11/08/2020

睡眠不足とカフェインの摂取がトレーニングボリューム与える影響

(1)Acute Caffeine Ingestion's Increase of Voluntarily Chosen Resistance-Training Load After Limited Sleep
https://www.researchgate.net/publication/221846407_Acute_Caffeine_Ingestion's_Increase_of_Voluntarily_Chosen_Resistance-Training_Load_After_Limited_Sleep

睡眠不足とカフェインの摂取がトレーニングボリュームにどのような影響を与えるか調べた研究を紹介します。

実験内容

・被験者
ラグビーのプロ選手
男性16人
平均21歳
身長185cm
体重97kg
スクワット1RM 170-210kg
ベンチプレス1RM 130-170kg
ベントロー 110-130kg

・グループ分け
- 睡眠十分+プラシーボ
- 睡眠不足+プラシーボ
- 睡眠十分+カフェイン
- 睡眠不足+カフェイン
被験者16人を4つのグループに分けるのではなくて、被験者全員が上の4つの条件で1回ずつトレーニングをおこなう。
睡眠十分は8時間以上の睡眠、睡眠不足は6時間以下の睡眠。
カフェインはトレーニングの1時間前に4mg/体重kgを摂取。


・トレーニング内容
ベンチプレス、スクワット、ベントローの3種目
85%1RM、4セット
各セットなるべく多くのレップ数をおこなう。ただし限界まで(レップが完遂できなくなるまで)は行わない。
セット間インターバル90秒 種目間インターバル3分
トレーニングボリュームは、重量×レップ数×セット数で算出。

・結果
睡眠が十分でも不足していても、カフェインを摂取したほうがプラシーボに比べてトレーニングボリュームが増えた。[睡眠十分+プラシーボ]と[睡眠不足+カフェイン]では有意差なしという結果になった。睡眠不足の場合はカフェインを摂取することでトレーニングボリュームの低下を防げるようだ。




被験者16人のうち8人がカフェインへの反応が高かった。カフェインへの反応が高い8人は、睡眠が十分でも不足していてもカフェイン摂取により大幅にトレーニングボリュームが増えた(下図の赤線)。カフェインへの反応が低い8人は、睡眠十分でも睡眠不足でもカフェインを摂取してもプラシーボに対して有意差が出なかったが、睡眠不足の状況では効果量が大きく、睡眠不足の時はカフェイン摂取したほうがトレーニングボリュームが増えそうと言える(下図の緑線)。





実践への応用

どういう状況でカフェインを摂取すると良いのか

個人差はありますが、睡眠十分の時も睡眠不足の時も、カフェインを摂取することでトレーニングボリュームを増やせそうです。今回の研究(1)や他の研究(2)を見ると、カフェイン摂取でボリュームを増やしやすいのはスクワットやレッグプレスといった下半身種目のようです。

ただ、トレーニングボリュームを増やすために毎回のトレーニングでカフェインを摂取すべきかどうかは少し考えたほうが良いと思います。1回のトレーニングボリュームを増やしても次のトレーニングまでに回復できるのかという問題があります。また後述するカフェイン耐性の問題もあります。個人的には、トレーニングボリュームを増やしたい場合は、セット数を増やせば良いと思います。(1)の研究では、各種目4セット固定でレップ数をできるだけ増やすという条件ですが、実際のトレーニングでは、睡眠十分ならセット数を増やすのは容易でしょう。

睡眠不足の状況だと、個人的な体感ではセット数を増やしていくのがキツイですし、無理にセット数を増やすとレップ数が大きく低下しやすいので、睡眠不足の時にカフェインを摂取するのはアリだと思います。

カフェイン摂取で高い反応を示す人は、普段からカフェインを多く摂取している人の傾向があるようです。実験では、条件を揃えるために実験外でのカフェイン摂取を制約しますが、それにより普段から多くのカフェインを摂取している人は、一時的なカフェイン絶ちで感受性が高まり、実験で高い反応を示す可能性があります。また有酸素運動能力についての研究ですが、毎日続けてカフェインを摂取していくとエルゴジェニック効果が低下しカフェインへの耐性が出てくるという研究(3)もあります。ここぞという時にカフェインの効果を得たい場合は、常にカフェインを摂取するのではなくて、カフェイン摂取量に波をつけると良いかもしれません。


長期的な視点でのトレーニングと回復

実験でのカフェイン摂取量は4mg/体重kgで、体重75kgの人なら300mgと多量です。コーヒー1杯のカフェイン含有量が50-100mgくらいです。夕方以降のトレーニング実施時に多量のカフェインを摂取すると、その夜の睡眠に悪影響が出るかもしれません。

月曜から金曜の日中に仕事、土日が休みのスケジュールの人を想定して、トレーニングと回復について少し考えてみます。平日の仕事が忙しくて睡眠不足のときは、カフェイン摂取で仕事の後のトレーニングのボリュームを確保するのがベストな選択かはわからないです。睡眠不足のときはトレーニングを短く軽めにして、睡眠時間を確保したほうが良いかもしれません。例えば、

(a)平日夜にカフェインを摂取しハードトレーニング→その夜も睡眠不足
(b)平日夜にカフェイン無しで短時間軽めのトレーニング→少しでも睡眠を増やす

の2ケースを考えると、どちらが良い適応を得られるのかわからないです。

金曜まで忙しくて睡眠不足で、土曜の昼間にトレーニングするといった状況なら、カフェインを摂取してトレーニングボリュームを確保するのも良い選択だと思います。


睡眠不足のときの種目選択

(1)の研究では、睡眠不足だとベントローよりもスクワットやベンチプレスのほうがトレーニングボリュームが低下しています。これは自分の体感とも一致しています。睡眠不足だとBIG3のボリュームが特に低下しやすいと感じます。

全身の筋肉を協調させて強い力を発揮する必要のある種目は、睡眠不足で重量やボリュームが低下しやすい感じがするので、睡眠不足の時はマシンやアイソレート種目をメインにすると良いかもしれません。睡眠不足だと集中力も低下しやすいので、BIG3の高重量は怪我リスクの面でも避けたほうが良いと思います。


ホルモンレベル

(1)の研究ではテストステロンとコルチゾールの測定もしていて、カフェインを摂取したほうがこれらのホルモンレベルが上昇しやすいという結果になっています。おそらくカフェインは身体のエネルギー動員を促進する作用があるので、一時的なエネルギー動員に関連するホルモンのレベルが上昇するのでしょう。短いインターバルでのトレーニングでも、これらのホルモンや成長ホルモンのレベルが一時的に上昇しやすいですが、長期的な筋肥大を促進するわけではないです。体脂肪の分解・燃焼の観点では、これらのホルモンレベルの上昇は意味があると思いますが、筋肥大といった長期的な適応の面では気にしなくて良いと思います。



<参考文献>
(1)Acute Caffeine Ingestion's Increase of Voluntarily Chosen Resistance-Training Load After Limited Sleep
https://www.researchgate.net/publication/221846407_Acute_Caffeine_Ingestion's_Increase_of_Voluntarily_Chosen_Resistance-Training_Load_After_Limited_Sleep

(2)Time course of tolerance to the performance benefits of caffeine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6343867/

(3)Time course of tolerance to the performance benefits of caffeine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6343867/

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