11/20/2021

腰痛対策シリーズ3回目:スクワットとデッドリフトでの腰痛のトラブルシューティング

関連記事:腰痛対策シリーズ1回目:腰痛の概略

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スクワットやデッドリフトで腰を痛める場合

腹圧を高めて背骨ニュートラルを維持していれば、スクワットやデッドリフトで腰を痛めることはほとんどないと思います。ニュートラルポジションを維持できてる限りは、背骨はかなり頑丈です。

なぜ痛めるのかというと、背骨ニュートラルを維持できていないから。背骨ニュートラルを維持できないケースをいくつか見ていきます。




キャパシティを超えていて腰を痛める

<重量のキャパシティ>

90%1RM以上の重量でスクワットやデッドリフトをやると腰を痛める場合。

→競技としてスクワットやデッドリフトをやっているのでなければ、高重要はなるべくやらないようにする。

→メンタルでフォームが崩れる場合も多いので、どんな重量でも同じフォーム・同じリズムで出来るようにする。ルーティーンを作ったり。

→補助種目で背中を鍛える。スクワットはグッドモーニング、デッドリフトはベントローなど。

→重量を落としたポーズドデッドリフト、ポーズドスクワットやピンスクワットで全身を固める練習をする


<スピードのキャパシティ>

ガツンと勢いをつけてスクワットやデッドリフトをやると腰を痛める場合。

→ゆっくりやる。

→最速意識での挙上を行うスピードデッドリフトをやる。40-60%1RM程度の重量、5レップ以下、追い込み度は低い。パワークリーンのクリーン抜きみたいなものです。デッドリフトは、重量を上げたい場合はスピードが大事なので。スピードデッドリフトはイイヨと言う人は多いです。

動画:ShowandGoTraining.com: Conventional Deadlifts for Speed
https://www.youtube.com/watch?v=zz2_H3qsNyc


スピードスクワットは・・・エキセントリックが速いと切り返しで関節の負担が大きくなるので、エキセントリックゆっくりめで挙上だけ爆発的にやるのが良いかもしれません。


<持久力のキャパシティ>

セット終盤になるとフォームが崩れてきて腰を痛める場合

→限界までやらない。フォームが崩れてきたらセットを止める。



重量や疲労に関係なく腰を痛める


<姿勢が悪くて背骨がニュートラルになっていない>

・反り腰
背中を反ってスクワットやデッドリフトを行い、背中の筋肉で負荷を受け止めていると腰を痛めやすいです。反り腰になるので背骨が縦に圧縮される力で腰を痛めやすいですし、腹圧が抜けやすいのでせん断力で腰椎がズレて痛めやすいです。胸を張って腰を反るのが良いフォームだと思って意識的にやっている場合は修正しましょう。姿勢バランスの問題で常に反り腰の場合は、前回の記事を参考に。



デッドリフトのロックアウトで肩を大きく後ろに返したり、身体を後ろに倒すフォームもあまりやらないほうがいいです。腰を反って痛めやすくなるので。腰は反らないけど股関節を過伸展する場合も、スウェイバック姿勢に近くなるので腰椎がズレて痛めやすくなるんじゃないかなと思います。腰を痛めにくいロックアウトは、尻をバーに叩き込む、背を高くしてロックアウトするイメージです。



・背中が丸まり
高齢でない限りは、普段から腰が丸まっている人はあまりいないと思いますが、胸椎が丸まって猫背になっている人は結構います。猫背だとスクワットでもデッドリフトでもバーが前に流れやすいです。バーが自らの重さで前に流れようとしつつ、前側に倒れないようにバランスを取るため尻を後ろにやると、背中の筋肉の緊張が抜けて腰を痛めやすいです。




<グッドモーニング型になってバーが前に流れる>

立ち上がる際に尻だけ先に上がってグッドモーニング型になるとバーが前に流れて、スクワットもデッドリフトも腰を痛めやすいです。(デッドリフトの場合はスティッフレッグド型と呼ぶほうがしっくり来ますね)


・筋力の問題
グッドモーニング型になる原因はいくつか考えられますが、まずひとつ目は、筋力に対してバーベルの重量が重すぎること。どこの筋力が弱いかはデッドリフトは単純ですがスクワットの場合は少し複雑です。

デッドリフトで尻が先に上がる場合は、股関節の伸展の筋力が弱く、多くの場合は殿筋群が弱いです。臀筋が頼りないため、ハムストリングスに頼ろうとしていると思われます(膝の屈曲が浅くて股関節の屈曲が深いとハムストリングスが使われやすくなる)。従って、尻意識のポーズドデッドリフト、尻意識でハムストリングスに効かせないRDL、ヒップスラストなどで殿筋群を鍛えると良いでしょう。

スクワットの場合は、直接の原因は股関節の伸展筋が負荷に負けていることですが、大腿四頭筋が弱くて負荷を受けられず、股関節に過大な負荷がかかって負けていることもあるので、大腿四頭筋か股関節伸展筋が弱いことが大元の原因になります。

スクワットはフォームや骨格によって、膝と股関節へどれくらい負荷が分散されるかが変わってきます。膝を前に出せば大腿四頭筋の負荷が上がる、尻を後ろに出せば殿筋と内転筋の負荷が上がる(グッドモーニング型くらい極端なフォームでないとスクワットではハムストリングスには負荷がかかりにくいです)。

挙上時に尻を後ろに出して上げる股関節メインのスクワットを想定します。大腿骨が短くてワイドスタンスの人はほぼ真上に立ち上がりますが、それ以外の場合はある程度は尻を後ろに出しながら立ち上がるフォームになると思います。


動画:Clarence Kennedy 290kg / 639lbs ATG Squat Session (Thursday Part 2 of 2)
https://www.youtube.com/watch?v=hmG1aX0cHj8&t=311s

このフォームをやろうとして、スネが垂直になって大腿四頭筋にほとんど負荷がかかっていないフォームでグッドモーニング型になる場合は、大腿四頭筋が弱いと思います(下図の左側)と。大腿四頭筋を鍛えて、もう少し膝を前に出して、大腿四頭筋にも負荷を分散させたほうがいいです。フロントスクワットなど大腿四頭筋に負荷をかけやすい種目をトレーニングすると良いでしょう。レッグプレスで大腿四頭筋を鍛えて、あとは普段のバックスクワットでグッドモーニング型にならないように気をつけるでも良いと思います。


膝はつま先の上あたりで大腿四頭筋でも負荷を受けられているけど、上半身が傾いてグッドモーニング型になる場合は尻が弱いと思います(上図の右側)。デッドリフト系で尻を鍛えたり、グッドモーニングで尻を鍛えたり、ヒップスラストで尻を鍛えたりすると良いと思います。

膝をもっと前に出して大腿四頭筋が引き受ける負荷を上げるソリューションも考えられますが、ウェイトリフターもパワーリフターも、スティッキングポイント付近での膝の位置はつま先の上付近なので、パフォーマンス面では(膝の健康面でも)あまり膝を前に出しすぎないほうがいいかなと思います。


・足裏の重心が前すぎる
蹲踞みたいに上半身を起こしたまま大腿四頭筋メインで立ち上がれるなら、つま先重心でも腰は大丈夫だと思いますが、つま先重心で尻を後ろに突き出した股関節メインの立ち上がりをすると、前のめりになってバーが前に流れやすいです。ミッドフット重心でも、バーベルの重量が重たくなってきたときに股関節メインの動きをするとバーが前に流れやすいです。

バーベルが重たくなってきて、股関節メインのスクワットやデッドリフトをするときは、ミッドフット重心ではなくて踵寄り重心が適しています。これは関連記事に詳しく書いてあります。


関連記事:スクワットとデッドリフトのバーの軌道と足裏の重心



<腰が丸まる>

普段の姿勢で腰が丸まっているわけではないが、スクワットやデッドリフトで腰が丸まる場合。


・尻が弱い
デッドリフトで股関節の伸展筋が弱いと、股関節とバーベルの位置を近づけようとして(モーメントアームを小さくしようとして)、背中を丸める動きをするケースがあります。パワーリフティングで上背部(胸椎)のみを意図的に丸めるテクニックはありますが、その場合でも腰椎は丸めないです。たまに腰椎を丸めながら高重量のデッドリフトが出来る人がいますが・・・普通の人はすぐに腰を壊すと思います。

対策としては、きついときに股関節で粘る練習をすると良いでしょう。背中と脚で粘ると、尻と腰の力が入りにくくなり腰を痛めやすいです。RDLをゆっくりめに、ねちっこくやる、ポーズドデッドリフト、ヒップスラストなど。



・股関節の可動域不足
股関節の可動域が足りないと、股関節を深く曲げていくにつれて代償動作で腰が丸まります。スクワット、デッドリフトのボトム付近で腰が丸まって痛めやすい場合はこの可能性があります。まずは重りを持たずに、どこまで深く曲げられるかチェックすると良いでしょう。

可動域を広くする手段は、まずはストレッチで股関節の可動域を広げる。スクワットは内転筋と殿筋群の柔軟性不足が問題になりやすく、ナローデッドリフトはハムストリングスと殿筋群の柔軟性不足が問題になりやすいです。

他の対策は、股関節を外旋させる。スキーみたいに両脚を閉じて両膝が前を向いた状態よりも、つま先と膝を外側に向けて脚を開いた状態のほうが股関節は深く曲がりやすいです。スクワットはしゃがみやすいつま先の向きと足幅を色々と試してみる。ナローデッドリフトも、ある程度つま先と膝を外側に向ける(一般的には30°くらい)とやりやすいと思います。

股関節の骨の噛み合わせで深くしゃがめない人もいるので、もしスクワットでパラレル付近までしゃがむと、どうしてもバットウィンクが起きる場合は、しゃがみを浅くするのが良いでしょう。

デッドリフトは手幅を広くしすぎない、肩甲骨を寄せない、胸椎を伸展させない、など腕の実質的な長さを伸ばすようにして、股関節の屈曲角度が浅くて済むようにします。

腕の長さや股関節の骨の噛み合わせで、床引きナローデッドリフトが難しい場合もあるので、その場合はラックプル、スモウデッドリフト、トラップバーを使う、デッドリフトをやらない、といった選択肢になります。


・身体コントロール能力に問題がある。
バックスクワットでバーを担ぐと背中が反ってしまう、スクワットで深くしゃがむにつれて腰が丸まってしまうなど、スクワットの動作中に体幹が安定しないケース。

肩周りの柔軟性が足りないと、バックスクワットでバーを担いた時に、胸郭が開いて背中が反って腹圧が抜けやすくなります。ゴブレットスクワットだとスムーズにしゃがめるけど、バックスクワットだと体幹コントロールが怪しくなってくるケースはこれが原因の可能性があります。

対策:大胸筋や広背筋のストレッチをして肩周りの柔軟性を高める。それからデッドバグや、ポーズドスクワットで体幹を固める練習をする。


・スクワットのエキセントリック動作に慣れていない
しゃがむ際に尻をスムーズに落とせず、バランスが崩れやすくなって、体幹が不安定になる場合は、エキセントリック動作に筋肉が慣れていない可能性があります。

スクワットで使う膝と股関節の伸展筋(大腿四頭筋、殿筋群、内転筋など)は、コンセントリック動作は日常生活で使うのに慣れています。例えば、椅子から立ち上がったり、階段を登ったり、走ったり。

ただこれらの筋肉のエキセントリック動作は、あまり日常生活で使わないので慣れていません。特に重りを持って負荷を上げた状態でエキセントリック動作をコントロールするのは、かなり非日常的なので慣れないと難しいです。

対策は、5-10秒かけてしゃがむスローエキセントリックでスクワット(最初はゴブレットスクワットで、慣れたらバックスクワット)、しゃがみの深さを数段階変えながらのポーズドスクワット。

意外なところでは足首を伸ばす(底屈)筋肉、つまりふくらはぎの筋肉のエキセントリック能力も重要です。

ある程度ふくらはぎの筋肉で負荷を受けながら足首のエキセントリック動作ができないと、足首が曲がらず膝が前に出ないグッドモーニング型スクワットになりやすいです。ふくらはぎの筋肉のエキセントリック動作はスクワットで鍛えにくいので、例えば、壁を手で押しながら、膝を曲げてのエキセントリック重視のカーフレイズをすると良いでしょう(ふくらはぎの筋肉がニュートラルよりも伸びた状態で、膝を曲げて、コントロールされたエキセントリック動作をする)。



<骨格とフォームが合っていない>

別記事で詳しく書く予定ですが、骨格(腕、脚、胴体の長さのバランス)によっては、コンベンショナルデッドリフトで背中に負担がかかりやすい人がいます。

・胴体が長くて腕と脚が短い体型
スタート時点のかがみが深くて窮屈、胴体が長いのでそれだけ体幹の負担が大きい(モーメントアームが大きくなる)。
→ラックプル、スモウデッドリフト、もしくは尻を後ろに落としてから上げるスクワット型ナローデッド(ストロングマンの選手に多いフォーム)。

・脚と胴体の長さは普通だけど腕が短い体型
スタートポジションでの尻の位置がかなり高くなり、上半身の傾きが水平に近くなって体幹の負担が大きい。
→ラックプル、スモウ。

・長身で大腿骨が長い体型
脚がバーにぶつからないようにすると上半身の傾きが水平に近くなって体幹の負担が大きい。
→ラックプル、スモウ、トラップバー。大谷翔平選手がこの体型です。

動画:デッドリフト225㎏を上げる大谷翔平
https://www.youtube.com/watch?v=2BHj8t6Ml5Q



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