況になると自殺者が増える。目の前の新型コロナ死者を一人でも減らそうと頑張ると、結果として多くの命が失われる可能性がある。
トータルの犠牲を小さくする方法はおそらく、経済活動をある程度維持しつつ医療崩壊を起こさないペースでのコントロールされたパンデミックを目指し集団免疫を獲得すること。スウェーデンがそれを目指している。スウェーデンは高い医療レベル、低い人口密度、他の欧米諸国に比べると低い肥満率、低い大気汚染レベル、あとこれははっきりとはしない説だけど、BCG接種国なのとビタミンDレベルの強化策で国民のビタミンDレベルが低くないこと。恵まれた条件が揃っているのでチャレンジ出来るのだと思う(もちろん為政者と国民が合理的に考え決断できるのが前提だが)。イギリスやアメリカやイタリアは都市封鎖せざるを得ない状況にあっという間に追い込まれた。
理想論を言えば、経済活動を維持したまま、重症化リスクの高い人達(主に高齢者)を社会から隔離、それ以外の重症化リスクの低い人たちは医療崩壊しないペースでなるべく早く集団免疫の獲得を目指すのが経済的被害も人的被害も最小になると思う。免疫を持つ人が増えるとウィルスは移る先が見つからなくなってその集団では感染が終息していく。その後重症化リスクの高い人たちを社会に合流させる。再び外からウィルスが入ってきても免疫を持っている大勢の人がバリアになって、リスクの高い人たちまでウィルスが辿り着きにくくなる。(このウィルスの感染力の強さと無症状や軽症の感染者の多さを見ると、すでにかなりの人が感染して免疫獲得済みな感じもする)
感染ゼロを目指して強硬に抑え込もうとする政策の問題点は、強烈な景気の落ち込みとそれに伴う自殺者の急増、そして集団免疫が出来ない限り、解除後にまた外からウィルスが入ってきて感染拡大が再開し、リスクの高い人たちもウィルスに晒されやすくなること。免疫が出来ない種類のウィルスだったらどうするのかという反論があるけど、それは都市封鎖しても同じことが言える。すでに世界各地にウィルスは広まっているので、世界中の人が同時に一ヶ月くらい刑務所の独房みたいなところで完全隔離でもしない限り、このウィルスは再び入ってくるだろう。
日本がどこを目指した戦略を取っているのかわからないけど、トレードオフを受け入れた上で、政策を実行して欲しいものです。現状では、パニックになった世論に流され、コストと被害を無駄に膨らませる政策をやっているとしか思えない。
参考記事:新型コロナ対策でいま求められる「戦略」と「戦術」
参考記事:感染症の基本法則とパラドックス
<参考文献>
(1)Vitamin D supplementation to prevent acute respiratory tract infections: systematic review and meta-analysis of individual participant data.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28202713
(2)Vitamin D3 supplementation in patients with frequent respiratory tract infections: a randomised and double-blind intervention study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3533016/
(3)Association between serum 25-hydroxyvitamin D level and upper respiratory tract infection in the Third National Health and Nutrition Examination Survey.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19237723/
(4)Vitamin D3 Supplementation and Upper Respiratory Tract Infections in a Randomized, Controlled Trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3805175/
(5)The association between vitamin D deficiency and community-acquired pneumonia
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6756683/
(6)Serum 25-Hydroxyvitamin D Concentrations and Season-Specific Correlates in Japanese Adults
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3899433/
(7)High frequency of vitamin D deficiency in current pregnant Japanese women associated with UV avoidance and hypo-vitamin D diet
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0213264
(8)Demographic Differences and Trends of Vitamin D Insufficiency in the US Population, 1988–2004
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3447083/
(9)Vitamin D-Mediated Hypercalcemia: Mechanisms, Diagnosis, and Treatment
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5045493/
(10)Development of Vitamin D Toxicity from Overcorrection of Vitamin D Deficiency: A Review of Case Reports
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6115827/
0 件のコメント:
コメントを投稿