11/04/2020

シクリカル・ケトジェニックダイエットの最新研究

シクリカル・ケトジェニックダイエットの最新研究が出てきたので紹介します。

(1)The Influence of Cyclical Ketogenic Reduction Diet vs. Nutritionally Balanced Reduction Diet on Body Composition, Strength, and Endurance Performance in Healthy Young Males: A Randomized Controlled Trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7551961/

ケトジェニックダイエットとシクリカル・ケトジェニックダイエットの説明

ケトジェニックダイエットは、炭水化物の摂取を極度に制限する食生活のことです。一日の炭水化物の摂取量を30g以下にするのが目安です。炭水化物が少ないため身体は脂質ベースの代謝に移行し、脂質と脂質から生成されるケトン体により消費エネルギーの大部分を賄うようになります。詳しく知りたい方は、関連記事を参考にしてください。

関連記事:[書籍] The Ketogenic Diet

ケトジェニックダイエットを続けると、体内のグリコーゲンが少なくなり、強度の高い運動をおこなうのが困難になります。運動能力を維持したい場合や、筋肉量を維持したい場合は、減量中も強度の高い運動をおこなっていく必要があります。

そこで考え出されたのが、炭水化物を制限するケトジェニックダイエットをベースにしつつ、定期的に炭水化物の摂取量を増やすことで高強度の運動をおこなえるようにするシクリカル・ケトジェニックダイエットです。

 

なぜケトジェニックダイエットなのか

減量においてのケトジェニックダイエットのメリットは、体重を減らしやすいことです。食材がかなり制限されるため食べる量が減りやすいのに加えて、タンパク質と脂質を大量に食べるのは大変なので、自然とカロリー不足になりやすいです。また、グリコーゲンレベルが低下することで水分が抜けやすく、それも体重減少の一因になります。それと、いったん慣れると食欲のコントロールが容易になり、減量を続けやすいです。

運動パフォーマンスの面でもケトジェニックダイエットが注目されています。ケトジェニックダイエットを続けることで脂質利用能力が向上し、持久系運動のパフォーマンスが向上することが期待されています。体内のエネルギー貯蔵量は、炭水化物(グリコーゲン)よりも脂質のほうがはるかに多く、脂質利用能力を高めることで炭水化物の利用を節約し、それが長時間の持久系運動のパフォーマンスの向上につながるのではないかというロジックです。

今回の研究(1)では、シクリカル・ケトジェニックダイエットが体組成変化と運動能力の面で、普通のカロリーカットダイエットに比べて優位性があるのかどうかを調べています。



実験概要

・被験者
若い男性でレジスタンストレーニング歴あり。体育大学内とインターネット上で募集

・実験期間
8週間

・グループ分け
CKD(Cyclical Ketogenic Diet)グループと、普通のカロリーカットダイエット(Reduction Diet)グループ。

・食事
両グループとも一日あたり500kcalのカロリー不足に設定。

<CKDグループ>
週5日:炭水化物30g以下、タンパク質1.6g/kg/day、残りの摂取カロリーを脂質
週2日:炭水化物70%、タンパク質15%、脂質15%

<普通のカロリーカットダイエット>
タンパク質15%、脂質30%、炭水化物55%
(仮に摂取カロリー2500kcal、体重90kgで計算するとタンパク質摂取量は1.0g/kg/day)

・トレーニング内容
レジスタンストレーニングを週3回実施。種目は、ベンチプレス、レッグプレス、ラットプルダウン。1回のトレーニングが60分。
トレーニング強度は最大限努力といった表現で、具体的な重量やセット数やレップ数は書かれていない。毎回のトレーニングで3種目なのか、1回のトレーニングで1種目なのかも書かれていない。

有酸素運動を週3回実施。30分間のランニングで、心拍数130-140/分の強度。

・結果
<体組成>
生体インピーダンス式の体組成計で測定。CKDグループは実験開始前の体脂肪率が14.5%、普通のダイエットグループが17.9%。CKDグループのほうが筋肉量が多く減っていて、体脂肪量があまり減っていない。水分量変化の影響もあるだろうし、開始時点での体脂肪率の差もあるだろうけど、それを考慮してもCKDグループのほうが体組成変化の面では良くない結果だと考えられる。減量時に重要なタンパク質摂取量は、普通のダイエットグループのほうが少ないのだが、それでも普通のダイエットグループのほうが良い体組成変化になっている。

体組成変化
グループ 体重 筋肉量 体脂肪量 水分量
CKD -4.6kg -1.8kg -1.9kg -2.2kg
普通のダイエット -4.5kg -0.4kg -4.0kg -0.3kg

 

<ストレングス>
普通のダイエットグループのほうがストレングスが向上していて良い結果。実験開始前のベンチプレス1RMはCKDグループが90kg、普通のダイエットグループが84kg。他の種目も普通のダイエットグループのほうが実験開始前の1RMが低くて伸びしろの面では有利だが、大幅な差ではないので、普通のダイエットのほうがストレングス面で良い結果だったと考えられる。

ストレングス変化
グループ ベンチプレス1RM ラットプルダウン1RM レッグプレス1RM
CKD 0kg +1.8kg +4.0kg
普通のダイエット +3.5kg +4.8kg +12.2kg

 

<有酸素運動能力>
普通のダイエットグループのほうが高強度の運動能力が向上傾向で良い結果。



コメント

体組成変化の面でも、運動パフォーマンスの面でも、CKDグループは普通のダイエットグループよりも良くない結果になりました。この研究では栄養とトレーニングのタイミングを合わせる、例えば炭水化物の摂取を増やす日にレジスタンストレーニングを行うといったことはしていないと思われるので、タイミングを合わせたCKDならまた別の結果になるのかもしれません。しかし、この研究の結果を見ると、運動をする人は持久系でもストレングス系でも、トレーニングと栄養のタイミングを合わせないCKDはやらないほうが良いですね。リフィードの研究では、栄養とトレーニングのタイミングを合わせなくても良い結果でしたが、CKDは良いところが無いです。

関連記事:リフィードの研究

栄養とトレーニングのタイミングをあわせたCKDは、筋トレの分野では理論的なものは提唱されています。ボディビルのコンテストなどで低い体脂肪率を目指す場合は、男性だと体脂肪率10%くらいから体脂肪が分解されにくくなってきます。炭水化物の摂取を制限すると、ホルモンレベルの関係から、この頑固な脂肪が分解されやすくなる可能性があります。これを利用して、ケトジェニックフェーズではグリコーゲンを枯渇させつつ低強度有酸素運動をおこなって頑固な脂肪の分解・燃焼を目指しつつ、炭水化物のリフィードフェーズで強度の高い筋トレをおこなって筋肉量の維持を目指すというダイエットプログラムが考えられています。

関連記事:The Ultimate Diet 2.0 メモ

ただ、実際にこのようなやり方で実験をおこなった研究は現時点では無いと思います

CKDではなくて、ケトジェニックダイエットとレジスタンストレーニングを組み合わせた研究はいくつかあります。パワー・ストレングス系の競技で、大幅なカロリー不足にしないケトジェニックダイエットをおこなった場合は、体組成や運動パフォーマンスに悪影響が出にくいようです(2)(3)(4)。短時間・高強度の運動では主にATP/PCr系を使用するため、ケトジェニックダイエットの影響が出にくいと考えられます。これらの研究では、ケトジェニックダイエットと無制限の食事を比較していて、ケトジェニックダイエットのほうが自然と体重が減りやすいという結果のものが多いです。個人的には、マクロ栄養素を管理した普通の減量をしたほうが、食事の用意も高強度トレーニングの実施も容易なので、これらの競技であえてケトジェニックダイエットを採用するメリットはほとんど無いと思います。

運動時間が長くなってきて、無酸素解糖系~高強度有酸素の運動になると、ケトジェニックダイエットの悪影響が出る感じです。脂質ベースの代謝で脂質利用能力を高めても、低炭水化物の食事で炭水化物利用能力が低下して、無酸素解糖系~高強度有酸素運動のパフォーマンスが低下するようです(5)。マラソンや競歩といった長距離の持久競技でも、かなりの強度の有酸素運動が続きますし、途中で炭水化物の補給もおこなうので、炭水化物の利用能力は重要だと思われます。

体脂肪率が高い人がケトジェニックダイエットで体重を減らせば、長距離走などの持久系運動は体重が軽いほうが有利なのでパフォーマンスは上がります。あと体重が減れば、体重あたりの有酸素運動能力の数値(VO2max/kg)も向上します。しかし、代謝メカニズム面でケトジェニックダイエットが運動パフォーマンスを上げるとしたら、無補給での100km走といった極端な状況のみだと考えられます。

ちなみに持久系運動の分野では、炭水化物の摂取をサイクルし、高炭水化物と高強度の運動を合わせる、低炭水化物と低強度運動を合わせることで、運動パフォーマンスを向上させることが模索されています。研究の数は少ないですが、うまく持久能力が上がったケースもあるので、持久系運動の分野では有望な方法のようです(6)。

以上、まとめますと、

・ケトジェニックダイエットでの減量は、運動をする人にはあまりおすすめできません。

・シクリカル・ケトジェニックダイエットは、トレーニングと栄養のタイミングを合わせないなら、おすすめできません。

・トレーニングと栄養のタイミングを合わせたシクリカル・ケトジェニックダイエットは、極度に低い体脂肪率を目指す人がおこなうと効果があるかもしれません。体脂肪率が普通以上の人がおこなっても、手間がかかるだけであまり意味がないでしょう。

 

 

<参考文献>
(1)The Influence of Cyclical Ketogenic Reduction Diet vs. Nutritionally Balanced Reduction Diet on Body Composition, Strength, and Endurance Performance in Healthy Young Males: A Randomized Controlled Trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7551961/

(2)The Effects of Ketogenic Dieting on Body Composition, Strength, Power, and Hormonal Profiles in Resistance Training Males
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28399015/

(3)The Three-Month Effects of a Ketogenic Diet on Body Composition, Blood Parameters, and Performance Metrics in CrossFit Trainees: A Pilot Study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29910305/

(4)A Low-Carbohydrate Ketogenic Diet Reduces Body Mass Without Compromising Performance in Powerlifting and Olympic Weightlifting Athletes
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30335720/

(5)Low carbohydrate, high fat diet impairs exercise economy and negates the performance benefit from intensified training in elite race walkers
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5407976/

(6)Fuel for the Work Required: A Theoretical Framework for Carbohydrate Periodization and the Glycogen Threshold Hypothesis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5889771/

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